191 / 386
その手を離さないで
その手を離さないで・・・その11
しおりを挟む
じりじりと日差しが暑い日がほとんどないまま、7月も終わりに近づこうとしている。
今年は、梅雨明けが平年より遅かったためか、雨の日が多い夏のような感じがする。
そんな事を考えながら喫茶店のドアを開けたその背中では、今日も雨が降っている。
雪子は、雨に濡れた傘の雨の滴を払い落としながら傘立てにそっと置くと、
馴染みの喫茶店の中へ入って行った。
マスターは、雪子に気がつくと、笑顔を見せながら視線を奥の方の席に移す。
それに合わせるように、雪子が店内の奥の方へ視線を移すと、
いつも雪子が座ってる席の向かい側の席に、誰か、女性が一人座っている。
雪子は、少し微笑んでから、いつもの席へと歩いて行くと、
誰かが歩いてくる気配感じたのか、その女性が振り返った。
「愛奈さん、どうしたの?」
「あっ、お母さん。そろそろ来る頃だと思ってた」
「今日は、お仕事は?」
雪子は、いつもの席へ座りながら愛奈に訊いてみた。
「午後から早退したの」
「どうして?どこか、体の具合でも悪いの?」
「ううん、別に、どこも悪くないわよ」
「そうなの・・・」
そう言うと、雪子は、いつものミルクティーを注文した。
「ちょっと、お母さん?」
「な~に・・・?」
「な~に、じゃないでしょ?」
「どうしたの・・・?」
「普通は、どうしてここにいるの?とか、どうしてここが分かったの?とかって!」
「ふふっ・・・」
いつも、雪子が自分だけの時間を過ごすこの喫茶店に、愛奈が来ていた事に驚くわけでもなく、
かといって、何か、話をするかといえば、そんな様子もない。
まるで、愛奈が、そこに居ないかのように、運ばれてきたミルクティーに砂糖を入れている。
「お母さん、驚かないの?」
「ん・・・?」
「ん?じゃなくて、どうして、私が、ここに居るのかって!」
「ふふっ・・・裕子に訊いたんでしょ?」
うっ・・・次の言葉が思い浮かばない・・・。
だって、同時に、二つの質問の答えを言っちゃうんだもん。
あっ、違う・・・私が、質問の順序を間違えたんだ。
ホントは、最初に「どうして、私に、ここが分かったのか?」で、
そんで、次に「どうして、私が、ここに居たのか?」・・・う~ん・・・困ったぞい!
「そんなに困らなくてもいいわよ」
えっ・・・なんで分かったの?
「だって、そういうお顔をしてたから」
いや・・・あの・・・私は、まだ、何も言ってないんですけど。
「愛奈さん・・・?」
「はい・・・?」
あ~んもう~、突然、呼ばれたから変な返事をしちゃったじゃないのよ。
「愛奈さんのコーヒーカップ」
「あっ・・・へへへ。もう、空になっていたみたい」
「ふふっ・・・」
「それじゃ、私も、何か注文しようかな?お母さんは何がいいと思う?」
「愛奈さんの好きなのがいいと思うわよ」
「それじゃ、私も、ミルクティーにする」
愛奈は、雪子の表情を確認するように、それでいて、それと気付かれないように、
少しの視線と、多めの視線を使い分けながら、ミルクティーを注文する。
やっぱり、裕子おばさんの言ってた通りだわ。
あっ、おばさんって言っちゃダメだったのよね。
でも、今は誰も聞いてないし、声にも出していないんだから・・・ふふっ。
「ねえ、お母さん?」
「な~に・・・?」
「ふーちゃんって、誰なの?」
今年は、梅雨明けが平年より遅かったためか、雨の日が多い夏のような感じがする。
そんな事を考えながら喫茶店のドアを開けたその背中では、今日も雨が降っている。
雪子は、雨に濡れた傘の雨の滴を払い落としながら傘立てにそっと置くと、
馴染みの喫茶店の中へ入って行った。
マスターは、雪子に気がつくと、笑顔を見せながら視線を奥の方の席に移す。
それに合わせるように、雪子が店内の奥の方へ視線を移すと、
いつも雪子が座ってる席の向かい側の席に、誰か、女性が一人座っている。
雪子は、少し微笑んでから、いつもの席へと歩いて行くと、
誰かが歩いてくる気配感じたのか、その女性が振り返った。
「愛奈さん、どうしたの?」
「あっ、お母さん。そろそろ来る頃だと思ってた」
「今日は、お仕事は?」
雪子は、いつもの席へ座りながら愛奈に訊いてみた。
「午後から早退したの」
「どうして?どこか、体の具合でも悪いの?」
「ううん、別に、どこも悪くないわよ」
「そうなの・・・」
そう言うと、雪子は、いつものミルクティーを注文した。
「ちょっと、お母さん?」
「な~に・・・?」
「な~に、じゃないでしょ?」
「どうしたの・・・?」
「普通は、どうしてここにいるの?とか、どうしてここが分かったの?とかって!」
「ふふっ・・・」
いつも、雪子が自分だけの時間を過ごすこの喫茶店に、愛奈が来ていた事に驚くわけでもなく、
かといって、何か、話をするかといえば、そんな様子もない。
まるで、愛奈が、そこに居ないかのように、運ばれてきたミルクティーに砂糖を入れている。
「お母さん、驚かないの?」
「ん・・・?」
「ん?じゃなくて、どうして、私が、ここに居るのかって!」
「ふふっ・・・裕子に訊いたんでしょ?」
うっ・・・次の言葉が思い浮かばない・・・。
だって、同時に、二つの質問の答えを言っちゃうんだもん。
あっ、違う・・・私が、質問の順序を間違えたんだ。
ホントは、最初に「どうして、私に、ここが分かったのか?」で、
そんで、次に「どうして、私が、ここに居たのか?」・・・う~ん・・・困ったぞい!
「そんなに困らなくてもいいわよ」
えっ・・・なんで分かったの?
「だって、そういうお顔をしてたから」
いや・・・あの・・・私は、まだ、何も言ってないんですけど。
「愛奈さん・・・?」
「はい・・・?」
あ~んもう~、突然、呼ばれたから変な返事をしちゃったじゃないのよ。
「愛奈さんのコーヒーカップ」
「あっ・・・へへへ。もう、空になっていたみたい」
「ふふっ・・・」
「それじゃ、私も、何か注文しようかな?お母さんは何がいいと思う?」
「愛奈さんの好きなのがいいと思うわよ」
「それじゃ、私も、ミルクティーにする」
愛奈は、雪子の表情を確認するように、それでいて、それと気付かれないように、
少しの視線と、多めの視線を使い分けながら、ミルクティーを注文する。
やっぱり、裕子おばさんの言ってた通りだわ。
あっ、おばさんって言っちゃダメだったのよね。
でも、今は誰も聞いてないし、声にも出していないんだから・・・ふふっ。
「ねえ、お母さん?」
「な~に・・・?」
「ふーちゃんって、誰なの?」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる