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生きている矛盾
生きている矛盾・・・その19
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先ほどまで、少し難しい表情を浮かべていたマスターの顔が、
いつもの、優しい表情へと変わっていくのを、
何が起きているか分からない裕子は不思議そうに見つめていた。
「雪子様は、私にあるキーワードを提示していたんです」
「あるキーワード・・・?」
「はい、一つ目は(頑張って生きたね!と、伝えたかった)という言葉です、きっと、この言葉は、雪子様が夏樹様に一番に伝えたかった雪子様自身の心の言葉だと思われます。そして、それは同時に裕子様への感謝の言葉でもあるのでは?と、私には思われました」
「えっ・・・?どうして、私に・・・?」
「もう一度、夏樹様に会わせてくれた事への、雪子様なりの感謝の気持ちなのかもしれません」
「いえ・・・あの・・・」
「そして、その言葉は、決して自分の本心を見せなかった雪子様が、夏樹様への自分の想いを、初めて裕子様に伝えた言葉ではないでしょうか?」
「そうなのでしょうか・・・?」
マスターは、ニコニコしながら話を続けた
「そして、二つ目のキーワードになりますが、(夏樹さんという方は誰の生活も壊さないで終わりにする方法を選ぶと思う)という言葉です。この言葉には二つの意味がありました。ひとつは、私に彼女の事を思い出させてくれました。そして、少しですが、そんな私の過去を裕子様にお話しできた事で少し気持ちが楽になりました。誰かに、話す事で気持ちが楽になる事がありますが、それを話せるお相手に巡り合えるのは、とても難しい事です」
「雪子も、マスターの過去を・・・?」
「はい、以前に雪子様にもお話をした事がありました・・・。でも、雪子様は知っておられたのです。私の話し相手が雪子様では、私の気持ちが決して楽にはならないという事を」
「どうして、雪子ではダメなのですか?」
「同じような悲しみを背負った者同士では、光よりも闇を引き寄せてしまうものです」
「それじゃ、どうして私なんですか?」
「さあ、それは私にも分かりませんが、きっと、雪子様には分かっておられたのかもしれません」
「う~ん・・・」
「私に彼女を思い出させると同時に、この言葉には、私へのトラップも隠されていました」
「はい・・・?」
「いや~、私とした事が、雪子様の用意したトラップに見事に引っかかってしまいました」
そう言いながら、マスターはどこか嬉しそうにコーヒーを飲んでいた。
「私が、雪子様の仕掛けたトラップを見過ごしてしまったのは、(私を探さないで欲しい)という言葉でした。この言葉は、意外と盲点でした。この言葉というのは、普通に聞くと、とても意味深な言葉になります。ですが、見方を変えて聞きますと、意外とよく聞く言葉でもあるのです。ドラマでも映画でもそうですし、ですので、実際はそれほど気になるような言葉でもないんですよね」
「あの・・・出来れば、私にも分かるようにお願いしたいな~なんて」
「ははは、これはこれは重ね重ね申し訳ございません。実は、今の二つのキーワードに最後のキーワードを合わせると、ある言葉にたどり着くんです。いえ、ある言葉というより、雪子様が心に秘めた揺るぎない決意とでもいいましょうか」
「雪子の決意・・・ですか?」
「はい、雪子様はこう言っておられます・・・。(私は生きる方を選んだ)・・・と」
「生きる方を選んだ・・・。雪子が・・・本当でしょうか?」
「やはり、裕子様も、その事が一番心配だったのですね?」
「はい。実は、それで居ても立っても居られなくて、マスターに相談しようと」
「雪子様を一番に心配してくれる人、そして、雪子様にとって一番の幸せが何かを真剣に考えてくれる人。だからこそ、雪子様は、裕子様が、ここに足を運ばれるように仕向けたのかもしれません」
「私に・・・?」
「はい。雪子様は、裕子様に伝えたかったのだと思います・・・。(私は生きる方を選んだ)と、そう伝えたかったのではないかと」
「雪子が、私に・・・でも、それならそうと私に直接言えば・・・あっ・・・」
「そうです。もし、雪子様が、裕子様にその言葉を伝えたとしても・・・」
「きっと、私は、雪子の言葉を信じなかったかもしれませんね」
その時、テーブルの上に置いていた裕子のスマホから呼び出し音が鳴った。
裕子が、スマホを手に持って着信相手を確認すると愛奈からである。
何となく嫌な予感がした裕子は、マスターをチラッと見てからすぐに通話ボタンを押した。
