182 / 386
その手を離さないで
その手を離さないで・・・その2
しおりを挟む
空になったコーヒーカップの中、スプーンで遊んでいる夏樹。
「夏樹さんも、そうやって、スプーンで遊ぶ癖があるんですか?」
「ふふっ、ないわよ・・・。もう、手遅れって言ったでしょ?」
「京子の事ですか?」
「そうよ・・・。あんたも、薄々、感づいているんでしょ?」
「やっぱり、そうなんですか?」
「あんたなら、きっと、京子とは違う事をしたかもしれないわね」
「京子と違う事ですか?」
「男と女ってさ、出会う時もそうだけど、別れる時も、決定的な場面って必ずあるのよね」
「別れる時も・・・何となく分かるような気がします」
「その決定的な場面で、京子が選んだ答えが、今の京子の姿なの」
「でも、それじゃ、京子は、どうすればよかったんですか?」
「あんたなら、どうしたかしら?」
「私ですか・・・?」
「そう。どうしても別れたくなかったとしたら?あんたなら、どうしたかしら?」
「どうしたって、訊かれても・・・」
「京子はね、あたしに媚びればよかったのよ」
「媚びればって、それは、ちょっと」
「あたしが何様のつもりだって言いたいの?」
「そこまでは言わないですけど・・・。でも」
「あんたなら、きっと、喜んで、あたしに媚びるでしょうね」
「ちょっと、夏樹さん?」
「ふふっ・・・怒った顔のあんたも可愛い!」
「ん・・・もう~」
「でもね、媚びるって事は、決して、恥ずかしい事じゃないのよ」
「はあ・・・」
「京子はね、一度もふられたことがないの」
「うそ・・・?」
「ホントよ。だから、あたしとの事でも、京子は、ふられる側からふる側へと、自分を変えたのよ」
「知りませんでした」
「あたしが離婚した方がいいんじゃないかと告げた時、京子は、それは、自分が決めるって言ってね」
「京子が・・・。そうだったんですか。初めて聞きました」
「そんな京子の心の中の性が、あたしを追い込んでいったって事を、京子は知らないんだろうけどね」
「それじゃ、京子は・・・あっ、それって」
「思い出した?子供たちが言ってた言葉?」
「ええ・・・。京子は公務員と一緒になればよかったんだって」
「そうよ。そして、あたしには、京子がいない方が事業は成功したはずだ・・・ってね」
「ええ・・・聞きました」
「人ってね、人の心の痛みは分かっても、人の心が傷んでいく姿は見えないの。それは、京子も同じ」
「そして、それは、いくら言っても、京子は、決して耳を貸さない・・・ですか?」
「転んだことがない人って、転ぶのが怖いから、必ず誰かにすがって、すがったその人を自分の代わりに転ばしてしまうの」
「それじゃ、京子が悪いと・・・?」
「んなの、あたしが全部悪いでいいじゃない」
「でも、それじゃ京子は、ずっと・・・」
「でしょうね。でもね、それほど、あたしに執着するくらいなら、なぜ、あの時、あたしを選ばなかったの?って言いたいわ」
「あの時・・・?」
「離婚を選ばないで、あたしを選べばって事よ」
「あっ・・・それが、さっき言っていた、媚びるですか?」
「そうよ・・・。気取って離婚届なんて薄っぺらな用紙を、あたしの前に差し出すからバカなのよ」
「でも・・・」
「んで、今になって、あたしが雪子と、どうしたこうしたって言える権利が、京子にあると思う?」
「いえ・・・あの・・・」
「そんなに悔しいんなら、あたしを捨てた自分の愚かさを悔しがりなさいって事よ」
「やっぱり夏樹さんは、京子に冷たいです」
「違うわよ。優しいのよ!この地球上の誰よりも、優しいの」
夏樹の、京子へ対しての冷たい言葉に、さっきのようにカチンとくるかと思った直美だったが、
なぜか、そうはならなかった。
それよりも、夏樹の言う(優しい)という言葉の意味を考えていた。
「夏樹さんも、そうやって、スプーンで遊ぶ癖があるんですか?」
