愛して欲しいと言えたなら

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生きている矛盾

生きている矛盾・・・その8

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「ねえ、直美?あんた、あそこに行ったのよね?」

「えっ・・・?行ったって・・・あの・・・夏樹さんの?」

「他に、何があるのよ」

「まあ・・・行ったといえば行ったかもしれないけど・・・でもね、それは」

「別に、どうでもいいけど!」

いや、あの・・・訊いといて、どうでもいいけど!って言われてもですね。

「まあ、どっちにしても、もういないわけだから、これでスッキリしたわ!」

「スッキリって・・・まあ、京子がそう言うなら、そうかも・・・です」

「なに・・・?何か、言いたい事でもあるの?」

「いや・・・あの・・・そんなにいきなりスッキリするもんなのかなって?」

「そりゃそうでしょ?いつまでも私の近くでウロウロされてるより、どこか遠くにでも行ってくれた方が気が楽ってもんでしょ?」

「まあ、確かに・・・」

「まったく、さっさと消えてくれればよかったのよ。それをいつまでも同じ街でさ、こっちは毎日、気分が悪くてたまんなかったわよ!」

どうしたんだろう?京子。急に人が変わったみたいに・・・。

「ねえ、京子、そろそろ帰ろう?」

「直美は、あそこに行ったのよね?」

「えっ・・・?」

「それに雪子さんも・・・本当にもう、あの人は一体何を考えてるのかしら?」

「雪子さんは分からないけど、私は別に、その・・・」

「言いたい事があるんなら、どうして、直接、私に言わないのよ・・・。陰でこそこそするみたいな真似なんかしなくてもいいんじゃない?」

「だから、私は・・・」

「直美の事じゃないわよ。あの人の事よ!陰でこそこそなんてしないで、言いたい事があるんなら、私に、直接、言えばいいじゃない?」

いえ・・・あの・・・たぶん、言いたい事はないと思うんですけど・・・はい。
それに、夏樹さんは引っ越してここにはもういないんだから、別に、それでいいと思うんだけどな。

「まったく、最後まで私を無視したままいなくなるなんて、人を馬鹿にするのにもほどがあるわ」

「いや・・あの・・無視って・・・」

「だって、そうでしょ?離婚した後だって、あの人の借金を私が払ってたのよ?」

「それは、まあ・・・」

「でしょ?それだったら、最後に一言くらい謝ってから引っ越したっていいんじゃないの?」

「えっ?京子は、その事で頭にきてたの?」

「そうよ!あの人の借金なのよ?それを、私が代わりに払うのは当たり前みたいにされたら、誰だって頭にくるでしょ?」

「う~ん・・・そうかな?」

「そうかなって?直美は違うわけ?」

「だって、好きな人の借金だったら・・・それに、ただの、付き合ってたとかっていう関係でもなくて、結婚して一緒に暮らしていたんだから、私だったら、別にいいかな?って、思っちゃうけどな」

「だから、直美はいつも男に騙されるんでしょ?」

「いつもって、離婚してからは誰とも付き合っていないけど・・・」

「どっちでも同じよ。人の借金を払うくらい馬鹿馬鹿しい事はないわよ!」

「でも、それだったら、夏樹さんに京子が払った分を返してもらえばいいんじゃない?」

「もう、とっくに返してもらったわよ」

「へっ・・・?」

「だから、気持ちの問題って言ってるのよ!ただ、お金を返せばいいってもんじゃないでしょ?」

「いや、あの・・・」

「あの人は、一度も私に謝らないのよ。そういう場合って普通なら謝るもんでしょ?」

「京子は、夏樹さんに謝らせたいの?」

「そんなの当然・・・ちょっと直美?変な訊き方をするのね?」

「夏樹さんね、前に言ってた事があるんだ」

「あの人が?何て言ってたの?」

「京子は一度もふられた事がないから、自分の感情をどうしたらいいのか分からないんだよって」

「私が・・・?」

「そうよ。京子にとって、夏樹さんって特別な人だったんじゃないの?今まで何人と付き合ってきたのか知らないけどさ。京子にとっての夏樹さんって、その人たちとは違うんでしょ?」

静かに、けれども、耳の奥まで透き通るような声で聞こえるように話す直美の言葉が、
京子にとっては、意外な言葉だったからなのだろうか?
京子の表情から、さっきまで、見え隠れしていた嫌悪が消えていくのを直美は感じていた。
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