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あなたが見えない
あなたが見えない・・・その15
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病院での出来事から数日後、愛奈は一人で喫茶店に来ていた。
愛奈は、見てはいけないものを見てしまったような罪悪感を感じながら、
それでも、母親である雪子には、その事には気づかれないように振る舞いながら、
病院まで迎えに来た父親の運転する車の中で、家路へと向かっていた時の事を思い出していた。
愛奈は、何度も病院から裕子に電話を入れようと考えたのだが、
もし、自分が電話している会話を、母親に聞かれたりでもしたらと思い、
裕子への電話は、帰ってから誰もいないところでしようと決心した。
とはいえ、たかだか電話の一つや二つなのに決心とは、
ずいぶんと大げさな表現なのかもしれないが、
根が真面目で物静かな愛奈にとっては、とても重大な出来事でありかつ重大な問題なのである。
それゆえに、裕子に電話をした時の会話の内容を、今から色々と考えてしまう愛奈は、
いったい、どう会話を切り出したらいいのか?
もしかしたら、裕子も知っているのだろうか?
もし、そうだとしたなら、これは裕子も隠している母親の秘密・・・なのかもしれない。
と、すると、病院の駐車場で愛奈が見た光景は、裕子にも訊いてはいけないという事になるのかもしれない。
電話で訊いた時も、母親である雪子の交友関係についてはよく分からないと愛奈に言っていたのだから。
愛奈は、母親のそういう趣味?にも、驚いた事は驚いたのだが、それよりも、もっと驚いた事がある。
それは、母親である雪子が、一緒にいた女性に対しての、あの甘えた仕草である。
今まで見てきた母親のそれとは違っていて、愛奈の知っている母親とはまるで別人のように、
愛奈の知らない綺麗な女性の腕に絡まったり、かと思えば、いきなり抱きついたり・・・。
それが、今、車の後部座席に愛奈のすぐ隣に、いつものように物静かに座っているのだから、
愛奈としては、心中穏やかとは、とても言えないのも分からないわけではない。
でも、これはこれとして良かったんじゃないのかな?
最近、お父さんが、お母さんの事をしきりに気にしてたっていうか、そんな感じだったから。
思いっきり機械音痴のお母さんが、今年になってパソコンでメールをし始めたとかって言ってたし。
メールの相手は誰かな?とかって、
お父さんったら、私に訊いてきたり、弟にも訊いてたりしてたから。
まるで、お母さんが浮気でもしてるんじゃないか?みたいに疑ってたみたいだったし。
私は、お父さんに、ちょっとお母さんのメールを見て欲しいみたいな事を頼まれたけど、
いくらなんでも、それはちょっとやってはいけない事だって私だって分かるから、
そう思って断ったら、今度は弟に同じように頼んだみたいだったし。
そうしたら、弟も弟で、面白半分にお母さんのメール開いて見ちゃったりして、
いったい何を考えているのか知らないけど、同じ家族としてちょっと信じられなかったわ。
でも、きっと、お母さんのメールの相手って、お母さんと一緒にいた、あの綺麗な女の人だと思うわ。
お母さんのメールを見た弟も、お母さんのメールの相手は女の人だったって言ってたし、
とはいっても、今でもちょっと信じられない、あんな風に無邪気に甘えるお母さんなんて。
今まで、一度だって、あんな、お母さんを見た事なんてなかったし・・・。
私の隣で、物静かに座ってるお母さんが本当のお母さんなのか?
それとも、さっき見た、無邪気な子供みたいなお母さんが本当のお母さんなのか?
う~ん・・・それも、そうなんだけど・・・。
それよりも、この出来事を、裕子さんに訊いていいものなのか?
それとも、訊かないで、何事もなかったように、今までと同じように振る舞う方が正解なのか?
だけど・・・もう、裕子さんに電話しちゃったし・・・。
そんでもって・・・あれ?そんでもってなんて・・・ふふっ。私って、変なの。
そういえば、ここの喫茶店ってお母さんがよく来てるお店よね?
お母さんは、いつもここの喫茶店で、ミルクティーを飲みながら好きな本を読んでいるって。
以前、裕子さんが言ってた事があったけど、お母さんは、いつも、どの席に座っていたのかな?
愛奈が、古風で落ち着いた雰囲気が漂う喫茶店の窓から外の景色を見ていると、
カランカランという音とともに玄関のドアが開いて裕子が入ってきた。
裕子は、すぐに愛奈に気がついたらしく、軽く右手を少し肩の上あたりで振りながら笑顔を見せた。
マスターに挨拶をしながらコーヒーを注文すると、裕子は愛奈のいる席に座った。
「裕子おばさん、こんにちは」
「裕子さんでいいわよ。でも、どうしたの急に?」・・・お願い、おばさんって言わないで・・。
「うん・・・あの・・・」
「な~に?会社で何か嫌な事でもあったの?」
「いえ・・・あの・・・」
「何よ?どうしたのよ?もしかして、お母さんの事だったりして?な~んてね」
「はい・・・実は・・・あの・・・その事で・・・」
うそ・・・マジで・・・?
もしかして、夏樹さん絡みだったりして・・・?
