愛して欲しいと言えたなら

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その手を離さないで

その手を離さないで・・・その16

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意外な問いかけに、戸惑いの表情を見せるのではと思っていた裕子だったが、
愛奈は、別に驚く事もなく、その問いかけを、静かに受け止めていた。

おそらく、愛奈には、裕子が言葉にした、その問いかけが、何を意味するのか分かるのだろう。
愛奈は、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべると、カップに残っているミルクティを口にした。

「ねえ、愛奈ちゃん?愛奈ちゃんは好きな人とかっているの?」

正直、今の裕子には、雪子の想いや、願いを、どういう風に愛奈に伝えたらいいのか分からない。
それでも、さっきの裕子の問いかけに動揺しなかったのだから、
愛奈も愛奈なりに、雪子との暮らしの中で何かを感じ取っていたのだろうと思った。
そんな愛奈に優しく語りかけようとした矢先、何かを思い出したらしく、急にお目目を丸くした愛奈が・・・。

「実は私、お母さんに誤解されちゃったみたいなんです」

「誤解・・・?」

「はい。私が、同性愛者だって思われたみたいなんです」

「えっ・・・?愛奈ちゃんって、そうだったの?」

「違いますってば!だから今、誤解されちゃったって!」

「ああ、そうね。そうだったわね。でも、どうして、愛奈ちゃんがそうなっちゃったの?」

「実は、あまりにも、お母さんの要塞が鉄壁過ぎたので、病院の駐車場で見ちゃった事を言っちゃったんです」

「病院の駐車場って、もしかして?」

「はい。お母さんが知らない女の人とって」

「あら・・・それ、言っちゃったの」

「だって、お母さんったら、何を言っても、全然、動じないんだもん!」

「それで、病院の駐車場での出来事を言ったら?」

「ダメでした。あえなく玉砕・・・。というか、いきなりのカウンターが」

「カウンター・・・?」

「(別にいいのよ、誰を好きになっても。お母さんは愛奈さんの見方だから・・・ね)って、なぜか、語尾に、ねっ。て、付けてのカウンターでした・・・」

「あははっ・・・」

「笑い事じゃないですってば。それから、だから、彼氏を作らなかったのね?みたいな、追撃が飛んできちゃうし!」

「あははっ・・・」

「でもね、私ね、その時に、確信したんです!」

「確信?何の確信?」

「いつもの物静かなのんびり屋さんは、実は、お母さんが演じているんだって!」

「演じているって?どうして、そうなるの?」

「裕子さんも知っていたんでしょ?」

えっ?・・・というか、どうして、そこで、私に振るの?

「う~ん・・・何て言ったらいいかしら?」

「別に気にしていませんから、大丈夫ですよ」

「ううん、そうじゃないのよ。愛奈ちゃんが言った事は、私も愛奈ちゃんと同じで知らなかったのよ。そんな雪子を知ったのは半年くらい前なの。それまでは、全然、分からなかったのは本当よ」

「半年くらい前・・・ですか?」

「ええ、本当よ。確かに、雪子の事で愛奈ちゃんに言えない事はあるわよ。でも、愛奈ちゃんに嘘は言わないわよ。愛奈ちゃんは勘が鋭いから、嘘をついてもすぐにバレちゃうしね」

「へへっ・・・信じてあげる」

信じてあげる・・・って、あのね、これでも、私の方がずっと年上なんですけど・・・あれ?
ちょっとまって・・・今の愛奈ちゃんの言い方って・・・?
まるで、雪子の言い方・・・まさかね・・・。
でも、愛奈ちゃんが、雪子の娘であるのは間違いないのよね・・・という事は・・・?

裕子は、愛奈の言葉に、少しの疑問が頭をよぎっていくのを感じた。
いや、少しの疑問というよりは、どちらかといえば、それは、不安なのかもしれない。
それは、まだ微かな見えそうで見えない、そこはかとなく漂う香りのような。

不意に垣間見えた不安に、夏樹の遺伝子が愛奈の中にあって欲しいと・・・。
愛らしい笑みで笑う愛奈を見ていると、そう願ってしまう裕子であった。

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