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生きている矛盾
生きている矛盾・・・その12
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裕子は、何かを思い出しながら、それでいて、少し考え込むような仕草を笑みで包み込むと、
先日の、雪子との会話を静かに話し始めた。
「実は数日ほど前に、雪子といつものように会話をしていたんですが、その中で、雪子が、やっと夏樹さんに会いに行った理由を教えてくれたんです」
「雪子様が・・・」
「ええ、それで、夏樹さんに会いに行った理由というのが(夏樹さんに頑張ったね!)と、伝えたかったというんです」
マスターは、それには答えずに、裕子の話を静かに聞いていた。
「それから、こうも言ったんです。(夏樹さんに頑張って生きたね!って、伝えたかった。)って・・・。それを聞いた時は少し驚きましたけど。それでも、何となく、雪子らしいな。とも思ったんです。でも、その雪子の言葉が、時間が経つにつれて、どこか怖いような、寂しい感情とか悲しい感情とかとはどこか違うような、上手く言えないんですけど、そんな風に思えてくるんです」
「二人だけの世界から生まれてくる言葉と、第三者的な視点からの言葉の違いですね」
「二人だけの世界から・・・?」
「夏樹様と雪子様、どれほどの距離を、そして、どれほどの時間を離れたまま、幾年月を重ねて来たとしても、心だけは縺れ合うように生きていたからこそ、自然に生まれてくる言葉なのかもしれませんね」
「心だけは縺れ合うように?」
「意識の心の世界の恋、そして、無意識の心の世界の恋とでもいいましょうか」
「意識の心と、無意識の心・・・ですか」
「求めなければ手に入らない願いと、求めなくても、いつもそこにある願い。すみません、こちらの方が、分かりにくいですね」
「何となく、分かるような気がします、それで、雪子は無意識の心の方だと?」
「はい、そうだと思います」
「それは、もしかして、夏樹さんと別れてからも、雪子の心はずっと夏樹さんと恋人のままだったと」
「はい、そうだと思います。ただ、雪子様自身その事に気がついてはいなかったのかもしれませんが」
「それは、今でも・・・?」
「はい。きっと、今でも、その事には気がついてはいないのではないかと思います」
「言われてみれば、確かにそうかもしれません」
「というのは、何か思い当たる事でも?」
「ええ。実は、雪子の子供たちの名前なんですけど、長女の愛奈ちゃんの愛奈という名前の本当の名付け親は夏樹さんなんです。それから、弟の翔太君の名前は、名前こそ雪子が付けた名前なのですが、その由来となったのは、夏樹さんの希望が反映されているんです」
「そうでしたか・・・」
「でも、それって、もしかして、雪子は自分でも気がつかないうちに、心の中の世界では夏樹さんと一緒に暮らしていたという事なんでしょうか?」
「人の心の中までは分かりませんが、もしかしたら、雪子様にとっての夏樹様という存在は、雪子様自身の命、もしくは雪子様の人生。と、同じなのかもしれません」
「雪子の命と同じ存在ですか・・・それでなのかしら?実は、なぜか、雪子には夏樹さんの考えている事が分かるみたいなんです」
「夏樹様の考えている事が・・・ですか?」
「ええ、そうみたいなんです。全部ではないみたいなのですが、大切なところといいますか肝心なところといいますか、この間も、ちょっと変わった事を言っていたんです」
「変わった事・・・ですか?」
「ええ。雪子がこんな事を言ったんです。(ふーちゃんなら誰の生活も壊さないで終わりにする方法を選ぶと思うんだよね)って。あっ、ふーちゃんっていうのは、夏樹さんのあだ名らしいですが」
「誰の生活も壊さないで終わりにする方法を選ぶ・・・」・・・。
そう言葉を繰り返すマスターの顔色が少しずつ変わっていくのを、裕子は見逃さなかった。
というのは、雪子が口にした、この言葉には、
裕子自身も何か嫌な予感が頭をよぎっていたからである。
先日の、雪子との会話を静かに話し始めた。
「実は数日ほど前に、雪子といつものように会話をしていたんですが、その中で、雪子が、やっと夏樹さんに会いに行った理由を教えてくれたんです」
「雪子様が・・・」
「ええ、それで、夏樹さんに会いに行った理由というのが(夏樹さんに頑張ったね!)と、伝えたかったというんです」
マスターは、それには答えずに、裕子の話を静かに聞いていた。
「それから、こうも言ったんです。(夏樹さんに頑張って生きたね!って、伝えたかった。)って・・・。それを聞いた時は少し驚きましたけど。それでも、何となく、雪子らしいな。とも思ったんです。でも、その雪子の言葉が、時間が経つにつれて、どこか怖いような、寂しい感情とか悲しい感情とかとはどこか違うような、上手く言えないんですけど、そんな風に思えてくるんです」
「二人だけの世界から生まれてくる言葉と、第三者的な視点からの言葉の違いですね」
「二人だけの世界から・・・?」
「夏樹様と雪子様、どれほどの距離を、そして、どれほどの時間を離れたまま、幾年月を重ねて来たとしても、心だけは縺れ合うように生きていたからこそ、自然に生まれてくる言葉なのかもしれませんね」
「心だけは縺れ合うように?」
「意識の心の世界の恋、そして、無意識の心の世界の恋とでもいいましょうか」
「意識の心と、無意識の心・・・ですか」
「求めなければ手に入らない願いと、求めなくても、いつもそこにある願い。すみません、こちらの方が、分かりにくいですね」
「何となく、分かるような気がします、それで、雪子は無意識の心の方だと?」
「はい、そうだと思います」
「それは、もしかして、夏樹さんと別れてからも、雪子の心はずっと夏樹さんと恋人のままだったと」
「はい、そうだと思います。ただ、雪子様自身その事に気がついてはいなかったのかもしれませんが」
「それは、今でも・・・?」
「はい。きっと、今でも、その事には気がついてはいないのではないかと思います」
「言われてみれば、確かにそうかもしれません」
「というのは、何か思い当たる事でも?」
「ええ。実は、雪子の子供たちの名前なんですけど、長女の愛奈ちゃんの愛奈という名前の本当の名付け親は夏樹さんなんです。それから、弟の翔太君の名前は、名前こそ雪子が付けた名前なのですが、その由来となったのは、夏樹さんの希望が反映されているんです」
「そうでしたか・・・」
「でも、それって、もしかして、雪子は自分でも気がつかないうちに、心の中の世界では夏樹さんと一緒に暮らしていたという事なんでしょうか?」
「人の心の中までは分かりませんが、もしかしたら、雪子様にとっての夏樹様という存在は、雪子様自身の命、もしくは雪子様の人生。と、同じなのかもしれません」
「雪子の命と同じ存在ですか・・・それでなのかしら?実は、なぜか、雪子には夏樹さんの考えている事が分かるみたいなんです」
「夏樹様の考えている事が・・・ですか?」
「ええ、そうみたいなんです。全部ではないみたいなのですが、大切なところといいますか肝心なところといいますか、この間も、ちょっと変わった事を言っていたんです」
「変わった事・・・ですか?」
「ええ。雪子がこんな事を言ったんです。(ふーちゃんなら誰の生活も壊さないで終わりにする方法を選ぶと思うんだよね)って。あっ、ふーちゃんっていうのは、夏樹さんのあだ名らしいですが」
「誰の生活も壊さないで終わりにする方法を選ぶ・・・」・・・。
そう言葉を繰り返すマスターの顔色が少しずつ変わっていくのを、裕子は見逃さなかった。
というのは、雪子が口にした、この言葉には、
裕子自身も何か嫌な予感が頭をよぎっていたからである。
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