愛して欲しいと言えたなら

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その手を離さないで

その手を離さないで・・・その5

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「どう?少しは、あたしって優しい人ね!って、思ってくれたかしら?」

いや・・・それを、自分で言わなければ・・・。

「でも、それじゃ、夏樹さんが、悪者役になるって事じゃないんですか?」

「悪者役?違うわね。悪魔よ!あ、クマの・・・あれ・・・」

「あはは・・・夏樹さんって、そうやって照れ隠しをするんですね」

「照れて悪魔なんて言う人が、どこの世界にいるのよ」

そう言いながら、また、コーヒーカップの中でスプーン遊びを始める夏樹である。

「京子は、今・・・何をしているのかしら?」

「えっ・・・?」

「また、今夜も、一人ぼっちの夜。どこで何を考えているのかしらね」

京子、一度、砕けたガラス細工は、もう二度と元には戻らないのよ。
どんなに駄々をこねても、やり直せない過去がある事を知らない限り、前には歩き出せないの。

「心配ですか、京子の事?」

「傷つけなければ、姿を見せてはくれない愛もあるの」

傷つけなければ・・・姿を見せくれない愛・・・。

「それじゃ、そのために雪子さんと?」

「何、バカな事を言ってんのよ。んなわけ、あるはずないでしょ?」

「だって、今・・・」

「雪子は人妻なのよ?ちゃんと旦那もいれば子供のいるし。それに、普通に暮らせる環境もあるのよ」

「でも、それじゃ、どうして、雪子さんと抱き合ったり・・・あっ」

「抱き合ったり・・・?」

「あっ・・・いえ・・・あのですね・・・それはですね」

「あんた、夢でも見たんじゃないの?」

「えっ?・・・あっ、そうかな、へへへ?」

夏樹さんが、否定した・・・?
夏樹さんが、初めて否定した・・・のよね?
今まで、何でも隠さずに話してくれていたはずの夏樹さんが、今、初めて否定したのよね?

「そんな事より、あんたはどうなの?この先も、独り身で生きていくつもり?」

今度は、話を逸らした?
私の事なんで、どうでもいい事なのに、そんな、どうでもいいような事にあえて話を逸らしてきた?
で・・・きっと、こう言うわ。「別に逸らしてないわよ」って・・・・でしょ?でしょ?

「あんた、犬とか、猫とかって、飼ってないの?」

おおお===い!いつもの夏樹さんは、どこへ行ったんですか===?

「ふふっ・・・ダメね。あたしって。今度は、あたしが隠そうとするなんて」

「えっ・・・?」

「雪子はね、いつも隠してたの。あたしと過ごしてきた時間をね。隠してたのよ」

「隠していた・・・雪子さんがですか?」

「そうよ。特に、自分の親友には、絶対にバレないようにしてたみたいだったのよ」

「どうしてですか?」

「雪子と付き合う前に付き合っていたのが、その親友だったからよ」

「はい・・・?」

「でも、途中でバレちゃったけどね」

「それで、どうなったんですか?」

「その親友っていうのが、裕子って言うんだけどね」

「裕子さん?」・・・確か、さっきも、裕子さんとかって?いったい、誰なのかしら?

「確か、京子と同じ高校だったはずよ。バスケ部とかに入ってたはずだけど」

「うそ・・・?」

「うそ?って、あんた、知ってるの?」

「知ってますよ。もちろん知ってます。というか、バスケ部の裕子さんっていったら、私の学年で知らない人はいないと思いますけど」

「へえ~、裕子って、そんなに有名だったの?」

「有名も有名。だって、私の高校で番を張ってたような人でしたから」

「うそ・・・?マジで?」

「はい、ホントですよ。私が、2年の時で、裕子さんが3年でしたから」

「あっ、そうか。そういえば、京子も、あんたも、裕子とは一年違いだったわよね」

「やっぱり、京子の名前を最初に言うんですね」

「うるさいわね!」

「へへへ・・・。でも、不思議なんですよね」

「不思議って、何が?」

「だって、裕子さんって、確か、2年生まではクラブ活動に夢中で、不良とかとは無縁だったはずなんですけど」

「けど・・・、なに?」

「ええ。それが、3年になってから、急に荒れたっていうか、急に不良になったっていうか」

「手が付けられなくなったって?」

「ええ・・・そんな感じで。当時は、本当に怖かったんですよ!」

「あはは・・・。きっと、それって、原因は、あたしだわ!」

あい・・・?
今、何ておっしゃいました?夏樹さん?
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