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あなたが見えない
あなたが見えない・・・その20
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いつも、雪子が通っている喫茶店で、裕子が、愛奈と話をしている頃。
直美は、どこかの広い駐車場で、数日前の、京子との会話を思い出していた。
別に、私には関係ないといえば、関係のない事なんだけどさ。
でもね~。そうはいっても、また、京子から聞かされるんだろうし・・・夏樹さんの悪口。
しかし、あの時は正直言って焦ったわ・・・マジで。
まさか、夏樹さんが雪子さんと抱き合うなんて思ってもみなかったし。
ましてや、昼間よ!昼間!まだ、辺りが明るい昼間だっていうのに、抱き合っちゃうんだもん。
幸いにも、京子が、それを目撃しなかったからよかったものの、
もし、京子が、夏樹さんと雪子さんが抱き合ってるところなんて見た日にゃ、
私は、なんて言い訳したらいいのよっ!ってなもんで!
でも、京子は、どうして、あんなにも夏樹さんに執着するのかしら?
直美は、夏樹が、雪子と別れて病院の駐車場を後にしたのを確認してから、京子に訊いてみた。
「やっぱり、もう、夏樹さんの事は忘れた方がいいと思うわよ?」
「な~に?私が、あの人を忘れなきゃいけない事情か何かでもあるの?」
「別に、そういうわけじゃないけど。京子だって、いつまでも、夏樹さんの悪口ばかり言っててもしょうがないじゃない?」
「別に、そんなに言ってないわよ」
「そうかしら・・・?」
「そりゃまあ~、少しは言うかもしれないけどさ」
「夏樹さんとは離婚して、もう10年でしょ?」
「そうね・・・まだ10年よね・・」
まだ・・・?
「それにさ、京子には、少し酷な事かもしれないけど、夏樹さんには夏樹さんの人生だってあるんだし」
「別に、あの人の人生なんて私には関係ないし、邪魔もしてないでしょ?」
「それじゃ、夏樹さんが、誰か、他の人と付き合ってもいいって事?」
「別に構わないわよ、そんなの・・・。あの人以外だったらだけどね」
「あの人って・・・?もしかして、雪子さんの事?」
「そんなの、当たり前でしょ・・・?」
「当たり前でしょ?って。どうして、雪子さんはダメなの?」
「ダメっていうより・・・だって、許せないじゃない!それって、いくらなんでもあんまりでしょ?」
「それって、雪子さんが、夏樹さんの昔の恋人だったからって事?」
「そうじゃないわよ・・・。そういう事じゃないのよ」
「それじゃ、いったい、どういう事なの?」
「あの人が雪子さんと付き合って、そして、雪子さんと別れて。そして、私と付き合って私と結婚して。そして、私と離婚したら、また、雪子さんとって。それじゃ、私って、いったい何んなの?それじゃ、私の20年って、まるで、雪子さんの身代わりだったみたいじゃない?」
「そうかしら・・・?」
「でしょ・・・?違う・・・?」
やっぱり、夏樹さんの言ってた通りだったわ・・・。
さすがに、この時ばかりは、私も、返す言葉が見つからなかったものね。
京子が、夏樹さんの事をそんな風に思っている限り、夏樹さんが何を言っても無駄だと思うし。
夏樹さんは、どこまでも、京子一人だけを愛しながら生きてきたのに。
京子は、どこまでも、自分は、雪子さんには勝てないと思いこんでいるのだから。
お互いが、お互いを愛したいと願いながら、20年という月日を生きてきたはずなのに。
夏樹さんの想いも、京子の想いも届く事がないまま、終わりをむかえてしまうなんて、なんか悲しいわよね。
でも、どうして、夏樹さんは、雪子さんを抱きしめたりしたのかしら?
正直、私も驚いたわ。だって、雪子さんは、まだ、人妻なのよ?
それも、真昼間から人目も気にしないで堂々と抱き合うなんて、ちょっと、信じられない。
直美が、京子との会話を思い出している頃、そして、裕子が、愛奈と話をしている頃、
雪子は、誰もいない家の中で、パソコンが置いてある机に座りながら、クマのぬいぐるみに話しかけていた。
「クマさんは、どう思うでありますか?」
クマのぬいぐるみを机の上に座らせながら会話するのが、いつもの、雪子の会話の仕方である。
「ふーちゃんの家には、沢山のぬいぐるみさんたちがいたでありますよ!」
「縁側にも、お部屋の中にも、いろんな所にぬいぐるみさんたちが沢山いたのに・・・居ないのであります!」
「誰がって・・・?」
雪子は、クマのぬいぐるみの両手をつかみながら、自分の膝の上に乗せる。
「ふーちゃんがいないの・・・あの家には、ふーちゃんがいないの・・・」
「私ね、探したの。ふーちゃんを探したの。縁側も、お部屋の中も、廊下も、台所も、全部!全部!探したのに」
「私の事を抱きしめてくれたのは、私の知ってる、ふーちゃんじゃなかった・・・」
「ねえ、クマさん?私を抱きしめてくれたふーちゃんは、いったい誰なの?・・・で、ありますか?」
クマのぬいぐるみを相手に、夏樹の前でだけ使う言葉で、いつものようにおどけて見せても、
その言葉は、誰にも届かないまま、一文字ずつ消えていく静かな時間の中でぽつりと言葉を落とす。
「ふーちゃん・・・あなたが見えない・・・」
・・・そう、呟きながら、雪子はクマのぬいぐるみを抱きしめた。
直美は、どこかの広い駐車場で、数日前の、京子との会話を思い出していた。
別に、私には関係ないといえば、関係のない事なんだけどさ。
でもね~。そうはいっても、また、京子から聞かされるんだろうし・・・夏樹さんの悪口。
しかし、あの時は正直言って焦ったわ・・・マジで。
まさか、夏樹さんが雪子さんと抱き合うなんて思ってもみなかったし。
ましてや、昼間よ!昼間!まだ、辺りが明るい昼間だっていうのに、抱き合っちゃうんだもん。
幸いにも、京子が、それを目撃しなかったからよかったものの、
もし、京子が、夏樹さんと雪子さんが抱き合ってるところなんて見た日にゃ、
私は、なんて言い訳したらいいのよっ!ってなもんで!
