愛して欲しいと言えたなら

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あなたが見えない

あなたが見えない・・・その16

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もしかして、お母さんの事だったりして?・・・愛奈は、ちょっとだけ安堵した。
愛奈は、自分から、どうやって母親の事を切り出そうかと悩んでいたところへ、
裕子の方から、それに触れてくれたので、とりあえずの第一関門は無事に通過出来たようである。

しかし、この時の裕子と愛奈、この二人の頭の中にある思考回路は、
お互い、まったく、別な出来事を考えていたようである。
愛奈側では、自分の母親が同性愛者だったのか?とか、もしかして肉体関係も?などと、
およそ真面目な愛奈からは想像も出来ないような卑猥な光景までもが頭の中を駆け巡っていた。

一方、裕子の方はというと、もしかして、愛奈が夏樹の事を知ってしまったのではないだろうか?
この時の裕子の頭の中には、夏樹=女装という思考は、なぜか停止してしまっていたらしく、
(男性の姿である夏樹)。なぜか、この時の裕子の想像の中に出てきたのは男装の夏樹であり、
そして、母親である雪子が夏樹と密会している所を、愛奈が、偶然、目撃してしまったのでは?
なのである・・・ゆえに、この二人は全然違う事で勝手に悩んでいるというわけである。

したがって、この二人、会話を次の場面へと展開する事が出来ないのである。
せっかく、お互いの共通の悩みが、雪子だというところに着地したまでは良かったのだが、
裕子に愛奈、どちらも、次のひと言が、どうしても、思い浮かばないのである。
とはいえ、ここは年上であり、雪子の親友でもある裕子の方から、次のひと言を・・という事で。

「ねえ、愛奈ちゃん?お母さんが、どうかしたの?」

う~ん・・・ここはひとつ、おとぼけの第一声で、愛奈ちゃんの次の言葉を聞くしかないわね?

「あの・・・裕子さんは、お母さんとお付き合いが長いんですよね?」

「そうね。雪子とは、まだ、幼稚園に入る前からの友達だったから、もう、50年近くの付き合いになるわね」

「それで・・・あの・・・」

「どうしたの、さっきから?あまり考え込まないで気軽に言ってみなさい」

「はい・・・。でも・・・あの・・・裕子さんは、お母さんの趣味とかって知ってますか?」

「趣味・・・?」

「ええ・・・。趣味っていいますか、趣向っていいますか・・・そんな感じの・・・あの・・・」

「趣味?趣向?う~ん、趣向は分からないけど、趣味なら知ってるわよ」

「裕子さん、知ってたんですか?」

「???知ってはいるつもりだけど、それが、どうかしたの?」

「あっ・・・いえ・・・」

「そうね、私が知ってる雪子の趣味っていえば、猫かしらね?」

「猫・・・ですか・・・?」

「ええ、そうよ。そういえば、確か、愛奈ちゃんのところでは猫を飼ってなかったわよね?」

「ええ・・・。お母さんって、猫が好きなんですか?」

「あれ?もしかして、愛奈ちゃん知らなかった?」

「はい・・・。今、初めて聞きました」

「そっか。そういえば、雪子が結婚してからは、猫を飼ってるとかって聞いた事がなかったわね」

「お母さんは、お父さんと結婚する前は、猫を飼っていたんですか?」

「ええ・・・。雪子の実家の方でね」

「でも、お母さんの実家で猫を見かけた事がなかったですけど、今は、猫を飼っていないんですか?」

「そうね・・・。雪子が一人暮らしをする前にね、飼っていた猫が亡くなったんだけどね。それ以来、実家の方では猫を飼っていないみたい」

「どうしてですか・・・?」

「雪子の実家のご両親も、雪子の妹も、動物があまり好きじゃないみたいなのよ」

「そうなんですか・・・」

「でも、雪子は、とっても猫が好きでね。雪子が学校を休んだ日って、飼ってる猫の体調が悪い時だけだったのよ」

「ええっ?ホントですか?」

「本当よ。でも、どうして、雪子は、猫を飼うのをやめたのかしら?」

「不思議ですよね?だって、私もだけど、弟も、お父さんも、別に、動物とか嫌いじゃないのに」

「そういえば、夏樹さんって猫を飼ってるのかしら?」

「・・・」

「あっ・・・ごめんごめん。こっちの事だから気にしないでね・・・ふふっ」

「あの・・・」

「えっ・・・何・・・?」

「今の、夏樹さんっていう名前・・・もしかして、お母さんのメールの・・・?」

あああっ・・・まずっちゃった?
そういえば、前に雪子が言ってたんだったわ。夏樹さんとのメールを家族の人に見られたって。

「もしかしたら、私、その夏樹さんって人を見かけたかもしれません」

あら・・・?やっぱり、愛奈ちゃんにバレちゃったの?
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