愛して欲しいと言えたなら

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声が聞こえない

声が聞こえない・・・その4

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う~ん・・・。
私って、もしかしたら、墓穴を掘ったのかも・・・?
いえ、そんな事はないわ。だって、私が口を滑らせたのは、あの人という言葉だけ。
いくら愛奈ちゃんの勘が鋭いとはいっても、分かるはずがないわよね。

というより、分かるはずも何も、私と雪子が同じ人を好きなっていたなんて、
想像出来るわけないんだし、ましてや、その相手の人が・・・もち、夏樹さんの事だんだけど。

そして、その夏樹さんが、私ではなくて、雪子を選んだなんて。
そんな展開なんて、テレビドラマくらいなんだし、で、最近、またまた、雪子と夏樹さんが。
な~んて・・・愛奈ちゃんが、そんな事を想像するなんてありえないわ・・・。

「あの人って・・・もしかして・・・ですか?」

お願い、愛奈ちゃん。言葉を飛ばさないで。継ぎ目の言葉も聞かせてね。
そうじゃないと、おばさん・・・あら、自分で言っちゃった・・・。
・・・としては、返答に困っちゃうんだから。お願い。

「な~に?もしかしてって・・・?」

「いえ・・・やっぱりいいです。ちょっと、飛躍し過ぎてるみたいなので」

おいおい・・・なに?なんなの?その飛躍し過ぎてる妄想って・・・?
しかし、愛奈ちゃんの言葉の使い方って、正直言って驚かされるばかりだわ。
どう考えてみても、絶対に夏樹さんの血が、愛奈ちゃんの中に巣を作ってるとしか思えないし。

でも、それは、年数的にはありえないのよね。
雪子が、今の旦那との結婚の前に夏樹さんと会っていなければ・・・だけど・・・まさかね?
裕子は、先日の愛奈との会話を思い出しながら、温泉までの長い山道の景色を眺めていた。

今日は、いつも送り迎えをする旦那の運転する車ではなくタクシーなので、
少々お金はかかるものの、その分、いつもと違う解放感の中で景色を満喫している裕子だった。

でも、私としては、不思議な事が一つあるのよね?
いったい、雪子は、夏樹さんと、どんなメールのやり取りをしてるのかしら?
だってよ、いくら夏樹さんが女言葉を使ってたとしてもよ、メールの内容までは無理だと思うのよね。

だけど、弟さんが、雪子と夏樹さんのやり取りのメールを見たという事は、
そこに書かれているメールの内容を読んだって事になるはずよね?
それなのに、雪子のメールの相手は女性だったって・・・不思議だわ!

温泉が近くなってきた頃に裕子は時計を見ると、いつもと同じ夕方の5時を少し回った頃である。
これが秋の終わりなら、夕方5時ともなれば辺りが暗くなっている時間帯なのだが、
さすがに、これから夏に向かう6月の終わりともなれば、世の中は、まだまだ明るいので、
秋の終わりの紅葉は見れないが、その変わりに、緑一面の景色が堪能出来るのである。

雪子の事だから、きっと、もう、温泉に着いてるわね。
私が温泉に着くと、いつも、玄関のそばにある古風なベンチに座って本を読んでるのが雪子。

でもさ、普通に考えてさ、そんな場所で本を読むなんて、
私からしたら、とてもじゃないけど恥ずかしくて出来ないというのに、
文学少女の行動というのは、私のような凡人には理解出来ないわ。
なんて、私だけだったりして?

タクシーが温泉の入り口に入っていくと、駐車するために玄関へと近づいていく。
裕子は、フロントガラス越しにいつものように、
古風なベンチに雪子が座って本を読んでいる姿を探したのだが、
いつも座って裕子が到着するのを待っているはずの雪子の姿がそこにはなかった。

あら?おかしいわね?いつもなら、私より先に到着しているはずなのにどうしたのかしら?
裕子は、タクシーを降りると、玄関のすぐ近くに設置してある古風なベンチの方へと歩いて行った。
秋は別としても、初夏に温泉に来るときは、いつも、ここに座って本を読んでいるはずなのにおかしいわね?

裕子は、周りを見渡してみるのだが、どこにも雪子の姿が見えない。
とりあえず、雪子が温泉に到着しているのかどうかを確認するために、フロントで訊いてみる事にした。
裕子が玄関から中に入ると、温泉の仲居さんがいつものように笑顔で出迎えてくれた。
軽く笑顔で会釈をしながらフロントの方へ歩いて行こうとすると、仲居さんが言葉をかけてきた。

「今日は、木ノ内さんの方がお早いんですね」

「私の方が・・・?それじゃ、彼女は、まだ来てないんですか?」

「ええ・・・。いつもなら、とうに到着しているお時間なんですけど、今日は、まだ、お見えになっていないようですよ」

「そうですか・・・」

「それでは、お部屋の方をご案内致しますので。こちらへどうぞ」

「あっ・・・すみません。少し外で待ってみますので」

いつものように部屋を案内しようとする仲居さんにそう伝えると、
裕子は今入ってきたばかりの玄関から外に出ていつも雪子が座っているベンチに腰掛けてみた。
少しすると、カバンの中でスマホの着信音が鳴った。

「もしもし・・・」

「あっ、裕子さんですか?」

「あら、愛奈ちゃん。どうしたの?」

「あの・・・お母さん、そっちに行ってます?」

えっ・・・?
・・・ってか、この場合なんて答えたらいいのよ?・・・ある意味マジで悩んでしまうわ!

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