「愛奈ちゃん、どうしたの?」
「あっ、裕子おばさん・・・お母さんがいなくなっちゃった」
いつもの、優しい表情へと変わっていくのを、
何が起きているか分からない裕子は不思議そうに見つめていた。
「雪子様は、私にあるキーワードを提示していたんです」
「あるキーワード・・・?」
「はい、一つ目は(頑張って生きたね!と、伝えたかった)という言葉です、きっと、この言葉は、雪子様が夏樹様に一番に伝えたかった雪子様自身の心の言葉だと思われます。そして、それは同時に裕子様への感謝の言葉でもあるのでは?と、私には思われました」
「えっ・・・?どうして、私に・・・?」
「もう一度、夏樹様に会わせてくれた事への、雪子様なりの感謝の気持ちなのかもしれません」
「いえ・・・あの・・・」
「そして、その言葉は、決して自分の本心を見せなかった雪子様が、夏樹様への自分の想いを、初めて裕子様に伝えた言葉ではないでしょうか?」
「そうなのでしょうか・・・?」
マスターは、ニコニコしながら話を続けた
「そして、二つ目のキーワードになりますが、(夏樹さんという方は誰の生活も壊さないで終わりにする方法を選ぶと思う)という言葉です。この言葉には二つの意味がありました。ひとつは、私に彼女の事を思い出させてくれました。そして、少しですが、そんな私の過去を裕子様にお話しできた事で少し気持ちが楽になりました。誰かに、話す事で気持ちが楽になる事がありますが、それを話せるお相手に巡り合えるのは、とても難しい事です」
「雪子も、マスターの過去を・・・?」
「はい、以前に雪子様にもお話をした事がありました・・・。でも、雪子様は知っておられたのです。私の話し相手が雪子様では、私の気持ちが決して楽にはならないという事を」
「どうして、雪子ではダメなのですか?」
「同じような悲しみを背負った者同士では、光よりも闇を引き寄せてしまうものです」
「それじゃ、どうして私なんですか?」
「さあ、それは私にも分かりませんが、きっと、雪子様には分かっておられたのかもしれません」
「う~ん・・・」
「私に彼女を思い出させると同時に、この言葉には、私へのトラップも隠されていました」
「はい・・・?」
「いや~、私とした事が、雪子様の用意したトラップに見事に引っかかってしまいました」
そう言いながら、マスターはどこか嬉しそうにコーヒーを飲んでいた。
「私が、雪子様の仕掛けたトラップを見過ごしてしまったのは、(私を探さないで欲しい)という言葉でした。この言葉は、意外と盲点でした。この言葉というのは、普通に聞くと、とても意味深な言葉になります。ですが、見方を変えて聞きますと、意外とよく聞く言葉でもあるのです。ドラマでも映画でもそうですし、ですので、実際はそれほど気になるような言葉でもないんですよね」
「あの・・・出来れば、私にも分かるようにお願いしたいな~なんて」
「ははは、これはこれは重ね重ね申し訳ございません。実は、今の二つのキーワードに最後のキーワードを合わせると、ある言葉にたどり着くんです。いえ、ある言葉というより、雪子様が心に秘めた揺るぎない決意とでもいいましょうか」
「雪子の決意・・・ですか?」
「はい、雪子様はこう言っておられます・・・。(私は生きる方を選んだ)・・・と」
「生きる方を選んだ・・・。雪子が・・・本当でしょうか?」
「やはり、裕子様も、その事が一番心配だったのですね?」
「はい。実は、それで居ても立っても居られなくて、マスターに相談しようと」
「雪子様を一番に心配してくれる人、そして、雪子様にとって一番の幸せが何かを真剣に考えてくれる人。だからこそ、雪子様は、裕子様が、ここに足を運ばれるように仕向けたのかもしれません」
「私に・・・?」
「はい。雪子様は、裕子様に伝えたかったのだと思います・・・。(私は生きる方を選んだ)と、そう伝えたかったのではないかと」
「雪子が、私に・・・でも、それならそうと私に直接言えば・・・あっ・・・」
「そうです。もし、雪子様が、裕子様にその言葉を伝えたとしても・・・」
「きっと、私は、雪子の言葉を信じなかったかもしれませんね」
その時、テーブルの上に置いていた裕子のスマホから呼び出し音が鳴った。
裕子が、スマホを手に持って着信相手を確認すると愛奈からである。
何となく嫌な予感がした裕子は、マスターをチラッと見てからすぐに通話ボタンを押した。
「愛奈ちゃん、どうしたの?」
「あっ、裕子おばさん・・・お母さんがいなくなっちゃった」
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