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求めない願い
求めない願い・・・その13
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結局、雪子とのお茶会も、肝心な話が出来ないまま終わってしまい、
その後も、恒例である週一のお茶会でも、どこにでもあるような井戸端会議ばかりで、
かといって、改めて、もう一度、同じ話題に入るのもなかなか出来ないものである
いや、この場合、肝心な話を雪子の方で、それとなく、はぐらかしてしまうが正解かもしれない。
とはいえ、全部が全部、話題に乗らなかったわけではなく、夏樹が引っ越すという話題にはなった。
ただ、雪子と京子の違いは何なのか?
夏樹がなぜ引っ越さなければならなくなったのか?
というような、裕子が知りたいと思う話題に限って、雪子は、はぐらかしてしまうのである。
それでも、夏樹が好きな雪子がどんな雪子なのかが、分かっただけでも裕子は嬉しかった。
とはいっても、一般的に、普通の人が普通に感じる嬉しさとは少し違っていて、
裕子自身、いままで、どうしても分からなかった雪子であり、
なによりも、一番知りたいと思っていた、夏樹が愛した雪子の姿を、やっと見る事が出来た。
それが、今の裕子には、とても嬉しかったのである。
ただ、それでも、雪子が、その姿を見せてくれたのは、あの時のお茶会の時だけだったのだが・・・。
今まで何十年もの間、裕子が知らなかった雪子、そして、裕子が一番知りたかった雪子の姿。
夏樹と一緒にいる時の、無邪気に甘えている雪子の姿とは、また、違う雪子の姿。
それは、夏樹に愛されている時間の中にだけ存在している一人だけの世界にいる雪子であり、
夏樹と離れている時間の中にしか存在していない、夏樹に愛されている雪子の姿なのである。
今までは、決して、誰にも見せなかったその姿を、雪子が見せてくれただけでも、
とても嬉しく思えた裕子は、いつものお茶会でも、あえて、その話題を持ち出そうとは思わなかった。
とは言っても、夏樹と二度も付き合った事実がある過去を持つ裕子としては、
少しの焼きもちと、少しの落ち込みと、そして、少しの笑いが生まれてきたのも確かである。
それでも、夏樹の幸せを一番に願ってしまう裕子は、今日も、雪子と恒例のお茶会の最中である。
コーヒーカップを置いて窓の外を見ると、行き交う人たちは、もう、衣替えを済ませた10月の終わり。
ちょうど、その頃、京子は、珍しく一人で車を走らせて遠出をしていた。
こんなに遠くまで一人で走るのって何年ぶりかしら?
あの人と離婚して以来?違うわね・・・。
たぶん、もしかしたら、初めてなんじゃないかしら?
そうよね?
考えてみると、中学生の頃まではいつも両親とだったし、高校に入ってからは友達と。
でも、その頃は、おなじ同級生同士だったから自動車じゃなくて電車とかだったし、
遠出ってなると両親以外では、あの人だけ・・・だったわね。
高校生の時もそうだったし、社会人になってからも、いつも決まってあの人の車。
別に、まだ付き合ってもいなかったのに。今、考えてみても不思議だけど。
社会人になって、会社に勤めるようになってからも、そう・・・。
他の男の人たちにどんなに誘われても、そんな誘いなんて一度も乗らなかったのに、
なぜか、あの人に誘われると、何の警戒心も持たないで誘われるままに。
あの人と付き合うようになってからは、いつも、あの人が私の隣でハンドルを握っていた。
私のすぐ隣には、いつも、あの人がいた・・・。
ずっと、あの人だけが私のそばにいてくれた。
そんな、あの人が引っ越しをする・・・。
あなたが・・・もうすぐ、私から離れていく・・・。
中学生の頃から、ずっと見てきた、あなた・・・。
高校生になって、家族以外の人と初めて遠出をしたのも・・・あなた。
高校を卒業して、社会人になって、自分の時間が親に束縛されなくなって、
夜になっても、夜遅くまででなければ、自由に行動が出来るようになってからも、
決まって、いつも、私が隣に乗るのはあなたの車だけ。
いつからか、あなたが、私のそばにいるのが当たり前のように感じていた。
あなたと離婚してからも、何かにつけ、あなたの悪口を言ってはあなたを感じていた私。
ちょっとした買い物で近くのコンビニに行く時も、
いつも、あなたの姿が気になってしまい、偶然に会うかもしれない。
それでも、遠くで見かけたのならまだしも、
もし、あなたとばったり会ってしまったりしたらどうしよう?・・・なんて。
そんなあなたが、引っ越すのね。
そんなあなたが、もうすぐ、私の知らない遠くへ行ってしまうのね。
そしてあなたは、もう二度と私の前に姿を見せるつもりはないのよね・・・違う?
