愛して欲しいと言えたなら

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求めない願い

求めない願い・・・その5

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夏樹は、直美の問いかけにすぐには答えないで、手に持っている缶コーヒーのフタを開ける。

「あんた、缶コーヒーとかって飲むの?」

「えっ?私ですか?たま~にスーパーで安く売ってるのを買うくらいですよ」

「ふ~ん・・・」

「あの・・・ふ~んって・・・」

「あんたって、ホント可愛いわね。そういうとこって、好きよ!」

「えっ・・・?」・・・夏樹の言葉に、少し、ドキッとしてしまう直美。

「あんたの話し方も好き。それに、あんたのおバカなところなんて、あたしの好み!そのものよ」

「いや・・・あのですね・・・」

「あはは!で、どうしたの?」

「あ・・・あれ?えっと・・・」

「あら?忘れちゃったの?」

「えへへ・・・なんか忘れちゃったみたいです。やっぱり、私って、おバカみたい」

「おバカってね、言い換えれば純粋っていうのよ。疑う前に信じちゃう、あんたみたいにね!」

「えっ・・・いや~まあ~・・・なんとも・・・はあ」

「あはは。それじゃ、思い出したら、あたしの家にでもいらっしゃいな!」

「はあ・・・」

「あんたさ、京子の未来に、何を感じたの?」

「えっ・・・あっ、あああ===っ!」

「ふふっ・・・それじゃね!」

「えっ・・・あっ・・・」・・・すでに直美の声が通話が終わったスマホの中で迷子になっていた。

待ち受け画面に戻っているスマホを眺めるのを諦めて、ため息をひとつ、またひとつ。
そのままの雰囲気の中、上目使いで窓の外を見る直美には、京子の件で電話をした事よりも、
今さっき、自分が夏樹と電話で話をした事の方が信じられないでいた。

おバカは純粋、う~ん・・・言葉を変えれば、それは無知になるんでないかい?
な~んて、言ってはみても、おバカな私にはやっぱり分からないんだわん・・・わん?

直美は一人微笑み模様で、いつも車に積んである38円の缶コーヒーを取り出すと、
何が嬉しいのか?今度は、取り出した缶コーヒーを両手の上に乗せて話しかけた。
もちろん両手の上に乗せた缶コーヒーにである。

「夏樹さんがね、あなたの事が好きなんだって・・・ふふっ、よかったね!」
「それでは、私が飲んで差し上げましょう!」と、
缶コーヒーのフタを開けて一口飲んでは、また一人微笑み模様。

でも、夏樹さんって、いつも、さっきみたいに話すのかしら?
やっぱり、京子と話す時と、雪子さんと話す時では違うんだろうな?
という事はよ?という事は、もしかして、裕子さんと話す時も、やっぱり違うのかしら?

なるほど。なるほど・・・。
京子が、夏樹さんを毛嫌いする理由の中には、夏樹さんが雪子さんと話す時に、
どんな顔で、どんな表情で、どんな言葉で・・・って、考えちゃうのも入ってるわね!きっと!

でも、そんな夏樹さんの声は、雪子さんにしか聞こえていない。
そして、その声は、雪子さんだけのもの・・・。
夏樹さんの息遣いも、夏樹さんの肌の香りも、夏樹さんの優しい視線も、全部、雪子さんだけのもの。

京子の知らない夏樹さんを、雪子さんにだけ見せている・・・。
そんな夏樹さんが、きっと、京子には、我慢が出来ないんだろうな~。

私なんて、最初から相手にされないって分かるから、別に、何とも思わないけど、
京子の場合、夏樹さんの妻だったんだから、よけいよね~。
初めから相手にされない私と、夏樹さんに愛されていた京子では、悔しさの度合いが違うんだろうし。

初めから振り向いてもらえない私と、振り向いてもらえる距離にいたはずの京子。
もう二度と振り向いてはもらえない京子の立ち位置と私とじゃ、天と地くらいの違いなんだろうな。

な~んてね・・・でも、やっぱ!気になるわ。
夏樹さんって、雪子さんといる時は、どんな夏樹さんなのかしらって?考えちゃうんだわ!

相変わらず、一人微笑み模様の中にいる直美は、缶コーヒーをホルダーに置くと、
遠い昔、いつか忘れてきた優しく和らかな温もりを感じながら家路へと車を走らせていく。

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