愛して欲しいと言えたなら

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対価の罪

対価の罪・・・その4

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「でも、雪子ったら、どうして離婚届なんて・・・。夏樹さんに会いに行くだけだって言ってたのに?」

「夏樹さん・・・って、言うんですか?」

「あっ、そうね!そうだったわね。まだ、愛奈ちゃんにちゃんと言ってなかったわね!」

「はい。以前にちらっと聞いたくらいです」

「雪子が会いに行くって言っていたあの人の名前は、柏木夏樹さんっていうの」

「柏木夏樹さん・・・」

「ええ、そうよ。この世界で誰よりも雪子を愛した人・・・。きっと、今でも・・・」

誰に語りかけるわけでもなく、誰かに答えを求めるわけでもなく。
定まらない視線のようにつぶやく裕子の顔を、愛奈は不思議そうな瞳で見つめていた。

「あら、どうしたの?私の顔に何かついてるの?」

「いえ、なんでもありません」

「ふふっ、そうお・・・・でも、愛奈ちゃんってモテるでしょ?」

「えっ?どうしてですか?」

「さっき見たいな瞳で見つめられたら、男なんてイチコロなんじゃないかしら?」

「私、そんな変な目をしていたんですか?」

「変な目じゃなくて、子猫みたいに可愛い瞳。でも、愛奈ちゃん、ほんとに彼氏とかいないの?」

「そんな人はいないでありますよ!」

「いないでありますよ!って、ちょっと愛奈ちゃん?」

「へへっ・・・。裕子さんにとっての夏樹さんって人は、絶対的な人なんですね」

「えっ・・・?」

ちょっと愛奈ちゃん。いきなり、そっちに話を振らないで欲しいんだけど・・・。
思わず、ドキッとしちゃったじゃない・・・もう。

「ちょっと愛奈ちゃん?どうしたの急に・・・?」

「お母さんの行き先が、夏樹さんっていう人のところだからなのかな?私も会ってみたいな・・・なんちって」

「ちょっと・・・」

「裕子さんって、お母さんの事を、全然、心配していないんですよね」

「えっ・・・?そんな事はないわよ」

「そうかな~・・・」

「そういう愛奈ちゃんはどうなの?」

「でも、お母さんの行き先が夏樹さんという人のところって分かってるなら、裕子さんもお母さんの行き先が分かってるっていう事ですよね」

「それが、分からないのよ」

「どうしてですか?」

「夏樹さん引っ越したのよ。それで、引っ越し先を知ってるのは雪子だけなの」

「裕子さんは教えてもらえなかったんですか?」

「う~ん・・・何気なく落ち込む事を聞かないでね・・・。でも、まあ、雪子の行き先が夏樹さんのところなんだから、これはこれで一安心なのも確かなんだけど」

「連絡してみたらいいかも・・・?」

「えっ?誰に・・・?」

「誰にって、その夏樹さんっていう人にですよ」

「えっ・・・あっ、まあ・・・。まあ、そうね、そうよね、そうなのよね」

「ふ~ん・・・」

「なによ・・・。ふ~ん、なんて」

「ふふっ。もしかして?三角関係だったとかってあったりして」

「ちょっと愛奈ちゃん、それは飛躍しすぎよ。いくらなんでも、私にそういう趣味はないわよ」

「それは夏樹さんという人が、ほんとに女性だったとしたら・・・でしょ?」

 あっ・・・
 満塁ホームランを打たれた時のピッチャーの気持ちって、きっと、こんな感じかも・・・。

「もう、愛奈ちゃんたら。それじゃ、ちょっと見てみる?」

「あるんですか?」

「ええ、ちょっと待っててね!」

裕子は、そう言いながらバックの中からスマホを取り出すと、
ファイルの中から、夏樹が写っている写真を表示させて、それを愛奈に見せた。

「この人が夏樹さん・・・ですか?でも、マスクしてますよ?」

「まだ、疑ってるのね。それじゃ、マスクをしてない写真を出してみるわね!」

裕子はスマホを少し操作して、今度は、マスクをしていない夏樹の写真を愛奈に見せてみた。

「わっ?この人が夏樹さん・・・?」

「そうよ、この人が夏樹さんよ」

「うわ~っ、綺麗な人ですね」

う~ん・・・。そう言われると少し複雑な心境なんですけど・・・。

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