愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
173 / 386
声が聞こえない

声が聞こえない・・・その13

しおりを挟む
しかし、まあ~。こうして改めて見ていると。本当にお酒が似合うのよね。雪子って。

「そういえば、雪子って、家でもその飲み方してるの?」

「うん、そう・・・。でも、家では、少ししか飲まないけど」

「旦那さんもウイスキー?」

「違うよ。旦那さんはいつもビール」

「旦那さんは、何も言わないの?」

「うん。私は、いつも、寝る前に少し飲むだけだから」

「あの大酒飲みの雪子が?」

「う~ん・・・よく分からないけど、眠る前に少し飲むと、よく眠れるし」

「寝る前に少しって、あの大酒飲みの雪子が?」

「もう~、それは大昔の話よ」

「そうは言っても、あの大酒飲みの雪子を知ってる私としては信じられないわよ」

「いつからかな?眠るのが好きになったのは」

「眠るのが好き?」

「うん。だから、すぐに眠れるように飲むの」

眠るのが好き?すぐに眠れるように?
それって、もしかして、現実逃避なんじゃないの?
雪子の、今の生活から逃れたいっていう心理が、雪子も知らないうちに・・・じゃない?

「ねえ、雪子?眠る前に少しって、いつ頃から、そんな飲み方をするようになったの?」

「さあ・・・気がついたら、そうなってたみたい」

これって・・・ううん、この感じっていうか、この雰囲気っていうか。
確か、夏樹さんと海に行った時に感じたのと同じ?・・・じゃないかしら?

拒絶するわけでもなく、かといって受け入れようとするわけでない。
誰かに知って欲しいと思うわけでもなく、だからといって、寂しさをかみしめているわけもなく。

どう表現したらいいのかしら?
そうね。どことなく物言わない幽霊みたいな、ただ、そこに漂ってるだけの雲みたいな・・・。
だからって感情が無いわけではないし、心のどこかがポッカリ空いてるというわけでもない。

「そういえば、翔太君に見張られていたって言ってたけど、その後は、どうなったの?」

「どうって言われても、気がついたら、いなくなってたっていうか」

「その時、夏樹さんと一緒にいたの?」

「いないよ」

「いないって、それじゃ、どこで夏樹さんと会ったの?」

「どこって、病院だよ」

だんだん「だよ」が、出てくるようになったわ・・・。

「病院だよって、それじゃ、翔太君に見られたんじゃないの?」

「たぶん、見てたと思うけど」

「思うけどって、それじゃ、バレたんじゃないの?」

「それはないと思う」

「あのタコ状態の雪子が?」

「その時は、ちゃんとロボットになってたわよ」

「ロボット?」

「そう、ロボット」

ロボット?雪子が、ロボット?カキン!カシャン!の、ロボット?
なんか想像すると面白いけど、でも、それって、意識しているって事じゃないのかしら?
家族にバレないように、意識し始めているという事になるんじゃない?

「それに、お母さんには、ここの温泉まで友達に送ってもらうって言って来たし」

「どうして?」

「きっと、翔太さんが訊くと思うから」

「翔太君が、お母さんに?」

「うん。それに、翔太さんは、私と同じ新幹線だったから追いかけて来れないだろうし」

「まあ、確かに、タクシーなんか使ったらすごい料金になるわね」

「それに、翔太さんは、もともと疑っているわけじゃないから」

「そうなの?」

「うん。ただ、面白そうだからって理由みたい。なんか、スパイみたいで」

「なるほど、言われてみれば、そうかもしれないわね!」

「それに、その分として旦那さんから、それなりに経費としてお小遣いをもらってるだろうし」

「ようは、お小遣いをもらって、スパイごっこをしている気分なわけね!」

「そうだと思うわよ。お母さんは人形劇が好きなの?って、訊いてたみたいだし」

「訊いてたみたいって、誰に?」

「旦那さんに。だから、この間も、旦那さんが、人形劇が好きなら今度DVDでも借りて来ようかって」

人形劇・・・?雪子に、そんな趣味なんてあったかしら?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

処理中です...