愛して欲しいと言えたなら

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対価の罪

対価の罪・・・その3

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しかし、今のこの状況なんだけど、どうしたらいいのかしら?
今の愛奈ちゃんに、その場しのぎで誤魔化してみても、
たとへ、この先ずっと、今のまま、しらを切り通したとしても、
もうすでに、雪子は、この家にはいないわけだし・・・。

それに、雪子が、離婚届まで残して家を出たという事は、
きっと、もう二度と、愛奈ちゃんたちの住むこの家には戻ってこないつもりなのだろうし。

「裕子さん?どうかしたんですか?」

「う~ん・・・どうしたらいいのかしら?って」

「お母さんの事ですか?」

裕子は、今の愛奈に話す話さないを考えるよりも、この先の愛奈の事が気になっていた。
確かに、愛奈は彼女なりに、母親である雪子の心情を理解しようとしているように見えるのだが。
事は、そう単純ではないからである・・・。
それは、愛奈の父親であり雪子の旦那の立場である。

長男の翔太君も愛奈ちゃんと同じで、とりあえずはもう大人なんだし何よりも男なのだから、
それほど、母親に対しての執着心は持っていないだろうし、
たとへ、この先、両親が離婚する事になったとしても、女々しく騒ぐ事もないと思うのよね。

問題は旦那の方。
今まで、良い家庭、良い家族、そして優しく可愛い妻に物分かりの良い子供たち。
それが、雪子が家を出たというだけで、
今まで作り上げてきた良い家庭、良い家族が、壊れちゃうわけだし。

何よりも、世間体を気にする旦那なのだから、旦那の実家や親せき、
それと、務めている職場での立場などなど、
数え上げれば、きりがないほどの恥をかくかもしれないわけでしょ?

このまま雪子の気持ちを尊重して、置いていった離婚届にポンと判を押すとは到底思えないし。
特に、良い旦那、良い父親を演じている男に限って、往生際が悪い男が多いしね。

その点、私の旦那の場合は普段が私の下僕みたいなものだし、それに私の・・・まあ、いいわ。
それよりも、やっぱり、愛奈ちゃんには話した方がいいのかもしれないわね。
ただ、問題はどこまで話をしたらいいのか?・・・なんだけど。

「ねえ、愛奈ちゃん・・・?」

「なんでしょうか・・・?」

「聞きたい?雪子の事・・・」

「やっぱり、何か知ってるんですね?」

ふふっ、やっぱり、まだ子供ね。
夏樹さんなら、そうは切り返してこないんだろうけど。
というか、私ったら、どうしてこうも夏樹さんと愛奈ちゃんを比べちゃうのかしら?

「ええ、愛奈ちゃんに嘘をついても、愛奈ちゃんは勘が鋭いからすぐにバレちゃうと思うの。だから、嘘は言わないわ。ただ、正直に言って、私も、今回の雪子の行動の全部を知っていたわけじゃないのよ。それでもいい?」

「あっ、はい・・・。でも、私はそんなに勘が鋭くなんてないですよ」

「でも、愛奈ちゃんを見てると、本当、あの人によく似ているわって思っちゃうわ」

「あの人って・・・?」

「ほら?愛奈ちゃんが、いつか、おじいちゃんのお見舞いに行った時に雪子が会っていたっていう」

「おじいちゃんの?って、あの、もしかして病院の駐車場での・・・ですか?」

「ええ・・・。実はね・・・雪子は、その女性に会いに行ったの」

「あの時の女の人に・・・ですか?」

「ええ、そうよ。確かに。愛奈ちゃんの言うように、雪子が、あの人に会いに行くのは知ってたけど、でも、いつ、会いに行くのかは知らなかったの」

「でも、どうして、あの時の女の人に会いに行くのに離婚届を置いていくんですか?」

「だから、私もビックリしたのよ!雪子が、私に言ったのは、あの人に会いに行く前に、旦那さんが変に心配しないように、あの人の写真を旦那さんに見せてから会いに行ってくるって。だから、私も、どうして離婚届?って、思ったのよ」

「というよりも、裕子さん、あの時の女の人を知っていたんですね」

「女の人?・・・そうね、知ってたわ。こめんね、隠していて。でも、雪子にも、誰にも知られたくない秘密くらいあってもいいでしょ?」

「何となく分かります。でも、あのお母さんがって?ホントに今でも信じられないんです」

「う~ん・・・それを言われると、私も、なんて答えたらいいのか、ちょっと悩んじゃうけど」

「でも、人はそれぞれだと思うんです。たとへ、その相手が女性だったとしても、それが、お母さんが選んだ生き方なら、私は応援したいなって思います」

いや・・・あのね・・・愛奈ちゃん?
ちょっと、夏樹さん。助けて欲しいんですけど・・・
(ヘックション!。ちょっと、くま===っ!!)
(また、誰か、あたしの悪口を言ってるみたいよ!や~ね~もう!)
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