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求めない願い
求めない願い・・・その10
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一度も怒った事がない雪子。
ただの一度も、嫌な顔をした事がない雪子。
そして、あれほど大好きな小説を読む気配さえ、家庭の中ではまったく見せようとはしない雪子。
いつものようにコーヒーカップの中でスプーン遊びをしている雪子が、
何を話したらいいのか分からないでいる裕子に声をかけてきた。
「今日の裕子は、ちょっと変だよ?どうしたの?」
いつもの喫茶店で、いつもの雪子と、いつものようにお茶しているはずなのに、
先日、愛奈から聞かされた雪子の日常が、どうしても気になってしまう。
まるで、裕子が知らない、もう一人の雪子が、この世界の日常に存在しているかのようで。
こうして、雪子と二人でいつものようにいつもの喫茶店で会っていても、
今、自分の目の前にいる雪子はどっちの雪子なのだろうか?そんな風に考えてしまう。
もしかしたら、自分の目の前でスプーン遊びをしている雪子が、偽りの雪子の方で、
家庭の中いる時間の雪子も、偽りの雪子の方で・・・
それなら、本当の雪子はどこにいるのだろう・・・?
幼い頃から今日まで、ずっと友達であり親友であるはずの雪子は、いったい、誰だったのだろう?
そんな風に考えてしまうと、裕子の目の前でスプーン遊びをしている雪子が、
まるで、今さっき知り合ったばかりの他人のように思えてしまうから、
何を話したらいいのか、どんな話題を、どんな言葉で、どんな感じに話したらいいのか、
裕子には、分からなくなってくるのである。
そんな事を一人で考えている裕子の思考回路が、誤作動を起こしたのだろうか?
裕子は、自分でも思ってもみなかった言葉が口から出てしまった。
「ねえ、雪子?雪子と京子さんとでは、何が違うの?」
「あい・・・?」
「あっ、ごめん・・・。私ったら変な事を訊いちゃったわね。あはは、忘れて忘れて」
「裕子、愛奈さんに、また何か変な事を言われたんでしょ?」
「んま~、言われたって言えば言われたかも・・・」
「やっぱり・・・」
「でも、愛奈ちゃん、雪子が小説を読むのが好きって知らなかったわよ?」
「家では読まないからかな?」
「でも、ここでは、よく読んでるじゃない?」
「うん、そうだよ!」
「でも、愛奈ちゃんがね、家には小説の本なんて一冊もないって言ってたわよ?」
「家には持って帰らないからだよ!」
だよ・・・?
なんとなく最近の雪子って(だよ)が、多くなってきているような気がするけど気のせいかしら?
「持って帰らないって、それじゃ、どこかに置いてるの?」
「うん・・・」
「うんって、どこに置いて歩いているの?」
「ふふっ、別に置いて歩いていないよ」
「それじゃ、どこに置いてるの?」
雪子は、「ここ・・・」と言いながら、チラッとカウンターの横の方に視線を流して見せた。
「えっ・・・?」・・・裕子が、雪子の流す視線の方を見ると、
視線の先には、壁一面にびっしりを並べられている単行本の棚が見える。
「もしかして、あそこにある本って?」
「うん・・・」
「全部・・・?」
「うん・・・」
「うそ・・・?」
「奥の方にも、まだまだ、いっぱいあるよ!」
裕子はカウンターの方を見ると、マスターが優しい笑みで嬉しそうに頷いてくれた。
「うっそ・・・マジで・・・?」
「そんな裕子のびっくりよりも、今まで気がつかなかったという裕子へびっくりかも?」
「そういう問題?」
「うん、そういう問題。それでは、もうひとつ!びっくりしてもらいましょう!」
「何?もしかして、離婚を決めたとかって?」
「ふふっ、愛奈さんと同じような事を言うのね?」
「違うの・・・?」
「裕子ったら、なんか、がっかりしたみたいだけど・・・」
「そうじゃないけど、愛奈ちゃんにも言われてたから」
スプーン遊びをしながら、裕子を覗き込むように悪戯視線で微笑んでいる雪子が、
「ふーちゃんね、近々、お引越しをするんだって!」
「うそ・・・?」
「ホントだよ」
「それで、雪子はどうするの?」
「はい・・・?」
どうにもこうにも裕子の思考回路は、
雪子が離婚するのでは?に、固定されてしまっているみたいである。
ただの一度も、嫌な顔をした事がない雪子。
そして、あれほど大好きな小説を読む気配さえ、家庭の中ではまったく見せようとはしない雪子。
いつものようにコーヒーカップの中でスプーン遊びをしている雪子が、
何を話したらいいのか分からないでいる裕子に声をかけてきた。
「今日の裕子は、ちょっと変だよ?どうしたの?」
いつもの喫茶店で、いつもの雪子と、いつものようにお茶しているはずなのに、
先日、愛奈から聞かされた雪子の日常が、どうしても気になってしまう。
まるで、裕子が知らない、もう一人の雪子が、この世界の日常に存在しているかのようで。
こうして、雪子と二人でいつものようにいつもの喫茶店で会っていても、
今、自分の目の前にいる雪子はどっちの雪子なのだろうか?そんな風に考えてしまう。
もしかしたら、自分の目の前でスプーン遊びをしている雪子が、偽りの雪子の方で、
家庭の中いる時間の雪子も、偽りの雪子の方で・・・
それなら、本当の雪子はどこにいるのだろう・・・?