お~い!雪子。あんた、いったい何をしてたのよ・・・?
愛奈は、見てはいけないものを見てしまったような罪悪感を感じながら、
それでも、母親である雪子には、その事には気づかれないように振る舞いながら、
病院まで迎えに来た父親の運転する車の中で、家路へと向かっていた時の事を思い出していた。
愛奈は、何度も病院から裕子に電話を入れようと考えたのだが、
もし、自分が電話している会話を、母親に聞かれたりでもしたらと思い、
裕子への電話は、帰ってから誰もいないところでしようと決心した。
とはいえ、たかだか電話の一つや二つなのに決心とは、
ずいぶんと大げさな表現なのかもしれないが、
根が真面目で物静かな愛奈にとっては、とても重大な出来事でありかつ重大な問題なのである。
それゆえに、裕子に電話をした時の会話の内容を、今から色々と考えてしまう愛奈は、
いったい、どう会話を切り出したらいいのか?
もしかしたら、裕子も知っているのだろうか?
もし、そうだとしたなら、これは裕子も隠している母親の秘密・・・なのかもしれない。
と、すると、病院の駐車場で愛奈が見た光景は、裕子にも訊いてはいけないという事になるのかもしれない。
電話で訊いた時も、母親である雪子の交友関係についてはよく分からないと愛奈に言っていたのだから。
愛奈は、母親のそういう趣味?にも、驚いた事は驚いたのだが、それよりも、もっと驚いた事がある。
それは、母親である雪子が、一緒にいた女性に対しての、あの甘えた仕草である。
今まで見てきた母親のそれとは違っていて、愛奈の知っている母親とはまるで別人のように、
愛奈の知らない綺麗な女性の腕に絡まったり、かと思えば、いきなり抱きついたり・・・。
それが、今、車の後部座席に愛奈のすぐ隣に、いつものように物静かに座っているのだから、
愛奈としては、心中穏やかとは、とても言えないのも分からないわけではない。
でも、これはこれとして良かったんじゃないのかな?
最近、お父さんが、お母さんの事をしきりに気にしてたっていうか、そんな感じだったから。
思いっきり機械音痴のお母さんが、今年になってパソコンでメールをし始めたとかって言ってたし。
メールの相手は誰かな?とかって、
お父さんったら、私に訊いてきたり、弟にも訊いてたりしてたから。
まるで、お母さんが浮気でもしてるんじゃないか?みたいに疑ってたみたいだったし。
私は、お父さんに、ちょっとお母さんのメールを見て欲しいみたいな事を頼まれたけど、
いくらなんでも、それはちょっとやってはいけない事だって私だって分かるから、
そう思って断ったら、今度は弟に同じように頼んだみたいだったし。
そうしたら、弟も弟で、面白半分にお母さんのメール開いて見ちゃったりして、
いったい何を考えているのか知らないけど、同じ家族としてちょっと信じられなかったわ。
でも、きっと、お母さんのメールの相手って、お母さんと一緒にいた、あの綺麗な女の人だと思うわ。
お母さんのメールを見た弟も、お母さんのメールの相手は女の人だったって言ってたし、
とはいっても、今でもちょっと信じられない、あんな風に無邪気に甘えるお母さんなんて。
今まで、一度だって、あんな、お母さんを見た事なんてなかったし・・・。
私の隣で、物静かに座ってるお母さんが本当のお母さんなのか?
それとも、さっき見た、無邪気な子供みたいなお母さんが本当のお母さんなのか?
う~ん・・・それも、そうなんだけど・・・。
それよりも、この出来事を、裕子さんに訊いていいものなのか?
それとも、訊かないで、何事もなかったように、今までと同じように振る舞う方が正解なのか?
だけど・・・もう、裕子さんに電話しちゃったし・・・。
そんでもって・・・あれ?そんでもってなんて・・・ふふっ。私って、変なの。
そういえば、ここの喫茶店ってお母さんがよく来てるお店よね?
お母さんは、いつもここの喫茶店で、ミルクティーを飲みながら好きな本を読んでいるって。
以前、裕子さんが言ってた事があったけど、お母さんは、いつも、どの席に座っていたのかな?
愛奈が、古風で落ち着いた雰囲気が漂う喫茶店の窓から外の景色を見ていると、
カランカランという音とともに玄関のドアが開いて裕子が入ってきた。
裕子は、すぐに愛奈に気がついたらしく、軽く右手を少し肩の上あたりで振りながら笑顔を見せた。
マスターに挨拶をしながらコーヒーを注文すると、裕子は愛奈のいる席に座った。
「裕子おばさん、こんにちは」
「裕子さんでいいわよ。でも、どうしたの急に?」・・・お願い、おばさんって言わないで・・。
「うん・・・あの・・・」
「な~に?会社で何か嫌な事でもあったの?」
「いえ・・・あの・・・」
「何よ?どうしたのよ?もしかして、お母さんの事だったりして?な~んてね」
「はい・・・実は・・・あの・・・その事で・・・」
うそ・・・マジで・・・?
もしかして、夏樹さん絡みだったりして・・・?
お~い!雪子。あんた、いったい何をしてたのよ・・・?
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