128 / 386
傷つけたい
傷つけたい・・・その8
しおりを挟む
感情の歪みが、雪子の中にあるっていうのは、今の私には分かるような気がする。
でも、もし、去年の年末のあの夜の雪子を知らなかったら、分からなかったかもしれないわね。
私だって、あんな雪子なんて今までに一度だって見た事がなかったんだから。
あの夜の雪子が、本当の雪子の姿なのだろうか?
それとも、今の生活の中で生きている雪子の姿が本当の雪子なのだろうか?
もう50歳を過ぎているというのに、あの夜の雪子は、まるで、あの頃のような・・・。
いえ・・・。
もっと幼い頃の人見知りを覚えたばかりの子供が、親の前でだけ見せる無邪気な仕草のように、
夏樹さんにまとわりつきながら好きなだけ甘えているような・・・そんな雪子だった。
「あの・・・この先、雪子はどうなっていくと思いますか?」
「この先・・・ですか・・・」
「ええ・・・」
「その、夏樹様という方次第では?・・・と、思います」
「はぁ~・・・やっぱり・・・」
「ため息をつかれるということは、何か気になる事でも・・・?」
「ええ・・・。正直、色々あることはあるんですが。その中でも一番気になるのが、ほとんど不可能と思えるんです」
「不可能ですか・・・?」
「ええ・・・。それ以外の問題なら、いくらでも相談にのってあげれるし、協力だって出来るんですけど」
「いくらでもということは、もしかして、ご家族の方に雪子様が疑われているのですか?」
「ええ・・・まあ・・・。その一歩手前というか、なんていうか、そんな感じと言えばそうなんですけど・・・」
「という事は、まだ、ご家族の方たちには知られてはいないんですね?」
「ええ・・・今はまだ、週に一度のメールのお付き合い程度なので・・・」
「それだけで、知られる一歩手前という事は、問題は、雪子様の精神状態の方ですか?」
「それもあります・・・。なにせ、雪子の今の旦那さんは、優しくて、家族思いで、非の打ちどころのないマイホームパパタイプというのも問題と言えば問題なのですが・・・」
「なるほど。とても良いお人柄の旦那さんであり、とても暖かい家族のために、雪子様が自分の感情を押し殺してしまうのではないかと心配されているのですか?」
「ええ・・・確かにそれはあると思います。雪子は、自分の家族を裏切るような行為は出来ない性格ですから」
「雪子様は、とても優しいお人柄ですから。そのために、素直な自分の感情と、今の雪子様の家庭との間で、板挟みになってしまうかもしれませんね」
「それでも、もし、雪子が・・・。その時は、私なりに相談にものれますし、協力も出来るんですけど・・・」
「という事は、裕子様の協力でも、どうにも出来ない問題があるのですね?」
「ええ・・・そうなんです・・・」
「それは・・・その夏樹様という方の方に問題があるみたいですね?」
「ええ・・・まあ・・・」
「もしかして、夏樹様という方も、ご結婚されているとか・・・?」
「いえ・・・。もう10年くらい前だったかしら?その頃に離婚して、今は、独身で一人暮らしなんですけど」
裕子はそこまで言うと、急に、今の夏樹を思い出してしまったらしく、思わず、少し笑ってしまった。
「おや・・・何か、思い出されたのですか・・・?」
「あっ・・・すみません。ちょっと思い出してしまって・・・。実は、夏樹さんって、今は、女性なんです」
「はい・・・?あの・・・その・・・今は、女性というは・・・?」
夏樹が、今は、女性になっている・・・。これには、さすがにマスターも驚いたようである。
「女性といっても、女の格好をしているだけの女装家っていうんですかね?でも、夏樹さんは、自分の事を女性化って言ってますけど・・・ふふっ」
「はは・・・。面白い方のようですね」
