愛して欲しいと言えたなら

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対価の罪

対価の罪・・・その6

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う~ん・・・困ったわ。
でも、ここで夏樹さんに電話をしなければ、それはそれで、変に疑われてしまいそうだし。

かといって、電話をしたらしたで・・・
電話の向こうにいるのは、あの夏樹さんよ?
夏樹さんの事だから何を言い出すか分かったもんじゃない・・・そう思う私はきっと正しい!

「とりあえず、電話してみた方がいいと思いますよ?」

「そうね・・・そうよね・・・今よね、電話するのは、今よね」

「裕子さん・・・?大丈夫ですか?」

「あっ、ははは・・・大丈夫!大丈夫!。ただ、なぜか、いつも緊張しちゃうのよ・・・はは」

「よっぽど怖い人なんですね、夏樹さんっていう人は?」

「ははは・・・怖いっていうんじゃなくて、ただの変態よ!変態!」

「変態なんですか・・・?」

「あっ・・・いえ、そうじゃなくてね・・・違うのよ!違うの・・・ね・・・分かるでしょ?」

「分かるでしょ?って、言われても・・・」

「あっ、そうよね!それは、そうよね・・・。確かに、そうだわね・・・。あはは・・・は」

「ふ~ん・・・それじゃ、電話してみましょ?」

「えっ?・・・そうね・・・そうよね」

んもう~、どうして、こうなっちゃうのかしら?
電話するのはいいけど、でも、電話の相手はあの夏樹さんよ?・・・あの夏樹さんなのよ?

普通に電話に出てくれればいいんだけど・・・可能性はゼロのような・・・。
とはいえ、この状況では裕子には夏樹に電話をしないという選択肢はもはや残されていなかった。

裕子は、渋々というより、恐る恐る、夏樹の連絡先のボタンを押してみる。
(お願いだから普通に出てね!)と、
呼び出し音を聞きながら一人願う、裕子の耳元で呼び出し音が止まった。

「あら?愛しい裕子ちゃんじゃない?今度は、どこにキスをして欲しいの?」

あ~ん、もう~!まったく!
どうして、この人は、まともに電話に出れないのかしら?

「ちょっと夏樹さん?今はダメなの!今はダメなのよ!」

「ふ~ん・・・今じゃなきゃいいわけね?雪子に言っちゃおうかしら?」

「あっ、そうじゃなくてね。違うのよ!違うの!」

「違うの?それじゃ、雪子に言っちゃってもいいわけ?」

「何を言ってるのよ、そんなのダメに決まってるでしょ?雪子って怒るととっても怖いんだから!もう!」

と言った、裕子がハッとした・・・。
夏樹の声に舞い上がっていた裕子だったのだが・・・
そのすぐ隣で聞き耳を立てている愛奈が、興味津々の瞳で裕子を見つめているのである。

「まったく、もう~。それよりも、雪子から夏樹さんの方に連絡とかなかった?」

「なかった?あら、あんた、いつから、あたしにため口をきくようになったの?ふふっ、でも、そんな裕子も可愛いから好きよ!」

「えっ?いえ、あの・・・そうじゃなくて。あのね、雪子がね、雪子がいなくなったのよ!」

「雪子が・・・?な~に、もしかして、逃亡でも計ったのかしら?」

「もう、夏樹さんったら、そんな呑気な・・・」

「何、言ってるのよ。そんなの、あんたも分かってたんじゃないの?」

「それは、そうだけど・・・でも・・・」

「な~に?それで、雪子があたしのところに来ているんじゃないかって思ったの?」

「ええ、もしかしたらって・・・」

「雪子は、来てないわよ」

「それじゃ、連絡は?雪子から、何か連絡とかもないの?」

「ないわよ。でも、どうして、それで、あたしのところにって思ったの?」

「雪子がね?夏樹さんに会いに行くって・・・」

「違うでしょ?会いに行くではなくて、会わなければいけない・・・じゃないかしら?」

(会わなければいけない)・・・
裕子には、その言葉を口にした時の夏樹の声が少し変わったような気がした。

「えっ?どうして、それを?」

「なんとなくね。でも、あやつの事だから、きっと、連絡はよこさないと思うわよ」

やっぱり、そうだわ。
夏樹さんと会話していると、時々、雪子の呼び方が変わるけど。

会話の中で、雪子から(あやつ)に、そして、あやつから(雪子)に、呼び方が変わるのは、
雪子の心の中を真っすぐに見つめようとするから・・・。違う、夏樹さん?

だから、今も(会いに行くではなくて)と、言った時の声と、
(会わなければいけない)と言った時の声が違うのも、
雪子がとった行動の意味を、真っすぐに見つめようとするから・・・。

いえ、きっと、夏樹さんには、雪子がとった行動の意味が分かるから・・・。でしょ、夏樹さん?

とはいえ、この期に及んでも、ほんと違和感のない女言葉で話すんだから、正直感心しちゃうわ。
いえいえ、それより感心するのは、夏樹さんとの会話に緊張しているはずなのに、
なぜか、こういう事に関してだけは、妙に頭の回転が良く回る、私の思考回路の方かも。

「よこさないと思うわよって?どうして、そんな事が分かるの?」

「あやつは、そういう子だからよ」

「そんな・・・それじゃ、いったい・・・」

「ふふっ、その慌てぶりだと、離婚届でも残していなくなったのかしら?」

「夏樹さん知ってたの?」

「対価の罪・・・」

「えっ・・・?」

対価の罪・・・
そう言った夏樹の声は、裕子も知っている懐かしいあの頃の夏樹の声だった。

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