愛して欲しいと言えたなら

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求めない願い

求めない願い・・・その9

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裕子は、夏樹がというより、愛奈が雪子の昔の恋人だと思ってしまっている相手が、
本当は男性で、今は女装家になっているのだと、教えてあげたいと思ってしまうほどに、
愛奈の母親への好奇心が無垢でいじらしく、そして、ひたむきな可愛さを感じてしまうのである。

「でも、どうして、それが、愛奈ちゃんや翔太君に関心がないって思うの?」

「だって、女性同士だったら子供とか出来ないでしょ?だから、私や翔太に関心がないんだと思うんですよ」

「なるほど・・・」

「裕子おばさんも、そう思うでしょ?」

「ふふっ、その前に、その裕子おばさんって呼び方を変えて欲しいいんだけど、ダメかしら?」

「どうしてですか?」

「どうしてって、なんか、おばさんおばさんって何度も言われてると、本当におばさんになっちゃいそうなのよ。一応、これでも、まだ若いつもりでいるのよ」

「う~ん・・・それじゃ、裕子おば様は?」

「ふふっ、前のように裕子さんでいいわよ。その方が若い気分になれるから」

「でも、やっぱりそれだと少し馴れ馴れしいような・・・」

「ふふっ。そういう、ちょっと変わった謙虚な考え方って雪子にそっくりなのね!」

「お母さんも・・・?」

「そうよ。まあ、元々文学少女みたいな雪子だから、ちょっと人とは考え方とか感性とかって違うみたいなのよ」

「でも、お母さんが本とかを読んでいるところなんて、一度も見たい事がないですよ?」

「うそ・・・?」

「ホントです。それに、家にも小説とかって本も一冊もないですよ」

「そう・・・」

あれほど好きな猫だけでなく、あんなにも好きな小説の本が一冊も・・・。
裕子は、愛奈の今の言葉に、なぜか、急に寂しさが込み上げてくるのを感じた。
それは、悲しみの中にある寂しさと表現した方がいいのかもしれない。

そこまで・・・雪子が、そこまで周りに気遣いをしながら自分を隠して暮らしていたなんて。
愛奈ちゃんがさっき言っていた、雪子の暮らした形跡がないみたいって感じてしまうくらい、
雪子は自分の形跡も、そして足跡さえも残さないように今日まで生きてきたっていうの?

それでも夏樹さんと再会出来て、メールも出来て、また会えるようになれたから良かったものの、
もし、私が、偶然、夏樹さんとメールでやり取りをしていなかったとしたら、
雪子は夏樹さんと再会する事もなかったし、メールで繋がる事もなかったっていうのに。

裕子は、もし?雪子が、夏樹と再会をしていなかったとしたら。
それに、もし?雪子が、今も、この先も、ずっと夏樹と再会する事がなかったとしたら。
雪子は、いったい、どうするつもりでいたのだろうか?

雪子は、自分が死ぬまで、ずっと、そうやって、自分を隠したまま、
愛奈ちゃんや翔太君たちと家族として、日々を暮らしていくつもりだったのだろうか?

そんな雪子の生き方を思うと裕子は、なぜ?と思う気持ちよりも先に、
ただただ、悲しみだけが込み上げてきてしまうのだった。
まるで、雪子の暮らす世界には、悲しみという名の雪だけが降り続けているみたいに・・・。

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