愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
222 / 386
生きている矛盾

生きている矛盾・・・その2

しおりを挟む
季節が移り過ぎていくのも早いもので、今年も残すところあと一か月ちょっと。
いつものようにいつもの喫茶店で、いつものように二人だけのお茶会が開かれていた。

「ねぇ~、雪子?」

「な~に?」

「雪子は、今年はどうするの?」

「どうするのって・・・何を?」

「ほら、お正月。今年も実家に帰るんでしょ?」

「どうかな~?」

「どうかな~?って、な~に?まだ、決めていないの?」

「うん、決めてないよ」

「どうして?」

「どうしてって言われても、別に帰りたいって思わないし」

別に帰りたいって思わないって・・・夏樹さんに会いたくないのかしら?
あっ・・・そっか、そうだったわ。
そういえば、夏樹さん引っ越したんだったわ。

「別にって、な~に?それって、夏樹さんがいないからって事?」

「あっ、そうだ!」

「なに・・・急に?」

雪子は何かを思い出したらしく、バックの中からスマホを取り出すと、
何やらスマホの画面をいじってから裕子の前に差し出して見せた。
裕子は、差し出されたスマホを手に取って見ながら笑みを浮かべた。

「しっかし、どこから見ても女性よね?夏樹さんって!」

「そなのだ」

「でも、この写真って、いつ写した写真なの?」

「昨日みたいだよ。写真を写して、少し書き書きして送ったって言ってたから」

「うっそ・・・夏樹さんの引っ越した先って、もう、雪が降ったの?」

「なんか毎年11月に一回か二回くらい雪が降る地域なんだって!」

「そうなんだ。でも、この文字って夏樹さんらしいわね」

「それよりも、ちょっとここ見て!」

そう言って、雪子が人差し指で示すところを見ると、お店?の看板らしきものが写っている。

「夏樹さん、やっぱり忘れていなかったのね」

「そうみたいなのだ!」

「でも、アトリエって?夏樹さん、何かお仕事でも始めるのかしら?」

「違うみたいだよ。もともと喫茶店だった建物だから、何か名前でも付けた方がいいかと思ってって言ってたよ」

「それで、この名前?」

「私も、ちょっとビックリかも・・・」

「そうよね~。でも、私だったら、やっぱり嬉しいかな?」

「ふ~ちゃん、きっと寂しいんだろうね」

はい・・・?
寂しいって?どこをどうすると、そういう言葉にたどり着くの?

「寂しいって?夏樹さんが?」

「うん。きっと、ふ~ちゃんのための家族が欲しかったんだなって!」

夏樹さんのための家族・・・。
でも、このアトリエの名前って・・・。
雪子?・・・その意味、分かってるの・・・?

マスターは、夏樹さん次第だって言ってたけど・・・
これって、夏樹さんが雪子を誘ってるとしか思えないんだけど・・・そうなの、夏樹さん?

これが、離婚した奥さんの住む場所から離れる事を決めた夏樹さんの想いなの?
そして、これが、この先、夏樹さんが歩んでいこうとする人生の答えなの?

いつかのマスターの言葉を思い出しながら見つめるスマホの画面には、
女装した夏樹の左側に、並ぶようにして写っている店の名前が入った木製のネームプレート。

そして、そのネームプレートには「アトリエ愛里」と、書かれていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...