でも、京子は、どうして、あんなにも夏樹さんに執着するのかしら?
直美は、夏樹が、雪子と別れて病院の駐車場を後にしたのを確認してから、京子に訊いてみた。
「やっぱり、もう、夏樹さんの事は忘れた方がいいと思うわよ?」
「な~に?私が、あの人を忘れなきゃいけない事情か何かでもあるの?」
「別に、そういうわけじゃないけど。京子だって、いつまでも、夏樹さんの悪口ばかり言っててもしょうがないじゃない?」
「別に、そんなに言ってないわよ」
「そうかしら・・・?」
「そりゃまあ~、少しは言うかもしれないけどさ」
「夏樹さんとは離婚して、もう10年でしょ?」
「そうね・・・まだ10年よね・・」
まだ・・・?
「それにさ、京子には、少し酷な事かもしれないけど、夏樹さんには夏樹さんの人生だってあるんだし」
「別に、あの人の人生なんて私には関係ないし、邪魔もしてないでしょ?」
「それじゃ、夏樹さんが、誰か、他の人と付き合ってもいいって事?」
「別に構わないわよ、そんなの・・・。あの人以外だったらだけどね」
「あの人って・・・?もしかして、雪子さんの事?」
「そんなの、当たり前でしょ・・・?」
「当たり前でしょ?って。どうして、雪子さんはダメなの?」
「ダメっていうより・・・だって、許せないじゃない!それって、いくらなんでもあんまりでしょ?」
「それって、雪子さんが、夏樹さんの昔の恋人だったからって事?」
「そうじゃないわよ・・・。そういう事じゃないのよ」
「それじゃ、いったい、どういう事なの?」
「あの人が雪子さんと付き合って、そして、雪子さんと別れて。そして、私と付き合って私と結婚して。そして、私と離婚したら、また、雪子さんとって。それじゃ、私って、いったい何んなの?それじゃ、私の20年って、まるで、雪子さんの身代わりだったみたいじゃない?」
「そうかしら・・・?」
「でしょ・・・?違う・・・?」
やっぱり、夏樹さんの言ってた通りだったわ・・・。
さすがに、この時ばかりは、私も、返す言葉が見つからなかったものね。
京子が、夏樹さんの事をそんな風に思っている限り、夏樹さんが何を言っても無駄だと思うし。
夏樹さんは、どこまでも、京子一人だけを愛しながら生きてきたのに。
京子は、どこまでも、自分は、雪子さんには勝てないと思いこんでいるのだから。
お互いが、お互いを愛したいと願いながら、20年という月日を生きてきたはずなのに。
夏樹さんの想いも、京子の想いも届く事がないまま、終わりをむかえてしまうなんて、なんか悲しいわよね。
でも、どうして、夏樹さんは、雪子さんを抱きしめたりしたのかしら?
正直、私も驚いたわ。だって、雪子さんは、まだ、人妻なのよ?
それも、真昼間から人目も気にしないで堂々と抱き合うなんて、ちょっと、信じられない。
直美が、京子との会話を思い出している頃、そして、裕子が、愛奈と話をしている頃、
雪子は、誰もいない家の中で、パソコンが置いてある机に座りながら、クマのぬいぐるみに話しかけていた。
「クマさんは、どう思うでありますか?」
クマのぬいぐるみを机の上に座らせながら会話するのが、いつもの、雪子の会話の仕方である。
「ふーちゃんの家には、沢山のぬいぐるみさんたちがいたでありますよ!」
「縁側にも、お部屋の中にも、いろんな所にぬいぐるみさんたちが沢山いたのに・・・居ないのであります!」
「誰がって・・・?」
雪子は、クマのぬいぐるみの両手をつかみながら、自分の膝の上に乗せる。
「ふーちゃんがいないの・・・あの家には、ふーちゃんがいないの・・・」
「私ね、探したの。ふーちゃんを探したの。縁側も、お部屋の中も、廊下も、台所も、全部!全部!探したのに」
「私の事を抱きしめてくれたのは、私の知ってる、ふーちゃんじゃなかった・・・」
「ねえ、クマさん?私を抱きしめてくれたふーちゃんは、いったい誰なの?・・・で、ありますか?」
クマのぬいぐるみを相手に、夏樹の前でだけ使う言葉で、いつものようにおどけて見せても、
その言葉は、誰にも届かないまま、一文字ずつ消えていく静かな時間の中でぽつりと言葉を落とす。
「ふーちゃん・・・あなたが見えない・・・」
・・・そう、呟きながら、雪子はクマのぬいぐるみを抱きしめた。
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