愛して欲しいと言えたなら

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その手を離さないで

その手を離さないで・・・その4

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直美の仕草が面白いらしく、夏樹は、そんな直美を眺めながら、
運ばれてきたコーヒーにミルクと砂糖を入れると、また、スプーンでクルクルと遊び始める。

「京子はね、一度、思いっきり!ふられなければダメなのよ」

「ふられるって、誰にですか?」

「誰に・・・?んなの、あたしに決まってるじゃない?」

「夏樹さんにって?だって、京子は、夏樹さんをふったんじゃないんですか?」

「本当にそうなら、京子は、今頃、違う男でも作って人生をエンジョイしてるわよ!」

「京子は、夏樹さんをふったんですよね?」

「あんたね、何もそんなに何回も、ふった!ふった!って、言わなくてもいいわよ」

「あっ・・・ごめんなさい。そういうつもりじゃ」

「そう言いながら、どこか、あたしで遊んでない?」

「へへへ・・・分かります?」

「あんたも、少しは、苦労してきたみたいね」

「えっ?どうしてですか?」

「あんたの話し方は、いつも、前を向こうとしている話し方だからよ」

「そうかな?」

「自分でも気がつかないうちに、そう思うようになってしまったのかもね」

「はあ~・・・」

「人が前を向いて歩こうとするきっかけなんて何でもいいのよ。軽い失恋でも辛すぎる失恋でも、それに何も恋愛だけに限らず、大切な誰かを突然失ったり、世界情勢のニュースで考えるようになったり、人それぞれに自分が傷ついたと感じるその度合いも深さも違うしね。ただ、その人にとって前を向こうと思わせる何かがあれば、人は気がつかないうちに前を向いて歩こうとするものなのよ。今のあんたみたいにね」

「そうは言われても、私としては思い当たるような事はなかったような・・・」

「それほど、あんたにとっては深かったって事なのよ」

「私にとってですか?」

「そう、記憶されることを拒絶しようとする時間か何か・・・」

「はあ・・・」

「きっと、いつか思い出すわよ」

「もし、そうなのなら、思い出したくはないですけど」

「ほら、今の言葉が、それを証明しているでしょ?」

「今の言葉・・・ですか?」

「自分でも気がつかないうちに出てしまう言葉。思い出したくない・・・本当なら、そこは、思い出したくないではなく、ホントにそんな出来事があったのかな?が、正解なのよ」

「う~ん・・・分かんない」

「ふふっ・・・な~るへそ。あんたって、そんな風に甘えるのね」

「えっ・・・?」

「京子はね、あたしに、涙が枯れるほどの失恋をしなきゃ、前には歩き出せないの」

突然、話の内容を変える夏樹の言葉に、先ほど、夏樹が言っていた、
誰よりも優しいという言葉の意味が、直美には、少し垣間見えたような気がした。
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