愛して欲しいと言えたなら

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生きている矛盾

生きている矛盾・・・その2

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季節が移り過ぎていくのも早いもので、今年も残すところあと一か月ちょっと。
いつものようにいつもの喫茶店で、いつものように二人だけのお茶会が開かれていた。

「ねぇ~、雪子?」

「な~に?」

「雪子は、今年はどうするの?」

「どうするのって・・・何を?」

「ほら、お正月。今年も実家に帰るんでしょ?」

「どうかな~?」

「どうかな~?って、な~に?まだ、決めていないの?」

「うん、決めてないよ」

「どうして?」

「どうしてって言われても、別に帰りたいって思わないし」

別に帰りたいって思わないって・・・夏樹さんに会いたくないのかしら?
あっ・・・そっか、そうだったわ。
そういえば、夏樹さん引っ越したんだったわ。

「別にって、な~に?それって、夏樹さんがいないからって事?」

「あっ、そうだ!」

「なに・・・急に?」

雪子は何かを思い出したらしく、バックの中からスマホを取り出すと、
何やらスマホの画面をいじってから裕子の前に差し出して見せた。
裕子は、差し出されたスマホを手に取って見ながら笑みを浮かべた。

「しっかし、どこから見ても女性よね?夏樹さんって!」

「そなのだ」

「でも、この写真って、いつ写した写真なの?」

「昨日みたいだよ。写真を写して、少し書き書きして送ったって言ってたから」

「うっそ・・・夏樹さんの引っ越した先って、もう、雪が降ったの?」

「なんか毎年11月に一回か二回くらい雪が降る地域なんだって!」

「そうなんだ。でも、この文字って夏樹さんらしいわね」

「それよりも、ちょっとここ見て!」

そう言って、雪子が人差し指で示すところを見ると、お店?の看板らしきものが写っている。

「夏樹さん、やっぱり忘れていなかったのね」

「そうみたいなのだ!」

「でも、アトリエって?夏樹さん、何かお仕事でも始めるのかしら?」

「違うみたいだよ。もともと喫茶店だった建物だから、何か名前でも付けた方がいいかと思ってって言ってたよ」

「それで、この名前?」

「私も、ちょっとビックリかも・・・」

「そうよね~。でも、私だったら、やっぱり嬉しいかな?」

「ふ~ちゃん、きっと寂しいんだろうね」

はい・・・?
寂しいって?どこをどうすると、そういう言葉にたどり着くの?

「寂しいって?夏樹さんが?」

「うん。きっと、ふ~ちゃんのための家族が欲しかったんだなって!」

夏樹さんのための家族・・・。
でも、このアトリエの名前って・・・。
雪子?・・・その意味、分かってるの・・・?

マスターは、夏樹さん次第だって言ってたけど・・・
これって、夏樹さんが雪子を誘ってるとしか思えないんだけど・・・そうなの、夏樹さん?

これが、離婚した奥さんの住む場所から離れる事を決めた夏樹さんの想いなの?
そして、これが、この先、夏樹さんが歩んでいこうとする人生の答えなの?

いつかのマスターの言葉を思い出しながら見つめるスマホの画面には、
女装した夏樹の左側に、並ぶようにして写っている店の名前が入った木製のネームプレート。

そして、そのネームプレートには「アトリエ愛里」と、書かれていた。

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