愛して欲しいと言えたなら

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あなたが見えない

あなたが見えない・・・その5

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しかし、人の頭の中って、ものすごい速さで回転するものなのね。
雪子と電話をしてる最中だっていうのに、我ながら、驚いちゃってたりして。

「ちょっと、雪子・・・」

「今から、どこに行くつもりなの?」

「ふーちゃんのお家だよ」

「ふーちゃんのお家だよって。ちょっと、雪子?それは、ダメでしょ?」

「だって、ふーちゃんが言ってたよ。ぬいぐるみさんたちが、私に、会いたいって」

「あっ、そう・・・。だから、違うでしょ?」

「違うくないよ。ぬいぐるみさんたちが待ってるんだよ?」

あ~・・・ダメだわ・・・。
今の雪子に対抗するアイテムを、私、持ってないわ・・・というより。
私としては、こんな状態の雪子なんて、ほとんど経験ないんだから、対処出来ないし・・・。

「ちょっと、雪子・・・」

「な~に・・・」

「ちょっと、夏樹さんと代わってくれる?」

「どうして・・・?」

「どうしても・・・!」

「う~ん・・・しょうがない裕子だな~。もう~」

しょうがないって。もう~、どっちの話よ。まったく!もう~。

「どうしたの?裕~子?」

「あっ・・・あのね・・・あの・・・その・・・でね・・・だからね・・・」

「あんた、相変わらず、言葉がバラバラになってるわよ」

そんな事を言ったって仕方ないわよ。
雪子ったら、いきなり夏樹さんに代わるんだもの。

「あのね・・・夏樹さん・・・」

「ふーちゃんでいいわよ・・・」

「えっ・・・。ダメよ、そんなの」

「どうしてよ・・・?」

「だって、雪子に怒られちゃうわよ」

夏樹が、隣でウサギのぬいぐるみと遊んでいる雪子に訊いてみる。

「雪子。裕子が、ふーちゃんって呼んだら怒るのか?」

「怒らないよ・・・。でも、ダメなのだ!」

「だ、そうよ・・・」

ん、もう~。だから・・・言ったじゃないのよ~っ!

「で、何・・・?」

「あのね・・・」

「あのね。は、分かったから、その先を言いなさい!」

「それじゃ、言うわよ!」

「ふふっ・・・そんなに気合を入れなくてもいいわよ」

「そんな事を言ったって、やっぱり無理よ・・・。急になんて・・・」

「それじゃ、何日か、ゆっくり考えてからでもいいわよ」

「違うのよ・・・。そういう問題じゃないのよ・・・。急ぐのよ」

「ふふっ・・・そんなに急がなくても大丈夫よ。あたしはどこにもいかないから」

「そういう問題じゃないのよ・・・」

「あっ・・・ぬいぐるみさんたちだ!」・・・夏樹のそばで、雪子の声が聞こえた。

「先に行ってなさい。裕子が、私と少しお話があるみたいだから」

「うん・・・。ねえ!ねえ!お家の中に入ってもいい?」

「いいわよ・・・。好きなようにしなさい!」

「うん!」・・・そういうと、いきなり、電話口から雪子の声が聞こえてきた。

「裕子、愛奈さんの事を、お願いするでありますよ!」

「えっ・・・あっ・・・ちょっと、雪子・・・?」

「雪子なら、もう行っちゃったわよ・・・」

「あ~ん・・・もう~雪子ったら!」

「で・・・愛奈さんって、誰・・・?」

「えっ?・・・あの・・・」

「もしかして、雪子の愛娘の名前かしら?もしそうなら、このまま、雪子と愛奈ちゃんをさらっちゃうわよ?」

「ちょっと、夏樹さん・・・?」

「ふふっ・・・嘘よ・・・」

「もう~、夏樹さんったら。ビックリさせないでよ!」

「大丈夫よ・・・。あたしが、あんたが心配するような事なんてするわけないでしょ?」

「それを聞いて、安心したわ・・・」

「バカね。何を、そんなに心配してたのよ?」

「だって。そうは言っても、今の雪子に夏樹さんじゃ、心配するなって思う方が無理よ!」

「ふふっ・・・裕子は、いったい、何を、そんなに心配してるのよ?」

「何をって・・・。たとえば、なりゆきで、雪子とキスとかって・・・ないわよね?」

「ふふっ、何を言ってるのよ。あたしは今は女やってるんだから、キスしたって大丈夫よ!」

チーン・・・。
裕子の、頭の奥のそのまた奥の方で、お坊さんがりん棒で「チーン」と鈴(りん)を叩く音が聞こえてきた。
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