愛して欲しいと言えたなら

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あなたが見えない

あなたが見えない・・・その19

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愛奈が言った一言・・・「そう思います?」
一応は、年の功ということで、ただの会話の一節のように聞き流す裕子だったが、
内心は、それほど穏やかではなく、それに、軽く聞き流せるような言葉でもなかった。

裕子がそう思うのには2つの理由があった。ひとつは愛奈の性格である。
そして、もうひとつが、愛奈を幼い子から知っている裕子の直感が、それを彼女に教えていた。

それに、この時、愛奈のひと言に、温泉で見た雪子の仕草が、裕子の直感を裏付けていた。
もしかして、雪子は、夏樹の事を忘れる事が出来ないまま、ずっと生きてきたのではないだろうか?

そして、そう思うに十分な答えが、夏樹と再会した雪子の、仕草であり、雪子の態度である。
大晦日の寒いあの夜、夏樹の腕に絡まりながら甘えていた雪子が、それを物語っていた。

それでも、あの夏樹とのメールを雪子に教えるまでは、裕子でさえ知らなかったし、
まさか、雪子が、そんな風に、夏樹の事を想っていたのだとは想像さえしていなかった。
それは、雪子が、裕子と会う時には、それを悟られないようにしていたからなのだろう。

だが、家庭の中、普段の生活の中で、それを、100%隠しきれるものなのだろうか?
さっきの愛奈の言葉に、裕子が、内心、穏やかではないといったのは、その事なのである。

そして、愛奈は、最初に「最近」という言葉を付けていなかった・・・。
とりあえす裕子は、自分の考えすぎかもしれないと思う事にして軽く訊き返してみる。

「好きな人って?雪子が?」

「裕子さんは、どう思います・・・?」

やっぱり!夏樹さんだわ。この言葉の詰め方っていうか、切り返し方っていうか。
夏樹さんって、確信に近づくと、相手を逃がさないように一点を突いてくるのよね。

「どうって、訊かれても・・・。愛奈ちゃんは、どう思うの?」

「裕子さんは、もし、お母さんに好きな人がいるとしたら、どうします?」

「どうって、訊かれても。どうするかは、雪子が、決める事なんじゃないのかな?」

「裕子さんは、否定しないんですね?」

あっ・・・まずったわ・・・。

それにしても、この会話の話術って、やっぱり!夏樹さんだわ・・・。
話術としては、まだまだ、粗削りだけど。それでも、自然と出てくるのがすごいわね。

「ねえ、愛奈ちゃん?愛奈ちゃんはいくつになったの?」

「はい。今年で、20歳になりました」

「それなら、もう、立派な大人よね?」

「立派ではないですけど。はい・・・と、思います」

「愛奈ちゃんが、雪子の事をそう思ってるのは、最近の事ではないんじゃない?」

「やっぱり、分かりますか・・・?」

「ふふっ。さっきの言葉の頭に、最近のって、付けなかったから。何となくね」

「あっ・・・私って、まだまだですね」

まだまだって・・・。ふふっ、何に対して、まだまだなのかしら?

「愛奈ちゃんは、いつ頃から、そう思っていたの?」

「裕子さん?私の家に、クマさんのぬいぐるみがあるの知ってますか?」

「クマのぬいぐるみ?いえ、知らないけど。それがどうしたの?」

「それじゃ、ふーちゃんって名前は知ってますか?」

えっ・・・?ふーちゃんって?、どうして、愛奈ちゃんが、夏樹さんのあだ名を知ってるの?
しかも、そのあだ名って、雪子だけが使う、夏樹さんのあだ名なのよ?

「その名前が、どうかしたの?」

「知ってるんですね?」

「えっ?・・・どうして・・・?」

「だって、今、裕子さんは、ふーちゃん?って、訊き返さなかったから」

「ふふっ・・・そんな事はないわよ。愛奈ちゃんの考え過ぎよ」

「そうかな~?」

う~ん・・・。何となく、夏樹さんと会話をしてるみたいに思えてきちゃうから困るわ。

「でも、その、ふーちゃんって名前を、どうして、愛奈ちゃんが知ってるの?」

「ああっ・・・やっぱり、裕子さんは知ってたんですね」

あ~んもう~・・・。簡単に一本取られちゃったじゃないのよ・・・。
でも、ここは何としても、ごまかさないとダメよね?

「ふふっ、知らないわよ・・・それよりも、どうして、愛奈ちゃんが知ってるのかの方が不思議だわ」

「知りたいですか・・・?」

まったく、その切り返し方って。もう~!あんたは夏樹さんかっ===ちゅうの!
とはいえ、ここはひとつ!素直に訊いた方が無難かもしれないので。

「私の知らない雪子がいるみたいで知りたいわ」

「実は、クマさんのぬいぐるみの名前なんです」

「クマの・・・ぬいぐるみの・・・?」

「はい。いつも、お母さんのお話相手になってるクマさんのぬいぐるみの名前なんです」

クマのぬいぐるみって・・・雪子・・・?
あんた、いったい、誰と会話をしてるの?

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