愛して欲しいと言えたなら

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求めない願い

求めない願い・・・その4

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面子かぁ・・・。う~ん・・・。
レストランを出て京子と別れた直美は、そのまま家路にはつかないで、少し走ってみる事にした。
走るとはいっても、別に、ジョギングではなく、車で走る方なので、いわいるドライブである。

やっぱり、生まれ育った環境ってやつなのかな~?
京子の実家って、けっこう大きな屋敷だし、ご両親にしても祖父母にしても、
それなりに良い会社の勤めていたみたいだし。

私なんて、どこをどうほじくっても、面子なんて呼べるようなもんなんて、ひとつもないもんね。
お父さんは土建屋の日雇いみたいな従業員だったし、お母さんはずっとパートだったし。
家は、ずっと、貸家住まい。持ち家なんてもんに住んだ事なんて一度もないし。

でもさ、今になって、それがよかったのかな?って、思っちゃうかも。
だって、さっきの京子を見ていると、なんか、可哀そうな感じがしちゃったし。

確かに若い頃や学生の頃は、どうして私の家ってお金がないの?とか、
どうして他の友達の家みたいに持ち家じゃなくて貸家なの?とかって、
別に後ろめたいとかってわけじゃないけど、でも、何となく自分の家が恥ずかしかったけどさ。

今にして思えば、そんな家庭でよかったのかな?って思う。
良い環境の家庭で育った京子の方が自由に見えて、本当は不自由なのかもしれない。

そう言えば、夏樹さんも、同じような事を言ってたような・・・。
人って育った環境によって、恥ずかしいって思ってしまう最低ラインが違うって事なのかな?

でも、それを言ったら裕子さんは、どうなるのかしら?
だって、確か、裕子さんのお父さんって、一応、会社の社長さんよね?
田舎の街とはいえ、それなりに名前の通ってる会社だし・・・。

う~ん・・・おバカな私の頭では・・・。
などと、森林が多い農道を夏の景色を眺めながら走る直美が、一人勝手に呟きながらふと考えた。

そういえば、どうして、私って、京子と話が合うのかしら?
育った環境だって違うし、親だってそうでしょ?
私の親は使われる方で、京子の親は役職についているような立派な人だし。
う~ん・・・夏樹さんが、何か言っていたような・・・う~んと、何だったっけ?

直美が、普段使わない思考回路を何とか動かそうと四苦八苦している頃、
夏樹は不動産屋から紹介されたある物件の前に来ていた。

不動産屋が用意してくれた何件かの物件のうち、
今いる物件以外は、説明の段階で除外扱いだったのだが、
それでも、わざわざ調べてくれた不動産屋の顔を立てるために一応は順に回ってはみたのである。

ただし、回る順番は夏樹が決めての順番ではあるのだが・・・。
どの道、説明の段階で除外は決まっていたので、最後に今の物件に来るようにとの配慮である。

とりあえず、ゆっくり見て回りたいので鍵だけを預かって不動産屋さんには先に帰ってもらった。
というのは、夏樹が、この物件を見ただけで購入を決めたからである。

不動産屋は物件の中や周りを、もう少し、よく見てからの方がいいのでは?と言ったのだが、
夏樹はどっちにしてもリフォームをするので、物件の傷みなどはまったく気にする様子もなく、
それよりも、この物件を見つけてくれた不動産屋に感謝の気持ちを伝えるのである。

不動産屋からすれば、不動産物件などは、そうそう簡単に決まるはずはないと思っていたのだが、
それが決まってしまったのだから、嬉しくないはずはない。

しかも、不動産屋からしてみれば、一番、決まらないだろうと思っていた物件が、
今日の今日に、あっさりと決まってしまったのだし、
そのうえ、値引き交渉もなく現状に何の注文を付ける事もなくである。
不動産屋は、さっそく書類の準備をと、言いながら喜びを隠せない表情で帰っていったのは言うまでもない。

夏樹は、購入を決めた物件の前に立ちながら、そこから見える周りの景色を眺めていた。
どうやら、夏樹がこの物件を決めたのは、物件の状態がどうこうというよりも、
この物件がある環境と、この物件から見える周りの景色が決め手になったらしい。

夏樹が、のんびりと景色を眺めていると、バッグの中の携帯が夏樹を呼び出し始めた。
着信の相手を見ると、直美からである。

「あら?どうしたの?」

「いえ、あの・・・普通は、もしもし、からではないかと・・・」

「カメさんから、始まるの?」

「ふふっ・・・」

「あら、その分じゃ、京子への気遣いに疲れたって感じね」

「えっ?どうして、分かるんですか?」

何気ない夏樹との会話の始まりなのだが、前置きなしにいきなり入り込んでくる夏樹の言葉。
そんな夏樹の声に、直美の意識の隅で、安心の中に隠れていた嬉しさが生まれ始めていた。

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