愛して欲しいと言えたなら

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あなたが見えない

あなたが見えない・・・その8

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その頃、直美はというと、京子の言葉に四苦八苦しながら何とか怪しまれないように、
車窓から見える景色や世間話で、京子の疑心をかわしていた。

「ねえ、直美・・・?」

「はい・・・?」

「さっきから、あの人の話題に触れないようにしてるのは、私の気のせいかしら?」

「ははっ・・・そうよ、気のせいよ、きっと気のせいだと思うわよ」

「そうかしら・・・?」

「でも、京子・・・?」

「何・・・?」

う~ん・・・何も、そんな突っかかるような訊き返ししなくてもいいと思うんだけど・・・。

「何って・・・別に、何って言うほどの事でもないんだけど・・・」

「だから、何よ・・・?」

「言ってもいいんだけど。なんか、京子って、すぐ怒るから・・・」

「別に、怒らないわよ・・・」

「そうお・・・?」

「別に、怒ったりしないから言ってみてよ・・・?」

「それじゃ、言うわよ・・・。京子は、どうして、そんなに夏樹さんにこだわるのかな?って、ちょっと思ったのよ」

「別にこだわってなんてないわよ。直美、おかしいんじゃないの?」

おいおい・・・思いっきり!こだわってるでしょうが・・・?

「京子が、夏樹さんと離婚してから、もう10年でしょ?」

「そうね・・・」

「そろそろ忘れてもいいんじゃないの?」

「何を・・・?」

おおお===っ!怖わっ!

でもさ~、今さら、夏樹さんがどこで何をしてようが、
誰かに、とやかく言われる筋合いじゃないと思うのよね。

それでなくても、京子は、夏樹さんの事が嫌いで離婚したわけだし。
これが、お互いが好きで好きで仕方がないのに、どうしても別れなきゃいけなかったっていうんならさ、10年過ぎようが20年過ぎようが、心のどこかに、いつもその人がいるっていうんならわかるわよ?

でも、京子の話を聞く限りでは、お互いが、お互いを罵り合って別れたって聞いてるしさ。
あっ・・・この件に関しては、夏樹さんは否定してたけど・・・。

夏樹さんの話では、京子の方が一方的に夏樹さんを罵っていたって言ってたし・・・。
たぶん、こっちが正解だと思う。
京子は、いったい、何をどうしたいって思ってるのかしら?

「直美・・・?そこを右よ・・・」

あひっ・・・。そこを右に曲がったら、夏樹さんの家の前に一歩近づいてしまうじゃないのよ。

「ねえ、直美・・・?」

「はい・・・?」

「なんか、さっきから、あの人の家の前の道路を走りたくないみたいに見えるんだけど?」

「そ・そんな事ないわよ!」

「ふ~ん・・・それじゃ、そこの十字路を右に曲がってくれる?」

今日の京子は、どうしても、夏樹さんの家の前を通りたいみたいだわ。
これって、やっぱり女の勘っていうやつなのかしら?

まあ、確かに京子がさっき勘付いた通り、雪子さんは、今、こっちに帰って来てるには来てるけど。
とはいえ、いくらなんでも、夏樹さんに会いに来てるとは、ちょっと思えないんだけどな~。

「でも、京子は、どうして、夏樹さんの家を知ってるの?」

「私が、あの人の家を知ってたら、何か悪いの?」

「私、思うんだけどね・・・」

「何・・・?」

「もう、10年も前の事なんだからさ、夏樹さんの事は忘れた方がいいんじゃないの?」

「なんか、そのいい言い方って、私が、あの人に、まだ未練があるみたいな言い方じゃない?」

言い方じゃない?ってか、いや~思いっきり!未練、あり!あり!なんですけど・・・。

直美が運転する車が、夏樹の家が見える距離になる直線道路に差し掛かったあたりから、
「どうぞ、誰も見えませんように」と、心の中で祈りながら、
夏樹の家の方に視線を移しながら車を走らせていく。

すると、直美の祈りが通じたのか、夏樹の家の庭にも、家に続く細い上り坂にも、
誰の姿も見えなかったので、京子に気付かれないように、
直美は心の中で、ホッと、ため息をついた・・・直後である。

「ほら!直美?私が言った通りでしょ?」

「へっ・・・?」

夏樹の家の周りに誰もいない事に安心していた直美が、
京子が指さす方に視線を移してみると、郵便局から出てきたらしく、
夏樹と雪子が仲良く腕を組みながら、こちらに向かって歩いてきていた。

げっ・・・うそぴょーん・・・どぼちて?どぼちてなの?どぼちて、そこにいるの。お二人さん?

「あれが、あの人の本性なのよ。まったく、どこまで、私を馬鹿にしたら気が済むのかしら?」

隣の席で呟く京子の後半の言葉が、だんだんと強くなっていく予感を感じ取った直美は、
思わず心の中で呟いた・・・。「私は、貝になりたい・・・」・・・あう。
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