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生きている矛盾
生きている矛盾・・・その18
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でも、正直、驚いたわ。
まさか、マスターにそういう過去があったなんて。
確かに、何かあるのでは・・・とは、思ってはいたけど。
まもなくして、マスターがトレーに二人分のコーヒーカップを乗せて戻ってきた。
いつものコーヒーカップよりも、ひとまわり小さなコーヒーカップを裕子の前にそっと置いた。
そして、もう一つのコーヒーカップを自分の方へ置くとトレーを隣の座席の上の置く。
「このコーヒーカップ、いつものよりも小さいみたいですが」
「はい、これは、私の自分専用のコーヒーのためのカップなんです」
「マスター専用の・・・?」
「私以外の人に、このコーヒーをお出しするのは、裕子様が初めてになります」
「えっ・・・?いいんですか?」
「はい、何も入れずに、そのままどうぞ飲んでみて下さい」
裕子は、マスターに言われるまま、一口(ひとくち)、飲んでみたのだか・・・。
「ははは、苦いですか?」
「ええ・・・ちょっと」
そう言って、もう一口(ひとくち)、飲んでみたのだがやっぱり苦い・・・。
「今のでふたくちですね、それでは、騙されたと思って、もう一口(ひとくち)、飲んでみて下さい」
そう言われて、とりあえず、もう一口(ひとくち)飲んでみる・・・。
「あっ・・・」
「どうですかな・・・?」
「何て言ったらいいのかしら・・・苦い中にふわっとした甘い味が・・・」
「お気に召して頂けましたかな?」
「ええ・・・とても、素敵な味ですね!」
「それはとてもよかったです。初めは、ただ苦いだけのコーヒーを作って、一人の時に飲んでいたのですが・・・。きっと、あの日の彼女の姿を忘れないように、そして、何も出来なかった自分の愚かさを悔やみ続ける事で、自分を責め続けたいと、無意識の中で自分に言い聞かせていたのかもしれません」
マスターは、少し寂しそうな笑みを浮かべながらコーヒーを口にした。
「ですが、いつでしたか、忘れましたが、いつものように、この苦いコーヒーを作っていた時に、ある物をコーヒーの入っているカップの中に落としてしまったのです。まあ、別にいいかと思いまして、そのまま飲んでいたのですが、そしたら、先ほどの裕子様と同じように、三度目を飲んだ時に甘い味がふわっと現れたんです」
「ある物・・・ですか?」
「はい、その時に思ったんです。どんなに辛い想い出や忘れたい程の過去があったとしても、そんな日々の中にも、きっと、笑みを思い出すような嬉しいと思えた瞬間や、楽しいと思える出来事もあったのだと」
裕子は、マスターの言葉に返す言葉を探していると。
「私は、大きな勘違いをしていたのかもしれません」
「勘違い・・・?」
「はい・・・いえ、勘違いというより、私は、夏樹様を見誤っていたのかもしれません」
「夏樹さんを・・・?」
「はい。はじめ、私は、二人が持つ愛という名の感情の深さを考えていました」
「私も、そう思ってましたけど・・・違うのでしょうか?」
「私が見誤っていたかもしれないと申しましたのは、夏樹様の見ている視線の先なのです」
「夏樹さんの視線の先・・・?」
「はい。確かに、夏樹様は雪子様を見つめています。でも、その視線は、雪子様だけを見つめているわけではないのではないか?と、思えてしまうのです。」
「雪子だけではないといいますと・・・?」
「きっと、夏樹様の視界に入る全ての人・・・。ではないかと」
「それって、どういう意味なのですか?」
「私とした事がうかつでした。私などよりも、雪子様の方が、遥かに夏樹様を真っ直ぐに見ていました」
「あの・・・・」
「あっ、すみません、私が、見誤ったかもしれないと言いましたのは、雪子様のある言葉を裕子様から聞いた時なんです」
「私から・・・ですか?」
「はい。先ほど、裕子様が言った言葉ですが、雪子様は、夏樹様に会って(頑張って生きたね!)と、伝えたかったと・・・。その言葉を聞いた時に、もしかしたら、雪子様のその言葉には、ある意味において、謎を説く鍵なのではないだろうか?そして、そう思い始めると、私の中に少しの疑念が生まれました」
「はあ・・・と、言われましても・・・」
「雪子様はとても頭の良い人です。きっと、裕子様が私に会いに来る事を雪子様は知っていたのではないでしょうか」
「えっ・・・まさか?」
「実は、私も小説を読むのが好きでしてね。なにせ、若い頃は小説家になりたいと思っていたくらいですから」
「はあ・・・」
「ははは、すみません私事で・・・。でも、きっと、雪子様らしい私への謎解きのプレゼントなのかもしれません」
