愛して欲しいと言えたなら

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声が聞こえない

声が聞こえない・・・その17

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夏樹は、自宅へと続く細い道には入らないで、直美の車のすぐ近くに車を止めた。
時計を見ると、夜の9時を少し回っているらしく、あたりはすっかり暗くなっていた。
夏樹は車を降りると、直美が立っている場所まで歩いて行く。

「どうしたの、こんな時間に?」

「ええ・・・いつの間にか、こんな時間になってしまいました」

「いつから、こんな時間になってしまったの?」

「えっ・・・?」

「あっ、間違えた、いつから、こんな時間になるまで待ってたの?」

「ふふっ・・・明るい頃からですけど。でも、待っていたわけじゃなくて、夏樹さんの家の明かりを、何度か、通り過ぎながら見てました」

「明かり・・・?灯てないわよ?」

「あっ、えへへ・・。灯くのをでした」

「あはは。あんた、面白いわね!」

「いえ・・・まあ・・・」

「な~に・・・あたしに、恋でもしちゃった?」

「えっ・・・?」

「ふふっ、そんな顔をしてるわよ。今の、あんたの顔」

「えっ・・・?そんなことはないですよ!」

「あら?そんなに、あたしのことが嫌いだったの?」

「あっ・・・いえ・・・。そんなことはないですけど」

「どっちなの・・・?」

いきなり、どっちなの?と、訊かれた直美が、返答に困っている姿を微笑みながら見つめる夏樹。

「ふふっ・・・。冗談よ!冗談。それよりも、京子に何かあったの?」

何かあったの?
京子に何かあったの?
それは、心配しているという意味?

京子は元気?でもなく、子供たちに何かあったの?ではなく・・・。
ストレートに京子に何かあったの?と、訊く夏樹さん?その言葉は、どういう意味なの?

「別に、意味なんてないわよ」

「えっ・・・?」

なんで分かったのかしら?
私は、まだ、何も言っていないのに。
やっぱり、夏樹さんって、超能力者なんじゃないかしら?

「違うわよ。あんたが、あたしに会いに来る理由なんて、京子の事しかないでしょ?」

「あの・・・どうして、そう思ったんですか?」

「どうしてって、あんた京子の親友でしょ?それに、もし、子供たちに何かあって、あたしに知らせなければならないような事態とでもいうなら、あんたじゃなくて、京子が、直接、あたしに会いに来るわよ」

確かに・・・。

「それにね、もし、子供たちが借金取りにでも追われて何ともならないなら、京子は警察か、もしくは弁護士にでも頼むはずよ」

なるほど・・・。言われてみれば、確かに。だわ。
確かに、京子の性格からしたら、夏樹さんの言う通りかもしれないわ。

「それじゃ、行きましょ!」

「えっ、行きましょって?」

「こんなところに、いつまでもいたって仕方がないでしょ?」

「あっ・・・はい。確かに」

「それじゃ、早く、家に入りましょ?」

「家って・・・あっ、はい・・・。」

「あんた、何、真に受けてんのよ」

「えっ・・・」

「こんな暗くなった夜に、あんたみたいな綺麗な女性があたしの家にって。んなわけないでしょ?」

「えっ・・あっ・・・」

「暗くなくても、あんたが、あたしの家に入ったなんて京子が知ったら、きっと、閻魔大王になっちゃうわよ」

「それじゃ、夏樹さんは、誰も、家に入れた事がないんですか?」

「な~に?雪子の事を言ってるの?」

「あっ・・・そういわけじゃ・・・」

「いいわよ、別に・・・。雪子は入ったわよ」

「やっぱり・・・」

「何が、やっぱりよ。変な勘繰りは要らないわよ」

「でも・・・」

「雪子はね、あたしを探していたの。あの家には、あんなに沢山のぬいぐるみたちが住んでいるのに、それなのに、あたしだけがいないって・・・。」

「えっ・・・?」

「キッチンを探しても、リビングを探しても、どこを探しても、あたしがいないって・・・」

「あの・・・」

「でもね、どこを探しても、あたしがいないんじゃなくて、今の雪子には、あたしが見えないの」

突然、話を急カーブさせる夏樹なのだが・・・。
なぜか直美には、そう話す夏樹の瞳が、とても、寂しく、悲しみの中にいるような気がした。

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