愛して欲しいと言えたなら

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あなたが見えない

あなたが見えない・・・その3

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裕子は、左手のスマホを見つめたまま、相変わらず、コーヒーをズズズ・・・と、飲んでいた。
ちょっと、雪子・・・?早まってないでしょうね?
まだ・・・間違っても、早まった事なんてしてないんでしょうね?
ん・・・?まだ・・・まだ・・・?まだ・・・ちょっと、待ってよ・・・まだって、事は・・・。

いえ、違うわ・・・。
これは、私のだたの妄想に過ぎないわ・・・。そうよ、妄想よ!妄想なのよ。
そうじゃなくても、たとへ、雪子が夏樹さんを求めるような仕草をしたとしても。
夏樹さんが、そんな雪子を受け入れるはずはないんだから大丈夫・・・。本当かしら?

あの夏樹さんの事だから「今は、女やってるんだから、キスしたって大丈夫よ!」
な~んて・・・。ありえるわよね?

う~ん・・・これは大いにありえる展開だわ・・・。
夏樹さんの思考回路って自己正論思考だものね。

とりあえず、雪子だけでもシラフに戻さないと。
愛奈ちゃんが病院にいるっていうのに、まったく、もう。

愛奈に連絡する前に、雪子の目を覚まさせる方が先だという結論に至った事で安心したのか、
裕子は片手で持っていたカップを両手に持ち替えて、残りのコーヒーを一気に飲み干した。

きつく肩を抱かれながら、頬を伝って聞こえてくる夏樹の胸の鼓動に身を任せている雪子。
ほんの数十秒のはずが、数分にも数十分にも感じる感覚の中で、夏樹と離れていた時間の長さに、
雪子は、悔しさと、寂しさの終わりを求めてしまう自分がいる事に戸惑っていた。

「あっ・・・うさぎさんだ!」

夏樹は、雪子の言葉に驚く事もなく、日常の出来事のように自分の右腕の方に視線を移すと、
ちょうど二の腕のあたりに絡まるようにうさぎのぬいぐるみが乗っかっていた。

「あら?あんた、いつ来たの?」

「なんかね、今ね、もにょもにょって乗ってきたみたいだよ」

「もにょもにょ・・・?面白い表現をするのね」

「このうさぎさんは、なんていう、お名前なの?」

「この子は、ピョンちゃんっていうのよ」

「ピョンちゃんっていうんだ。こんにちはピョンちゃん!」

「この子はね、なかなか心を開いてくれなくてね・・・」

「どうして・・・?」

「さあ~分からないけど。でもね、今年の初め頃からかしらね?この子のお顔が変わったのよ」

「寂しかったのかな?」

「でも、この子が動いているのが、あんたに見えたの?」

「見えないよ。でも、何となく、そんな感じがしたんだ」

「そうなの・・・」

「おいでピョンちゃん!」

雪子は、夏樹の腕から、うさぎのぬいぐるみをそっと手に取ると、優しく微笑んで見せた。
夏樹が、雪子を連れて家までの坂道を歩き出すと、雪子のバックの中で呼び出し音が鳴った。
誰だろう・・・?
そう言いながら、バッグから取り出したスマホを見ると、呼び出しの相手は裕子からである。

「もしもし、裕子・・・どうしたの?」

「どうしたのって・・・。雪子、今、どこにいるの?」

「どこって・・・う~ん。ここは何ていう地名なのかな?」

「地名の話じゃなくて・・・。もう~。それじゃ、雪子の近くに何が見える?」

「ふーちゃんが見えるのだ!」

あうっ!・・・やっぱり。そこ・・・?

「ふーちゃんが見えるって・・・。あんたね・・・?」

「ふーちゃんが、笑ってるよ」

「あっ、そう・・・それはよかったわね!じゃなくて・・・ちょっと、雪子?」

「な~に・・・?」

「な~に?じゃないでしょ?あんたね、いったい、何を考えてるのよ?」

「うさぎさんが可愛いな~って、考えてるよ」

「うさぎさん・・・?夏樹さんって、うさぎを飼ってるの?」

「違うよ。うさぎさんたちと一緒に住んでるんだよ」

うさぎと一緒に住んでる・・・?何、言ってるの?

「うさぎさんだけじゃないんだよ。猫さんもいるし。ワンちゃんもいるよ」

そういえば、夏樹さんって、昔から動物とか好きだったものね・・・。
確かにそうよね。いくら夏樹さんでも、ずっと一人暮らしというのは、やっぱり寂しいものね。

「それに、クマさんもいるんだよ!」

はい・・・?クマさん・・・?クマさんって、もしかして、あのクマさん・・・?
いくらなんでも、クマはないんじゃない?
いくさ寂しいからって、クマっていうのは、ちょっと危ないんじゃないの?

「ちょっと、雪子。いくらなんでも、クマって危ないんじゃないの?」

「そうなのだ!危ないのだ!」

「雪子、近づいちゃダメよ!いくら夏樹さんが飼ってるっていっても、クマは危険なんだから」

「裕子って、変なんだ・・・」

「変んて・・・どうしてよ?」

「だって、みんな、ぬいぐるみさんだよ」

はいっ・・・?
まったく、もう!完全にのろけまくっちゃってて、いつもの雪子じゃなくなってるし。
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