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生きている矛盾
生きている矛盾・・・その16
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マスターの言葉に、裕子は、テーブルの上のスマホを手に取ると、夏樹の写真を見返してみる。
「う~ん・・・私には、綺麗な女性にしか見えないんですが・・・でも、夏樹さんの写真を初めて雪子に見せた時に、すぐに夏樹さんだって分かったって言うんですよ。私なんか全然分からなくて、夏樹さんに実はねって打ち明けられて初めて分かったくらいだったのに、雪子は写真を一瞬見ただけで、すぐに夏樹さんだって分かったって言うんですから、少なからずショックでしたけど」
「はは・・・そうでしたか」
「それで、雪子に訊いたんです。どうして、夏樹さんだって分かったのって。そうしたら、目だよって、さらりと言っていましたけど。もしかして、その時に夏樹さんの置かれている状態とかも分かったのでしょうか?」
「おそらくは・・・確か、以前に裕子様から、その後に、雪子様が夏樹様と連絡を取り合うようになったとお聞きしておりましたが」
「はい。私がメルアドを教えたんですけど。でも、最初に連絡を取ったのは、夏樹さんからではなくて、雪子の方からメールをしたらしいんですよ」
「やはり、そうでしたか。きっと、雪子様は確かめたかったのかもしれませんね」
「夏樹さんの・・・?」
「はい。そして、雪子様が最初に感じた不安が、確信へと繋がったのだと思われます」
「それで、夏樹さんに、それを確かめるために・・・。でも、私には全然分からなったのですが、どうして夏樹さんが寂しい瞳をしているってマスターにも分かったのですか?」
「写真に写っている夏樹様の瞳は、同じような瞳を見た事がない人には分かりにくいので、裕子様でなくても誰も分からなかったと思います。ただ、私は、一度、見ているんです。写真に映っている夏樹様と同じ瞳をした人を」
「それって、もしかして」
「はい、彼女です。私と会った最後の夜に見た彼女の瞳も、裕子様のスマホに写っている夏樹様と同じ瞳をしていました・・・。この歳になった今でも、あの夜の彼女の瞳は忘れられません」
「そうだったんですか・・・」
「もしかしたら、雪子様にとっての夏樹様は、まるで、自分自身を鏡に映しているかのように見えているのかもしれません」
「何となく、少し怖いような・・・。でも、雪子が、突然、夏樹さんに会いに行った時に、夏樹さんは、そんな雪子の事をどう思ったのでしょうか?」
「確か、裕子様が、以前に言っておられましたと思いますが、雪子様は、夏樹様にすごく甘えていたと」
「はい、近くで見ていた私でさえ驚いたというか、恥ずかしかったというか」
「きっと、夏樹様は、雪子様が自分にさよならを告げにきたのだと思われたのではないでしょうか?」
「どうして、そう思われるのですか?」
「最後に甘えるだけ甘えて・・・かと、思われます」
「それなら、どうして・・・」
「人生は一度しかないという無情な現実を知った雪子様が、隠し続けてきた想いや、失ったはずの願い、そして、ずっと心の奥で抑え続けていた感情が、偽善の仮面をつけた自分の姿のままで人生の終わりを迎えたくはないと、思い始めてしまったのかもしれません」
「私には、ちょっと難しいような・・・」
「雪子様は、自分のために生きる人ではないと思いますが」
「ええ・・・確かに」
「かといって、誰かのために生きるという性格でもないと思います」
「それじゃ、雪子は・・・」
「もう一つの性格といいますか、もう一つの感情とでもいいましょうか。誰かと縺れ合うように生きていく・・・。雪子様は、そういう生き方を求めてしまう女性だとすれば、きっと、そこが雪子様が求めている自分の居場所なのかもしれません」
「そして・・・その相手が、夏樹さん・・・」
裕子は、正直、少し雪子が羨ましいと思えていた。
難しい事柄は、よく分からないまでも、縺れ合うようにという生き方をしようとする雪子、
そして、その相手が、夏樹であったからなのだろうか。
少しの嬉しさと、少しの羨ましさが、裕子の心の中に残っていた少しの寂しさを消していくである。
「う~ん・・・私には、綺麗な女性にしか見えないんですが・・・でも、夏樹さんの写真を初めて雪子に見せた時に、すぐに夏樹さんだって分かったって言うんですよ。私なんか全然分からなくて、夏樹さんに実はねって打ち明けられて初めて分かったくらいだったのに、雪子は写真を一瞬見ただけで、すぐに夏樹さんだって分かったって言うんですから、少なからずショックでしたけど」
「はは・・・そうでしたか」
「それで、雪子に訊いたんです。どうして、夏樹さんだって分かったのって。そうしたら、目だよって、さらりと言っていましたけど。もしかして、その時に夏樹さんの置かれている状態とかも分かったのでしょうか?」
「おそらくは・・・確か、以前に裕子様から、その後に、雪子様が夏樹様と連絡を取り合うようになったとお聞きしておりましたが」
「はい。私がメルアドを教えたんですけど。でも、最初に連絡を取ったのは、夏樹さんからではなくて、雪子の方からメールをしたらしいんですよ」
「やはり、そうでしたか。きっと、雪子様は確かめたかったのかもしれませんね」
「夏樹さんの・・・?」
「はい。そして、雪子様が最初に感じた不安が、確信へと繋がったのだと思われます」
「それで、夏樹さんに、それを確かめるために・・・。でも、私には全然分からなったのですが、どうして夏樹さんが寂しい瞳をしているってマスターにも分かったのですか?」
「写真に写っている夏樹様の瞳は、同じような瞳を見た事がない人には分かりにくいので、裕子様でなくても誰も分からなかったと思います。ただ、私は、一度、見ているんです。写真に映っている夏樹様と同じ瞳をした人を」
「それって、もしかして」
「はい、彼女です。私と会った最後の夜に見た彼女の瞳も、裕子様のスマホに写っている夏樹様と同じ瞳をしていました・・・。この歳になった今でも、あの夜の彼女の瞳は忘れられません」
「そうだったんですか・・・」
「もしかしたら、雪子様にとっての夏樹様は、まるで、自分自身を鏡に映しているかのように見えているのかもしれません」
「何となく、少し怖いような・・・。でも、雪子が、突然、夏樹さんに会いに行った時に、夏樹さんは、そんな雪子の事をどう思ったのでしょうか?」
「確か、裕子様が、以前に言っておられましたと思いますが、雪子様は、夏樹様にすごく甘えていたと」
「はい、近くで見ていた私でさえ驚いたというか、恥ずかしかったというか」
「きっと、夏樹様は、雪子様が自分にさよならを告げにきたのだと思われたのではないでしょうか?」
「どうして、そう思われるのですか?」
「最後に甘えるだけ甘えて・・・かと、思われます」
「それなら、どうして・・・」
「人生は一度しかないという無情な現実を知った雪子様が、隠し続けてきた想いや、失ったはずの願い、そして、ずっと心の奥で抑え続けていた感情が、偽善の仮面をつけた自分の姿のままで人生の終わりを迎えたくはないと、思い始めてしまったのかもしれません」
「私には、ちょっと難しいような・・・」
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「ええ・・・確かに」
「かといって、誰かのために生きるという性格でもないと思います」
「それじゃ、雪子は・・・」
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「そして・・・その相手が、夏樹さん・・・」
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そして、その相手が、夏樹であったからなのだろうか。
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