愛して欲しいと言えたなら

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声が聞こえない

声が聞こえない・・・その13

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しかし、まあ~。こうして改めて見ていると。本当にお酒が似合うのよね。雪子って。

「そういえば、雪子って、家でもその飲み方してるの?」

「うん、そう・・・。でも、家では、少ししか飲まないけど」

「旦那さんもウイスキー?」

「違うよ。旦那さんはいつもビール」

「旦那さんは、何も言わないの?」

「うん。私は、いつも、寝る前に少し飲むだけだから」

「あの大酒飲みの雪子が?」

「う~ん・・・よく分からないけど、眠る前に少し飲むと、よく眠れるし」

「寝る前に少しって、あの大酒飲みの雪子が?」

「もう~、それは大昔の話よ」

「そうは言っても、あの大酒飲みの雪子を知ってる私としては信じられないわよ」

「いつからかな?眠るのが好きになったのは」

「眠るのが好き?」

「うん。だから、すぐに眠れるように飲むの」

眠るのが好き?すぐに眠れるように?
それって、もしかして、現実逃避なんじゃないの?
雪子の、今の生活から逃れたいっていう心理が、雪子も知らないうちに・・・じゃない?

「ねえ、雪子?眠る前に少しって、いつ頃から、そんな飲み方をするようになったの?」

「さあ・・・気がついたら、そうなってたみたい」

これって・・・ううん、この感じっていうか、この雰囲気っていうか。
確か、夏樹さんと海に行った時に感じたのと同じ?・・・じゃないかしら?

拒絶するわけでもなく、かといって受け入れようとするわけでない。
誰かに知って欲しいと思うわけでもなく、だからといって、寂しさをかみしめているわけもなく。

どう表現したらいいのかしら?
そうね。どことなく物言わない幽霊みたいな、ただ、そこに漂ってるだけの雲みたいな・・・。
だからって感情が無いわけではないし、心のどこかがポッカリ空いてるというわけでもない。

「そういえば、翔太君に見張られていたって言ってたけど、その後は、どうなったの?」

「どうって言われても、気がついたら、いなくなってたっていうか」

「その時、夏樹さんと一緒にいたの?」

「いないよ」

「いないって、それじゃ、どこで夏樹さんと会ったの?」

「どこって、病院だよ」

だんだん「だよ」が、出てくるようになったわ・・・。

「病院だよって、それじゃ、翔太君に見られたんじゃないの?」

「たぶん、見てたと思うけど」

「思うけどって、それじゃ、バレたんじゃないの?」

「それはないと思う」

「あのタコ状態の雪子が?」

「その時は、ちゃんとロボットになってたわよ」

「ロボット?」

「そう、ロボット」

ロボット?雪子が、ロボット?カキン!カシャン!の、ロボット?
なんか想像すると面白いけど、でも、それって、意識しているって事じゃないのかしら?
家族にバレないように、意識し始めているという事になるんじゃない?

「それに、お母さんには、ここの温泉まで友達に送ってもらうって言って来たし」

「どうして?」

「きっと、翔太さんが訊くと思うから」

「翔太君が、お母さんに?」

「うん。それに、翔太さんは、私と同じ新幹線だったから追いかけて来れないだろうし」

「まあ、確かに、タクシーなんか使ったらすごい料金になるわね」

「それに、翔太さんは、もともと疑っているわけじゃないから」

「そうなの?」

「うん。ただ、面白そうだからって理由みたい。なんか、スパイみたいで」

「なるほど、言われてみれば、そうかもしれないわね!」

「それに、その分として旦那さんから、それなりに経費としてお小遣いをもらってるだろうし」

「ようは、お小遣いをもらって、スパイごっこをしている気分なわけね!」

「そうだと思うわよ。お母さんは人形劇が好きなの?って、訊いてたみたいだし」

「訊いてたみたいって、誰に?」

「旦那さんに。だから、この間も、旦那さんが、人形劇が好きなら今度DVDでも借りて来ようかって」

人形劇・・・?雪子に、そんな趣味なんてあったかしら?

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