愛して欲しいと言えたなら

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求めない願い

求めない願い・・・その7

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直美は、京子と話をしているといつも思う事がある。
それは、夏樹が、京子に対して何か言ってるのではないか?そんな風に京子は思っているらしい。
言い方を変えれば、京子の事で、夏樹が何か言っていなかったのか?となるのだが。

まあ、どちらにしても、京子は自分に対しての夏樹の言葉を聞きたがっているように思えるし、
夏樹が、絶対に何か言っているはずだと確信しているようにも思えてくるのである。

「もしかして、京子は何か知ってるの?」

「何かって・・・?」

「だって、京子の話からすると、まるで夏樹さんが京子に対して何か言っているはず!みたいに聞こえてくるから。もしかして、夏樹さんが言う言葉を京子が知ってるのかな?って思っちゃう時があるの」

「どうせ、私の悪口かなんかでしょ?だから、どんな悪口を言ってたのかな?って、思っただけよ」

「えっ・・・そっち?」

「そっちって?それじゃ、どっちだと思ってたのよ?」

「いや・・・京子の悪口の方じゃなくて、京子を心配している方かと・・・」
直美は慌てながらも、京子に気づかれないように話を合わせて答えた。

もしかして、京子は知らないのかしら?
さっきまでの話し方だと、まるで夏樹さんが言おうとしている何かを、
京子も知ってるみたいに聞こえてきたけど、私の気のせいだったのかしら?

「ふん、私の心配なんて、余計なお世話よ!」

う~ん・・・やっぱり、京子は知らないみたい。
ここはひとつ、夏樹さんに直接会って訊くしかなさそうかも・・・。
それに、夏樹さんが、京子の気持ちを逆なでするような事ばかりっていうのも気になるし。

「ねえ、京子?今度、一緒に温泉にでも行ってみない?」

「温泉に・・・?」

「うん、たまには羽を伸ばしてみるのもいいと思うしさ」

「やっぱり、あの人に何か言われてたんじゃないの?」

んもう~・・・どうして、そこにいくかな?
これで、夏樹さんがこう言ってたよって、言えば、言ったで、
文句のひとつも、ふたつも、みっつも!言うくせに・・・たぶん、もっと。
かといって、何も言ってないよって言えば、今度は何も言ってないのが悪いみたいになってしまうし。

う~ん・・・どうしたものか・・・。
私には手に余ってしまう京子の今日この頃・・・とかって。

秋雨だろうか?夜になって雨が降り出してきた。
時計を見ると夜の10時を少し過ぎた頃、
いつものように、部屋に行こうとする雪子に愛奈が声をかけた。

声をかけたといっても、母である雪子がキッチンの後片付けが済んだ頃にであるが。
もちろん、リビングでテレビを見ている父には気づかれないようにである。

「ねえ、お母さん?」

「な~に、愛奈さん?」

「う~ん、お母さんはどうしていつも(さん)をつけるの?」

「ふふっ、愛奈さんは、もう大人ですよ」

「いや、小さい頃から・・・は、まあいいけど。ねえ、お母さん?私も、お母さんのメル友とお話をしてみたいな?」

むふふっ・・・。こう見えても、私は、けっこうしつこい猫だのだ!
獲物が油断するまで、じっとじっと尻尾と遊びながら待ってる猫なのだじょ!
きっと、これには、鉄壁の要塞みたいなお母さんでも動揺するでしょう!

「いいわよ。愛奈さんがお話をしてみたいなら」

えっ?
えええ===っ!・・・ってか・・・うっそ?

「いいの?って、普通は逆でしょ?」

「どうして?」

「だって、お母さんがメールをしてる相手はお母さんの大切な人でしょ?」

「ええ、そうよ」

「ええ、そうよって。ちょっとお母さん?お母さんが良くても相手の人に訊いてみないとダメでしょ?」

「変な愛奈さんね?」

違うわよ・・・。変なのは、私じゃなくてお母さんの方だと思うわよ?
そうじゃなくても、そんな事をいきなり言われたら断るのが普通でしょ?

相手の人に訊いてみてからね?とか、何とかって理由を付けてさ。
それが、いきなり「いいわよ」って・・・あのね?

愛奈は、とりあえず、母親である雪子をなんとか動揺させたくて言ってみただけなのだったが。
愛奈の言葉にまったく動揺を見せないどころか、まるで冷蔵所の中にある飲み物の話のように、
優しく言葉を返されてしまうと「じゃあ」とは、言えなくなってしまう愛奈なのである。
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