愛して欲しいと言えたなら

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あなたが見えない

あなたが見えない・・・その4

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まあ~ね~。
確かに、最近の雪子の行動には、理解不能なところが多いって言えば多いけど、
でも、きっと、それも、雪子にとっては、普通の出来事なのかもしれないのよね。
夏樹さんと雪子が付きあっていた事は知ってても、私が知ってたのはそれだけ。

それも、仕方がないと言えば、仕方がないのかもしれないんだけどさ。
なにせ、私に内緒で夏樹さんと付き合っていたんだし。
その事を、私が知る事になったあとも、雪子は、私に気を使っていたから。

夏樹さんと、どこに行ってきたとか。
どんな話をしたとかって事は、雪子からは、何も話そうとしなかったわ。
私は、夏樹さんと雪子の事はとっくに許していたから。
だから、二人が幸せになれるようにって、ペアのネックレスをプレゼントしたのに。

それでも、私から訊かないかぎり、雪子からは何も話そうとはしなかったわ・・・
ほんの少しも、私には、話してくれなかった・・・。

でも、私って、どうして、こんなにも世話を焼くのかしら?
いくら雪子とは親友だとはいっても、別に、雪子に頼まれたわけじゃないし。
それに、雪子は、まだ、人妻なんだから・・・普通は、やめさせるはずなのに。

あ~だこ~だと、心配になってしまうのは、雪子が、私とは幼い頃からの親友だから?
それとも・・・雪子の相手が、私が愛した夏樹さんだから・・・?

というか・・・私としては、いつも思うのよね。どうして、私じゃ、ダメなのって?
こうみえても、私は、夏樹さんとは二度も付き合った事のある間柄なのよ。
う~ん・・・正確には、二度ではなくて、三度・・・二度半・・まあ、どっちでもいいんだけど。

ああ===っ!思い出した!
そうよ!確か、そうだったのよ!

愛奈ちゃんの名前の由来。
どうして、今まで、気がつかなかったのかしら?
そうよ。確か、雪子が夏樹さんと別れて、何か月か過ぎた頃に言ってた事があったのよね。

「ふーちゃんってね、女の子が欲しんだって・・・」

「女の子・・・?」

「うん・・・。もし、子供を作るんだったら、絶対!女の子だけだって」

「それじゃ、男が生まれたらどうするの?」

「男の子は生まれないって言ってたよ」

そういうのって、夏樹さんらしいなって、二人で笑ったのよね。

「それにね、ふーちゃんってね。もう、名前まで決めてたんだよ」

「名前・・・?生まれてくる赤ちゃんの?」

「そうなのだ・・・」

「そうなのだって。まだ、生まれてもいないんだし、相手もいないのに?」

「ふーちゃんの相手は、もう、ちゃんといるんだよ!」

「えっ・・・?夏樹さん、もう、誰かと付き合ってるの?ってか、それって、いつの話なのよ?」

「うんとね、ずっと前の話」

「ずっと前って・・・。そんな事を夏樹さんと、話をしていたって?その頃って?まだ、夏樹さんは雪子と付き合って・・・」

「うん・・・。そうなのだ・・・」

私、どうして、忘れていたんだろう・・・。雪子との、こんなにも大切な会話を・・・。

夏樹さんと別れてから、初めて、雪子から話してくれたのに・・・。
そんな大切な、雪子との会話を忘れていたなんて・・・。
これが、セピア色に変わっていくって事なのかしら・・・?

何気ない日々の生活の中で、変わりゆく季節と過ぎていく年月を繰り返していると、
いつの間にか、知らず知らずのうちに薄れていく、心に刻まれていたはずの記憶。
私の中では、若い頃の思い出とか、大切な宝物とかって、自分なりに大切にしていたはずなのに。

だから、雪子には分かったのね・・・。あの時、すぐに夏樹さんだって・・・。
私なんか、半年もメル友だったのにもかかわらず、全然、分からなかったっていうのに、
あれだけ完璧な女になっていたはずの夏樹さんを、雪子は、一瞬で見抜いてしまった。

雪子は、忘れていなかった・・・。
雪子の心の中に刻まれている夏樹さんの記憶は、微かな断片さえも薄れてなどいなかった。

それも、そうよね・・・。忘れるはずなんてないわよね。
どんなに時代が過ぎていっても、どんなに遠い記憶の出来事だったとしても、雪子は忘れないはず。
だって・・・「愛奈」という名前は・・・
夏樹さんが、夏樹さんと雪子の子供につけたかった名前だったんだもの。

「うん・・・。そうなんだ」って、答えた雪子が、何も言わなくなって急に立ち止まったから、
振り返って雪子を見ると、下を向いていた雪子が、笑いながら顔を上げてこう言ったのよね。

「ふーちゃんの相手って、私だけなんだって・・・」

顔を上げた雪子はいっぱい笑ってた・・・。
目にいっぱい涙を浮かべてるくせに、それでも、いっぱい笑ってた。

私、この時だけは夏樹さんを恨んだわ・・・。
どうして、こんなにも哀しい想いを雪子にさせるのって・・・。
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