国道の県境を過ぎると、まもなく最初の街が見えてくる。
京子は、街には入らずに左側に見えてきた山道へと車を走らせていく。
その後も、恒例である週一のお茶会でも、どこにでもあるような井戸端会議ばかりで、
かといって、改めて、もう一度、同じ話題に入るのもなかなか出来ないものである
いや、この場合、肝心な話を雪子の方で、それとなく、はぐらかしてしまうが正解かもしれない。
とはいえ、全部が全部、話題に乗らなかったわけではなく、夏樹が引っ越すという話題にはなった。
ただ、雪子と京子の違いは何なのか?
夏樹がなぜ引っ越さなければならなくなったのか?
というような、裕子が知りたいと思う話題に限って、雪子は、はぐらかしてしまうのである。
それでも、夏樹が好きな雪子がどんな雪子なのかが、分かっただけでも裕子は嬉しかった。
とはいっても、一般的に、普通の人が普通に感じる嬉しさとは少し違っていて、
裕子自身、いままで、どうしても分からなかった雪子であり、
なによりも、一番知りたいと思っていた、夏樹が愛した雪子の姿を、やっと見る事が出来た。
それが、今の裕子には、とても嬉しかったのである。
ただ、それでも、雪子が、その姿を見せてくれたのは、あの時のお茶会の時だけだったのだが・・・。
今まで何十年もの間、裕子が知らなかった雪子、そして、裕子が一番知りたかった雪子の姿。
夏樹と一緒にいる時の、無邪気に甘えている雪子の姿とは、また、違う雪子の姿。
それは、夏樹に愛されている時間の中にだけ存在している一人だけの世界にいる雪子であり、
夏樹と離れている時間の中にしか存在していない、夏樹に愛されている雪子の姿なのである。
今までは、決して、誰にも見せなかったその姿を、雪子が見せてくれただけでも、
とても嬉しく思えた裕子は、いつものお茶会でも、あえて、その話題を持ち出そうとは思わなかった。
とは言っても、夏樹と二度も付き合った事実がある過去を持つ裕子としては、
少しの焼きもちと、少しの落ち込みと、そして、少しの笑いが生まれてきたのも確かである。
それでも、夏樹の幸せを一番に願ってしまう裕子は、今日も、雪子と恒例のお茶会の最中である。
コーヒーカップを置いて窓の外を見ると、行き交う人たちは、もう、衣替えを済ませた10月の終わり。
ちょうど、その頃、京子は、珍しく一人で車を走らせて遠出をしていた。
こんなに遠くまで一人で走るのって何年ぶりかしら?
あの人と離婚して以来?違うわね・・・。
たぶん、もしかしたら、初めてなんじゃないかしら?
そうよね?
考えてみると、中学生の頃まではいつも両親とだったし、高校に入ってからは友達と。
でも、その頃は、おなじ同級生同士だったから自動車じゃなくて電車とかだったし、
遠出ってなると両親以外では、あの人だけ・・・だったわね。
高校生の時もそうだったし、社会人になってからも、いつも決まってあの人の車。
別に、まだ付き合ってもいなかったのに。今、考えてみても不思議だけど。
社会人になって、会社に勤めるようになってからも、そう・・・。
他の男の人たちにどんなに誘われても、そんな誘いなんて一度も乗らなかったのに、
なぜか、あの人に誘われると、何の警戒心も持たないで誘われるままに。
あの人と付き合うようになってからは、いつも、あの人が私の隣でハンドルを握っていた。
私のすぐ隣には、いつも、あの人がいた・・・。
ずっと、あの人だけが私のそばにいてくれた。
そんな、あの人が引っ越しをする・・・。
あなたが・・・もうすぐ、私から離れていく・・・。
中学生の頃から、ずっと見てきた、あなた・・・。
高校生になって、家族以外の人と初めて遠出をしたのも・・・あなた。
高校を卒業して、社会人になって、自分の時間が親に束縛されなくなって、
夜になっても、夜遅くまででなければ、自由に行動が出来るようになってからも、
決まって、いつも、私が隣に乗るのはあなたの車だけ。
いつからか、あなたが、私のそばにいるのが当たり前のように感じていた。
あなたと離婚してからも、何かにつけ、あなたの悪口を言ってはあなたを感じていた私。
ちょっとした買い物で近くのコンビニに行く時も、
いつも、あなたの姿が気になってしまい、偶然に会うかもしれない。
それでも、遠くで見かけたのならまだしも、
もし、あなたとばったり会ってしまったりしたらどうしよう?・・・なんて。
そんなあなたが、引っ越すのね。
そんなあなたが、もうすぐ、私の知らない遠くへ行ってしまうのね。
そしてあなたは、もう二度と私の前に姿を見せるつもりはないのよね・・・違う?
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京子は、街には入らずに左側に見えてきた山道へと車を走らせていく。
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