愛して欲しいと言えたなら

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生きている矛盾

生きている矛盾・・・その10

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亜晃の言葉に、京子は、人前で余計な事を・・・と、いうような顔をしながら

「亜晃、そんな事を言うもんじゃないわよ!」

「母さんだって、いつも言ってんじゃん!」

「何、言ってるの?くたばっちまえ!なんて、言ってないでしょ?」

そこに直美が、ちょっと口を挟むように亜晃に訊いてみた。

「亜晃君、お父さんがあそこに住んでいたの知ってたの?」

「知ってたけど」

「それで、会いに行った事はあるの?」

「ないよ。なんか、いつもいないみたいだし」

「そう・・・」

「しっかし、おやじにも困ったもんだよな、女なんか連れ込んでさ」

「女の人?亜晃君、見た事あるの?」

「何回かあるよ。髪の長い綺麗な感じの人だけど、しっかし、なんで、おやじは、あ~もモテるのかな?」

いや、あの・・・亜晃君・・・。
その女性って、亜晃君の父親なんですけど・・・。
直美は、京子の顔を見ると、京子が首を小さく左右に振っていた。

「もう、いいから、早く帰りなさい!」

京子は、亜晃を(何で来たの?)と、いうような顔で追っ払ってから、ため息をついた。

「ちょっと、京子?」

「分かってるわよ。直美に言われなくても・・・」

「いや、そうじゃなくて、いつも、あんな感じで夏樹さんの事を?」

「まあね。私が、いつも、あの人の悪口を言ってたから、きっと、亜晃にも移ったのね」

「それじゃ、もしかして、弟の省吾君の方も?」

「それがね、亜晃の方は面白半分って感じだけど、省吾の方はちょっとね」

「ちょっとねって?」

「亜晃の方は、なんだかんだ言っても父親の事が好きなのよね。だから、さっきみたいに、なんでおやじはモテるんだ、なんて、言ってみたりするんだと思うの」

「省吾君の方は違うの?」

「ええ、きっと、私に似たんだと思うの」

「似たんだって、性格がって事?」

「そうみたいなの。融通が利かないっていうか、変なところに固視するっていうか」

「だって、確か、省吾君って離婚した後、何年か、夏樹さんと一緒に暮らしていたんじゃないの?」

「だから、余計に父親の事を忌み嫌うようになったみたいなのよ」

「どうして、そうなるの?」

「まあ、省吾としては離婚した後、私の方につくよりも、父親の方についた方が得だと思ったんだろうけど、結局は、父親についたばかりに貧乏くじを引いたって思ったのかもしれないわね」

「どうして?」

「まあ、省吾からすれば父親は事業をしていたわけだから。また、事業で成功するって思ったみたいで、私ではなくて父親の方にくっついて行ったんだろうけど。フタを開けてみたら全然ダメだったみたいで、余計にあの人の事を、あんな奴みたいに思ってしまったみたいなのよ」

「省吾君だって、父親が離婚した時の状況とかって知ってるんだから、自分が父親を助けようとかって思わなかったのかしら?」

と、直美は、普通の会話のつもりで話をしていたのだが・・・
直美の最後の言葉に、京子が、急に黙り込んでしまった。

「京子、どうかしたの?」

「えっ?・・・あっ、別に、何でもないわよ」

 「もしかして、私、何か変な事言った?」

「ううん、そうじゃないけど・・・。ただ、ちょっとね」

「ふ~ん・・・」

「それより、そろそろ帰らない?」

直美は、それ以上は何も訊かないで、京子の言葉に従うように車に乗り込んだ。
京子自身ちゃんと分かってるんじゃない、それなのに、どうして夏樹さんを悪く言うのかしら?

しかし、さっきの亜晃君には正直驚いたわ。
まさか、あそこまで重症になっていたなんてね。

いや、それよりも、亜晃君が何度か見かけたっていうその女性が、
自分の父親だなんて知ったら、どう思うんだろう?やっぱり軽蔑しちゃうのかな?
確かに、自分の父親が女装して暮らしているなんて、ある意味ショックかもしれないわよね。

京子は、何か思うところがあるらしく、車内での会話らしい会話もないまま、
二人を乗せた車は、灯り始めた街の中へと消えていった。

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