愛して欲しいと言えたなら

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傷つけたい

傷つけたい・・・その11

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確かに、そうかもしれない。
夏樹さんなら、雪子の事を一番に考えても不思議じゃないかもしれない。
でも、ちょっと待ってよ?それじゃ、雪子のあの言葉はどういう意味になるのかしら?
確か、雪子は、夏樹さんは自分が一番可愛い人なんだとかって言ってたんじゃなかったかしら?

「あの・・・マスター?」

「はい。なんでしょうか?」

「前に、雪子が、夏樹さんは自分が一番可愛いんだよ!って、言ってた事があったんですけど」

「その事でしたら、私も、雪子様の言う通りだと思います」

「えっ・・・?だって、いま・・・」

「そう言えば、少し、矛盾しているかもしれませんね」

「ええ・・・。少しというより、正反対のような気がします」

「確かに、そうかもしれませんね・・・。裕子様は、夏樹様という方が、もし、自分の好きな人にプレゼントをするとしたら何を選ぶと思いますか?」

「夏樹さんが何を選ぶ・・・ですか?」

「ええ・・・。夏樹様という方は、一番に何を考えるタイプの方だと思います?」

「夏樹さんの事だから、プレゼントをする相手が望む品かな?・・・う~ん、違うわね」

「ええ・・・私も、それは違うと思います。おそらく、夏樹様という方は、プレゼントで相手の気を惹くような事を考える人ではないと思います」

「私も、そう思います・・・。でも、それじゃ、いったい・・・」

「私の考えですが、夏樹様という方は、プレゼントをする相手が望む品や喜んでもらえるような品ではないと思います。きっと、贈られた相手の方が困らない品・・・。では、ないでしょうか?」

「困らない品・・・ですか?」

「雪子様が以前こんな事を言っていました。夏樹様という方が雪子様にこの指輪をプレゼントした時に、雪子様は頂いていいのか分からなくて、ある知り合いの女性に聞いたそうです」

「知り合いの女性・・・?」

「はい・・・。その女性は、夏樹様という方と、とても親しい方だと言っていました」

「誰かしら・・・?」

「裕子様は、ご存知ないのですか?」

「ええ・・・。雪子って、夏樹さんに関係のある事は何にも教えてくれないんですよ」

「そうですか・・・。確か、夏樹様とお付き合いをしている頃に、何度か、その女性と会っていたみたいで、何度か会っているうちに、雪子様も、その女性の方と親しくなったらしく、色々と相談などもしていたようです」

「そうなんですか・・・。雪子ったら、私には、何も言ってくれないから」

「きっと、雪子様にとって、夏樹様という方と過ごす時間は、子供が親から離れて友達との時間を過ごすような感じだったのかもしれませんね」

「親から離れて・・・」

「親に与えられた自由ではなくて、自分が見つけた、自分だけの時間であり、自分だけの新しい世界なのだと思います」

「それなら、何となく、私にも分かります」

「雪子様は、自分が良い子でいる事で周りの大人に心配をかけたくない。そんな風に自分に言い聞かせて生きている中で夏樹様と知り合って、やっと、本当の自分のままの、ありのままの自分でいられる世界を見つけたのかもしれません」

「でも・・・それじゃ、どうして、雪子は夏樹さんと別れたんでしょうか?」

「若さゆえ・・・。それもありますが、おそらく、その頃の雪子様は、自分の思いも、自分の感情も、自分の願いさえも、ほんの少ししか理解が出来なかったから、だから、自分の想いを夏樹様に伝えたくても、伝えることさえ出来なかった・・・。まるで、自分の夢を叶えたくて出場したはずのオーディションで、結局、何も出来なかった・・・。そんな感じかと思います」

「それで、雪子はあんなに・・・」

「雪子様が、何か・・・?」

「ええ・・・。夏樹さんと別れた事を私に伝えに来た時に、初めて、私の前で泣いたんですけど。その時の泣き方が尋常じゃなかったんです・・・。両方の目から大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちていく、あんな泣き方なんて・・・。私は、人があんな風に泣くところを見たのって、あの時の雪子が最初で最後でした」

「雪子様は、きっと、悔しかったんでしょうね・・・。こんなはずではなかった。まだ、何にも伝えてもいないのに・・・。でも、きっと、それは、夏樹様も同じだったのでないでしょうか?」

「夏樹さんも・・・?」

「夏樹様が雪子様にこの指輪を選んだのは、この先、雪子様が何かに困った時にすぐにお金に換えられるようにと・・・。雪子様は、その知り合いの女性から、そう聞かされたそうです」

「ふふっ・・・変わった理由ですね。でも、そんな風に考えるのって確かに夏樹さんらしいです」
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