愛して欲しいと言えたなら

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声が聞こえない

声が聞こえない・・・その12

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二人は旅館の中に入ると、一通りの、というより、いつものお決まりのコースを終えてから、
部屋に戻って寝る前の、こちらも、また、いつものお決まりのコースになるのだが、
レストランの中にある夜遅くまで営業をしているバーの方へ来ていた。

雪子と裕子はコーヒーを飲みながら、たわいのない話をしていると、
先ほど注文していたウイスキーが運ばれてきた。

裕子は、水割りがいつもの飲み方なのだが、雪子は、氷か、もしくは、そのままストレート。
今夜は、裕子も、雪子と同じ銘柄のウイスキーにしたみたいで、水割りを作りながら雪子に訊いてみた。

「ねえ、雪子?」

「な~に?」

「私、前々から訊こう訊こうって思ってたんだけどさ、雪子って、いつも決まって、その銘柄よね?」

「そうだったかな?」

「そうよ。それに、雪子は、もともとウイスキー派じゃなかったじゃない?」

「そうお?」

「そうお?って、雪子って、いつも、ウイスキーじゃなくて、ビールかワインだったはずでしょ?」

「それは、昔の話だよ」

「まあ、それは置いといてとしてもよ。その飲み方よ?」

「その飲み方って?」

「雪子って、ストレートで飲んでるでしょ?そんで、たま~に氷を入れたりしてさ」

「それが、どうかしたの?」

「その飲み方って、もしかして、夏樹さんの飲み方なんじゃないの?」

「あれ?裕子ったら、今頃、気がついたの?ふふっ。」

「ふふって。もう~。やっぱり、そうだったのね。前々から、おかしいとは思っていたのよ」

「ふふっ・・・」

「それじゃ、もしかして、そのウイスキーの銘柄も?」

「そう。ふーちゃんの好きな銘柄だよ!」

今頃って・・・確かに、今頃よね?
私ったら、どうして、今の今まで気がつかなかったのかしら?
雪子って、いつも、ワインかビールで、ウイスキーはあまり得意じゃなかったはずなのに。

考えてみれば、夏樹さんと別れて、まもなくして、ウイスキーを飲むようになったんだったわ。
まあ、ワインやビールからウイスキーへ趣味が変わったのかな?とも、思ってはいたんたけど。

それよりも、私が、ずっと、気になってたのは、その飲み方の方だったのよね。
普通なら、水割りが主流じゃない?
ところが、雪子は、いきなり、ストレートで飲み始めたから。しかも、生温いままのウイスキーを。

「やっぱり、そうだったのね。でも、どうして?」

「どうしてって言われても。う~ん、きっと、何か一つだけでも繋がっていたかったからかな?」

「夏樹さんと?」

「う~ん、今にしてみればって事になるんだろうけど」

「な~に?それじゃ、今までは、無意識にその飲み方をしてたってわけ?」

「うん。別に、ふーちゃんを意識してたわけじゃないのは確かだよ」

意識してたわけじゃない・・・。確かに、それって、雪子らしいのかもしれないけど。
そういえば、去年の12月の夜、この場所だったわね?
雪子と夏樹さんがメールで再会したのって・・・。

あれから半年しか過ぎていないのに、今では、もう、夏樹さんの腕に絡みついて甘えている雪子。
もしかしたら、赤い糸って本当にあるのかもしれないって思えちゃうわ・・・少し悔しいけど。

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