愛して欲しいと言えたなら

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その手を離さないで

その手を離さないで・・・その3

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相変わらず、空になったコーヒーカップの中で、スプーンをクルクルと回している夏樹。
誰よりも優しいという夏樹の言葉に、何か言おうとする直美を遮るように言葉が聞こえてきた。

「はっきり言ってあげた方がいいかしら?」

聞こえてきた夏樹の言葉よりも、そこ女言葉で言うの?などと、一人思う直美である。

「はっきり言うけど、今のあたしにとっては、雪子が全てなの!」

「えっ・・・?」

「京子の事なんて、はっきり言っちゃえば、もう、どうでもいいの」

「いや・・・あの・・・」

「京子が、この先、どうなろうが、あたしの知ったこっちゃないってこと」

夏樹さんは、いったい、何が言いたいんだろう?

もし、以前に夏樹さんと会っていない私が、今の夏樹さんの言葉を聞かされたら、
すごく自分勝手で冷たい人だと思ったかもしれないけど・・・。
少し免疫がついたみたいで、冷たい人と思う前に今の私はその言葉の意味を考えてしまっている。

「あら?あんた、もしかして、あたしに対して免疫力でもついちゃった?」

だから~。どうして、分かっちゃうのよ・・・。
すると、次は「そんなの分かるわよ」って、言うのよね・・・。うんうん。

「言わないわよ・・・。それより、あんたは、どうしたいと思ってるの?」

言わないんかい?・・・いや・・・なぜに分かるの?

「まあ、あんたに、それが分かるんなら、あたしに会いには来ないわね!」

「夏樹さんって、面白い人ですね」

「ん・・・?どうして?」

「だって、さっきから、京子の事を否定していながら、京子の事ばかり言っているんですもの」

「ふふっ・・・」

夏樹は、笑みを浮かべながら話す直美を横目に、二人分のコーヒーのお替りを注文した。

「よくさ、人生に手遅れなどはない、みたいな事を言う人がいるじゃない?」

「人生、何度でもやり直しが出来るとかってよく聞きますけど。同じような事ですよね?」

「ええ、そうね。でも、あんた、本当にそう思う?」

「別に、何気なく聞いていた時はそんなもんかな?って、思っていましたけど」

「今の京子を見ていると・・・でしょ?」

「はい・・・」

「それで、あんたから見て、あたしと京子、やり直せると思う?」

「それは・・・」

「もし、あたしから、京子に、もう一度やり直したいと言ったら?」

「京子には悪いけど・・・」

「無理よね・・・。でも、それは、どうして?」

「京子の今日までの振る舞いが、それを・・・」

「消えない記憶・・・。京子は、超えてはいけない一線をすでに超えてしまっているの」

「私も、そう思います」

「それなのに、それに気がついていない京子は、あたしとやり直せたならと願っている自分さえも否定してしまうから、一歩も前に歩き出せないでいるのよ」

「やっぱり、京子は心のどこかで、夏樹さんともう一度って思っているんだと。私も思います」

「でも、その気持ちは純粋な気持ちではなくて、雪子に対する嫉妬からきている願いなの」

「やっぱり・・・」

「もし、それで、あたしとやり直せたとして、京子は幸せになれると思う?」

「たぶん、それでも、ずっと、雪子さんの陰に怯え続ける毎日になるんだと思います」

「するとまた、同じところに戻って来てしまうの。いったい、どうしたいの?ってね」

たぶん、夏樹さんの言う通りだと私も思う。
京子の心の中に雪子さんの存在がある限り、京子は夏樹さんとは幸せになれないのかもしれない。
私だったら、別にそんなの気にしないと思うんだけど。どうして、京子は気にするんだろう?

「だから、さっきも言ったでしょ?京子は一度もふられた事がないって!」

その前に、夏樹さん・・・。私、まだ、何も言ってないんですけど・・・。
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