「ふふっ、ないわよ・・・。もう、手遅れって言ったでしょ?」
「京子の事ですか?」
「そうよ・・・。あんたも、薄々、感づいているんでしょ?」
「やっぱり、そうなんですか?」
「あんたなら、きっと、京子とは違う事をしたかもしれないわね」
「京子と違う事ですか?」
「男と女ってさ、出会う時もそうだけど、別れる時も、決定的な場面って必ずあるのよね」
「別れる時も・・・何となく分かるような気がします」
「その決定的な場面で、京子が選んだ答えが、今の京子の姿なの」
「でも、それじゃ、京子は、どうすればよかったんですか?」
「あんたなら、どうしたかしら?」
「私ですか・・・?」
「そう。どうしても別れたくなかったとしたら?あんたなら、どうしたかしら?」
「どうしたって、訊かれても・・・」
「京子はね、あたしに媚びればよかったのよ」
「媚びればって、それは、ちょっと」
「あたしが何様のつもりだって言いたいの?」
「そこまでは言わないですけど・・・。でも」
「あんたなら、きっと、喜んで、あたしに媚びるでしょうね」
「ちょっと、夏樹さん?」
「ふふっ・・・怒った顔のあんたも可愛い!」
「ん・・・もう~」
「でもね、媚びるって事は、決して、恥ずかしい事じゃないのよ」
「はあ・・・」
「京子はね、一度もふられたことがないの」
「うそ・・・?」
「ホントよ。だから、あたしとの事でも、京子は、ふられる側からふる側へと、自分を変えたのよ」
「知りませんでした」
「あたしが離婚した方がいいんじゃないかと告げた時、京子は、それは、自分が決めるって言ってね」
「京子が・・・。そうだったんですか。初めて聞きました」
「そんな京子の心の中の性が、あたしを追い込んでいったって事を、京子は知らないんだろうけどね」
「それじゃ、京子は・・・あっ、それって」
「思い出した?子供たちが言ってた言葉?」
「ええ・・・。京子は公務員と一緒になればよかったんだって」
「そうよ。そして、あたしには、京子がいない方が事業は成功したはずだ・・・ってね」
「ええ・・・聞きました」
「人ってね、人の心の痛みは分かっても、人の心が傷んでいく姿は見えないの。それは、京子も同じ」
「そして、それは、いくら言っても、京子は、決して耳を貸さない・・・ですか?」
「転んだことがない人って、転ぶのが怖いから、必ず誰かにすがって、すがったその人を自分の代わりに転ばしてしまうの」
「それじゃ、京子が悪いと・・・?」
「んなの、あたしが全部悪いでいいじゃない」
「でも、それじゃ京子は、ずっと・・・」
「でしょうね。でもね、それほど、あたしに執着するくらいなら、なぜ、あの時、あたしを選ばなかったの?って言いたいわ」
「あの時・・・?」
「離婚を選ばないで、あたしを選べばって事よ」
「あっ・・・それが、さっき言っていた、媚びるですか?」
「そうよ・・・。気取って離婚届なんて薄っぺらな用紙を、あたしの前に差し出すからバカなのよ」
「でも・・・」
「んで、今になって、あたしが雪子と、どうしたこうしたって言える権利が、京子にあると思う?」
「いえ・・・あの・・・」
「そんなに悔しいんなら、あたしを捨てた自分の愚かさを悔しがりなさいって事よ」
「やっぱり夏樹さんは、京子に冷たいです」
「違うわよ。優しいのよ!この地球上の誰よりも、優しいの」
夏樹の、京子へ対しての冷たい言葉に、さっきのようにカチンとくるかと思った直美だったが、
なぜか、そうはならなかった。
それよりも、夏樹の言う(優しい)という言葉の意味を考えていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。



【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる