愛して欲しいと言えたなら

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その手を離さないで

その手を離さないで・・・その18

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こちらに歩いてくる京子は、どことなく元気がないような雰囲気で、
2個並んだ椅子の奥の方にバックを置くと、ため息混じりの挨拶で直美の向かいの席に腰かけた。

「どうしたの?ため息なんてついちゃって!」

「ちょっとね・・・」

「もしかして、子供たちのこと?」

「まあね・・・」

「なんか、元気ないわね?」

「私に子供を二人も押し付けておいて、のん気なもんだわ。まったく!」

「夏樹さんのこと?」

「他にいないでしょ?」

ハチャー・・・こりゃ、何かあったみたいだわ。

「でもさ、女の子だっていうんならまだ分かるわよ。なんで、あんな野郎みたいな息子を二人も。あ~やだ!やだ!!」

「野郎みたいなって、男なんて大人になれば、みんな、そんな感じなんじゃないの?」

「直美はいいわよ!娘の方だからさ」

「そうかな~?」

「そうよ、息子なんてむさくるしいだけで、家の事なんて、な~んにも手伝わないし」

「そんなもんだと思うわよ」

「あ~、やだ!やだ!」

「でも、良い面もあると思うわよ」

「良い面って?」

「息子って娘みたいに細かい事にイチイチうるさくないでしょ?」

「直美のところはどうなの?」

「うちなんてシャンプー一つでも騒いでるわよ」

「シャンプーで?」

「そうよ。たま~にスーパーとかで安売りとかしてると思わず買っちゃうのよね。私は別に何でもいいんだけど。娘は、このメーカーのシャンプーじゃないと髪に合わないとか、お母さんの髪と私の髪を一緒にしないでよね!とかって」

「すいぶん、わがままなのね!」

「何、言ってるのよ。京子だって、私だって、若い頃は、そんな感じだったじゃない?特に父親に対してなんて、まるで汚い物でも見るみたいに父親を見てたじゃない?」

「そうだったかしら?」

「それに娘ってさ、聞きたくない事や言いにくい事とかって平気で言ってくるからね」

「そうなの?」

「そうよ。仲が良い親子関係なんてテレビの中だけよ。でも、息子だったら母親が嫌がる事や聞きたくないと思ってるような事は言わないでしょ?そういう面では、息子の方が親に気を使ってくれるのかもね!」

「そうかしら?」

「そうだと思うわよ。息子って自分勝手な面は確かにあるとは思うし、すぐに外へ遊びに行っちゃうけど、息子が母親にあ~だこ~だって、母親の嫌がる事を言ってるなんて、あんまり聞いた事ないわよ」

「そんな事はないと思わよ」

「まあ、よほど我慢が出来ないような事とかがあれば、別なんだろうけどね」

「・・・」

「もしかして、京子?何か言われたとか?」

「ちょっとね・・・」

「ちょっとねって。いったい、何を言われたの?」

「まあ、別に大した事じゃないんだけど」

別に?
大した事じゃない?

そお?
今の京子の顔から察するに、かなりヤバ系な事を言われたような気がするんだけど。
まあ、きっと、夏樹さん絡みなんだろうから、あんまり詮索するとこっちに飛び火してきそうだし。

「ねえ、直美は、娘さんに言われた中で、何が一番きつかったの?」

おいおい・・・やっぱり大した事だったんじゃない?
んな、一番きつかった事を訊いてくるって事は、こりゃ、かなり、きつめの事を言われたのね。

「私が娘に言われて、一番きつかった事か~なんだろ?やっぱり、あれかな?」

「あれって?」

「う~ん。あんまり言いたくないんだけどね。実はね、私が、離婚した旦那の悪口ばかり言ってた時期があったのよ」

「直美が・・・?」

「うん、まあね。きっと、娘は娘なりにその事で傷ついていたんだろうね。でも私は、そんな娘の気持ちに気がつかなくてさ。何かにつけては、別れた旦那に騙されたとか、あんな男だとは思わなかったとかってね。それで、私ったらさ、ついつい調子に乗っちゃったみたいでさ。あんな男となんか一緒にならなかったら、もっとましな人生だったのにって言っちゃったんだ・・・。そしたら、それを聞いていた娘がね、自分は生まれて来なかった方がよかったんだねって。だって、お母さんがお父さんと結婚していなかったら、自分は生まれて来なかったんだよねって・・・。それを言われてハッと我に帰った時には、もう、時、遅しでさ。後悔先に立たずってやつね。私って、おバカだからさ、つい調子に乗っちゃうのよね。でも、後にも先にも、あの時、娘の言われた言葉が、一番辛かったなあ」

「・・・」

「ん・・・?どうしたの、京子?」

へっ・・・?えっ・・・?まさかのまさかで?ビンゴだったりして?

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