あの・・・私には全然分からないのですが・・・。
まさか、マスターにそういう過去があったなんて。
確かに、何かあるのでは・・・とは、思ってはいたけど。
まもなくして、マスターがトレーに二人分のコーヒーカップを乗せて戻ってきた。
いつものコーヒーカップよりも、ひとまわり小さなコーヒーカップを裕子の前にそっと置いた。
そして、もう一つのコーヒーカップを自分の方へ置くとトレーを隣の座席の上の置く。
「このコーヒーカップ、いつものよりも小さいみたいですが」
「はい、これは、私の自分専用のコーヒーのためのカップなんです」
「マスター専用の・・・?」
「私以外の人に、このコーヒーをお出しするのは、裕子様が初めてになります」
「えっ・・・?いいんですか?」
「はい、何も入れずに、そのままどうぞ飲んでみて下さい」
裕子は、マスターに言われるまま、一口(ひとくち)、飲んでみたのだか・・・。
「ははは、苦いですか?」
「ええ・・・ちょっと」
そう言って、もう一口(ひとくち)、飲んでみたのだがやっぱり苦い・・・。
「今のでふたくちですね、それでは、騙されたと思って、もう一口(ひとくち)、飲んでみて下さい」
そう言われて、とりあえず、もう一口(ひとくち)飲んでみる・・・。
「あっ・・・」
「どうですかな・・・?」
「何て言ったらいいのかしら・・・苦い中にふわっとした甘い味が・・・」
「お気に召して頂けましたかな?」
「ええ・・・とても、素敵な味ですね!」
「それはとてもよかったです。初めは、ただ苦いだけのコーヒーを作って、一人の時に飲んでいたのですが・・・。きっと、あの日の彼女の姿を忘れないように、そして、何も出来なかった自分の愚かさを悔やみ続ける事で、自分を責め続けたいと、無意識の中で自分に言い聞かせていたのかもしれません」
マスターは、少し寂しそうな笑みを浮かべながらコーヒーを口にした。
「ですが、いつでしたか、忘れましたが、いつものように、この苦いコーヒーを作っていた時に、ある物をコーヒーの入っているカップの中に落としてしまったのです。まあ、別にいいかと思いまして、そのまま飲んでいたのですが、そしたら、先ほどの裕子様と同じように、三度目を飲んだ時に甘い味がふわっと現れたんです」
「ある物・・・ですか?」
「はい、その時に思ったんです。どんなに辛い想い出や忘れたい程の過去があったとしても、そんな日々の中にも、きっと、笑みを思い出すような嬉しいと思えた瞬間や、楽しいと思える出来事もあったのだと」
裕子は、マスターの言葉に返す言葉を探していると。
「私は、大きな勘違いをしていたのかもしれません」
「勘違い・・・?」
「はい・・・いえ、勘違いというより、私は、夏樹様を見誤っていたのかもしれません」
「夏樹さんを・・・?」
「はい。はじめ、私は、二人が持つ愛という名の感情の深さを考えていました」
「私も、そう思ってましたけど・・・違うのでしょうか?」
「私が見誤っていたかもしれないと申しましたのは、夏樹様の見ている視線の先なのです」
「夏樹さんの視線の先・・・?」
「はい。確かに、夏樹様は雪子様を見つめています。でも、その視線は、雪子様だけを見つめているわけではないのではないか?と、思えてしまうのです。」
「雪子だけではないといいますと・・・?」
「きっと、夏樹様の視界に入る全ての人・・・。ではないかと」
「それって、どういう意味なのですか?」
「私とした事がうかつでした。私などよりも、雪子様の方が、遥かに夏樹様を真っ直ぐに見ていました」
「あの・・・・」
「あっ、すみません、私が、見誤ったかもしれないと言いましたのは、雪子様のある言葉を裕子様から聞いた時なんです」
「私から・・・ですか?」
「はい。先ほど、裕子様が言った言葉ですが、雪子様は、夏樹様に会って(頑張って生きたね!)と、伝えたかったと・・・。その言葉を聞いた時に、もしかしたら、雪子様のその言葉には、ある意味において、謎を説く鍵なのではないだろうか?そして、そう思い始めると、私の中に少しの疑念が生まれました」
「はあ・・・と、言われましても・・・」
「雪子様はとても頭の良い人です。きっと、裕子様が私に会いに来る事を雪子様は知っていたのではないでしょうか」
「えっ・・・まさか?」
「実は、私も小説を読むのが好きでしてね。なにせ、若い頃は小説家になりたいと思っていたくらいですから」
「はあ・・・」
「ははは、すみません私事で・・・。でも、きっと、雪子様らしい私への謎解きのプレゼントなのかもしれません」
あの・・・私には全然分からないのですが・・・。
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