愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
242 / 386
対価の罪

対価の罪・・・その2

しおりを挟む
でも・・・愛奈ちゃん、ショック!って感じとは、少し違うような気がするのよね。
さっき喫茶店で電話を受けた時も、ちょっと変だわ?って思っていたんだけど、今も、そうよね?

普通なら、どうしよう?どうしよう?って、
会話も支離滅裂な感じになると思うんだけど、なんか違うのよね。

とりあえず、玄関の前での立ち話もなんなので、愛奈の案内で室内へと入っていく。
玄関を上がってすぐの廊下を、少し進むと右側がリビングになっている。
一般的な建売住宅というのは、どこか殺風景な感じがするものなのだが、
妙に整理整頓がなされていると、余計に味気なさが温かみのない空気を漂わせているようである。

相変わらず、何もないというか、余計なものがないというか・・・。
まあ、言い方を変えれば、整理整頓されている綺麗な空間という事になるのかしら?
リビングへ入ると、少し長いテーブルが真ん中あたりに置いてある。
そして、そのテーブルを挟んで大きめのテレビ、その反対側には長いソファがある。

「それで、雪子が置いていったっていう離婚届は?」

「あっ、ここにあります。私が来た時は、そこのテーブルの上に置かれていたんですけど。もし、誰か帰ってきたら大変かと思って、私が持っていました」

「その方がいいわね!・・・。そういえば、愛奈ちゃん?雪子の部屋のパソコンとか確認してみたの?」

「あの・・・裕子さんは見ないんですか?」

「見ないって、何を・・・?」

「お母さんが置いていった離婚届?」

「見ても何も変わらないから。それよりも、パソコンの方は?」

「それが・・・」

「どうかしたの?」

「ないんです・・・」

「ない・・・?あっ、そっか、それもそうよね、確かノートパソコンだったわよね?」

「う~ん・・・この場合はどちらでしょう?」

「えっ・・・?なに?」

「裕子さんが、本当に何も知らなかったから慌ててるのか?それとも、お母さんが、何か行き先が分かるような、手がかりになるような物でも残していないか心配だったのか?な~んて」

「ちょっと、愛奈ちゃん?」

「へへっ・・・。裕子さんはコーヒーがいいですか?それともミルクティーの方がいいですか?」

「まったく、もう~・・・。愛奈ちゃんと同じのでいいわよ」

しかし、まあ・・・愛奈ちゃんって本当は夏樹さんの?だったりして?
時々、グサッとくるような事を言っても、
なぜか憎めないところなんて夏樹さんにそっくりなんだけど。

「ねえ、愛奈ちゃん?愛奈ちゃんは、お母さんがいなくなってショックじゃないの?」

「どうしてですか・・・?」

う~ん・・・その訊き返し方・・・普通は違うと思うんだけど・・・。

「どうしてって・・・だって、お母さんがいなくなったのよ?」

「そなのでありますか?」

「えっ・・・?」

「はい、今日はミルクティーにしてみましたので」

愛奈は、少しの笑みを浮かべながら、ミルクティーの入ったカップを裕子の前に置いた。

「ちょっと愛奈ちゃん?今の・・・?」

「なんでありますか?・・・な~んて。これって、いつも、お母さんがぬいぐるみさんとお話をする時に使う言葉なんですよね」

「そうなの・・・?」

さっきとは少し違う笑みを浮かべながら、
ミルクティーにお砂糖を入れる愛奈が、ぽつりと言葉を声にする。

「本当は・・・私ね、嬉しいんです」

「嬉しい・・・?」

「嬉しいっていうか、ほっとしたっていうか・・・」

「それって、雪子がいなくなったからって事に?」

「いえ、そうじゃなくて・・・。う~ん、なんて言ったらいいかな?」

「雪子が、雪子らしい生き方を選んだから?」

「ぬいぐるみさんとお話をしている時のお母さんって、とっても嬉しそうにお話をしているんですよ」

「雪子が、ぬいぐるみとお話をしているのを愛奈ちゃん見てたの?」

「いえ、見てはいないですけど、時々、話し声が聞こえたりしてたから」

「そうだったの・・・」

「でも、今の裕子さんの言葉で安心しました」

「私の言葉に?どうして・・・?」

「だって、さっき、お母さんがお母さんらしい生き方を選んだからって言ったから」

「ええ、確かにそう言ったけど。でも、それでどうして愛奈ちゃんが安心するの?」

「だって、その言葉って、少なくてもお母さんが悲観して家を出たわけじゃないって事ですよね?」

あっ・・・愛奈ちゃんの、この思考回路って、やっぱり夏樹さんだわ・・・。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...