幼い頃から今日まで、ずっと友達であり親友であるはずの雪子は、いったい、誰だったのだろう?
そんな風に考えてしまうと、裕子の目の前でスプーン遊びをしている雪子が、
まるで、今さっき知り合ったばかりの他人のように思えてしまうから、
何を話したらいいのか、どんな話題を、どんな言葉で、どんな感じに話したらいいのか、
裕子には、分からなくなってくるのである。
そんな事を一人で考えている裕子の思考回路が、誤作動を起こしたのだろうか?
裕子は、自分でも思ってもみなかった言葉が口から出てしまった。
「ねえ、雪子?雪子と京子さんとでは、何が違うの?」
「あい・・・?」
「あっ、ごめん・・・。私ったら変な事を訊いちゃったわね。あはは、忘れて忘れて」
「裕子、愛奈さんに、また何か変な事を言われたんでしょ?」
「んま~、言われたって言えば言われたかも・・・」
「やっぱり・・・」
「でも、愛奈ちゃん、雪子が小説を読むのが好きって知らなかったわよ?」
「家では読まないからかな?」
「でも、ここでは、よく読んでるじゃない?」
「うん、そうだよ!」
「でも、愛奈ちゃんがね、家には小説の本なんて一冊もないって言ってたわよ?」
「家には持って帰らないからだよ!」
だよ・・・?
なんとなく最近の雪子って(だよ)が、多くなってきているような気がするけど気のせいかしら?
「持って帰らないって、それじゃ、どこかに置いてるの?」
「うん・・・」
「うんって、どこに置いて歩いているの?」
「ふふっ、別に置いて歩いていないよ」
「それじゃ、どこに置いてるの?」
雪子は、「ここ・・・」と言いながら、チラッとカウンターの横の方に視線を流して見せた。
「えっ・・・?」・・・裕子が、雪子の流す視線の方を見ると、
視線の先には、壁一面にびっしりを並べられている単行本の棚が見える。
「もしかして、あそこにある本って?」
「うん・・・」
「全部・・・?」
「うん・・・」
「うそ・・・?」
「奥の方にも、まだまだ、いっぱいあるよ!」
裕子はカウンターの方を見ると、マスターが優しい笑みで嬉しそうに頷いてくれた。
「うっそ・・・マジで・・・?」
「そんな裕子のびっくりよりも、今まで気がつかなかったという裕子へびっくりかも?」
「そういう問題?」
「うん、そういう問題。それでは、もうひとつ!びっくりしてもらいましょう!」
「何?もしかして、離婚を決めたとかって?」
「ふふっ、愛奈さんと同じような事を言うのね?」
「違うの・・・?」
「裕子ったら、なんか、がっかりしたみたいだけど・・・」
「そうじゃないけど、愛奈ちゃんにも言われてたから」
スプーン遊びをしながら、裕子を覗き込むように悪戯視線で微笑んでいる雪子が、
「ふーちゃんね、近々、お引越しをするんだって!」
「うそ・・・?」
「ホントだよ」
「それで、雪子はどうするの?」
「はい・・・?」
どうにもこうにも裕子の思考回路は、
雪子が離婚するのでは?に、固定されてしまっているみたいである。
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