「面白いって言えば、確かに、昔から面白い人なんですけど。私も30年ぶりに夏樹さんと再会した時には、まさか、夏樹さんが女装をしているとは、夢にも思いもしませんでしたし。それに、男性が女装をしているというより、もう、どこから見ても女性にしか見えないんですよ。だから、私が夏樹さんとメル友で知り合ってから半年くらいまで、普通の女性とメールをしているとばかり思っていたくらいなんですから。夏樹さんが、時々、送ってくれる自分を写した写真を見せられても、私は、その写真を見ても、普通に綺麗な女性だな~って、思っていたんですよ」
「それじゃ、雪子様も、さぞ驚かれたでしょう?」
「それが、全然・・・。やっぱり、そっちいったのね~!なんて、笑っていました。あっ・・・でも、雪子が、そんな女装をしている夏樹さんの写真を初めて見た瞬間に、すぐに夏樹さんだって分かったっていうんですから。しかも、その写真って、夏樹さんがマスクをしている写真だったんです。それで分かっちゃったって言うんですから。そんな雪子にも、私は驚かされました」
喫茶店のマスターは、自分が想像もしていなかった夏樹の女装の事を裕子に聞かされて、
笑っていいものか、悩んでいいものか、ある意味、少し変わった戸惑いに、飲み終えたコーヒーカップの中でスプーンを遊ばせていた。
でも、もし、去年の年末のあの夜の雪子を知らなかったら、分からなかったかもしれないわね。
私だって、あんな雪子なんて今までに一度だって見た事がなかったんだから。
あの夜の雪子が、本当の雪子の姿なのだろうか?
それとも、今の生活の中で生きている雪子の姿が本当の雪子なのだろうか?
もう50歳を過ぎているというのに、あの夜の雪子は、まるで、あの頃のような・・・。
いえ・・・。
もっと幼い頃の人見知りを覚えたばかりの子供が、親の前でだけ見せる無邪気な仕草のように、
夏樹さんにまとわりつきながら好きなだけ甘えているような・・・そんな雪子だった。
「あの・・・この先、雪子はどうなっていくと思いますか?」
「この先・・・ですか・・・」
「ええ・・・」
「その、夏樹様という方次第では?・・・と、思います」
「はぁ~・・・やっぱり・・・」
「ため息をつかれるということは、何か気になる事でも・・・?」
「ええ・・・。正直、色々あることはあるんですが。その中でも一番気になるのが、ほとんど不可能と思えるんです」
「不可能ですか・・・?」
「ええ・・・。それ以外の問題なら、いくらでも相談にのってあげれるし、協力だって出来るんですけど」
「いくらでもということは、もしかして、ご家族の方に雪子様が疑われているのですか?」
「ええ・・・まあ・・・。その一歩手前というか、なんていうか、そんな感じと言えばそうなんですけど・・・」
「という事は、まだ、ご家族の方たちには知られてはいないんですね?」
「ええ・・・今はまだ、週に一度のメールのお付き合い程度なので・・・」
「それだけで、知られる一歩手前という事は、問題は、雪子様の精神状態の方ですか?」
「それもあります・・・。なにせ、雪子の今の旦那さんは、優しくて、家族思いで、非の打ちどころのないマイホームパパタイプというのも問題と言えば問題なのですが・・・」
「なるほど。とても良いお人柄の旦那さんであり、とても暖かい家族のために、雪子様が自分の感情を押し殺してしまうのではないかと心配されているのですか?」
「ええ・・・確かにそれはあると思います。雪子は、自分の家族を裏切るような行為は出来ない性格ですから」
「雪子様は、とても優しいお人柄ですから。そのために、素直な自分の感情と、今の雪子様の家庭との間で、板挟みになってしまうかもしれませんね」
「それでも、もし、雪子が・・・。その時は、私なりに相談にものれますし、協力も出来るんですけど・・・」
「という事は、裕子様の協力でも、どうにも出来ない問題があるのですね?」
「ええ・・・そうなんです・・・」
「それは・・・その夏樹様という方の方に問題があるみたいですね?」
「ええ・・・まあ・・・」
「もしかして、夏樹様という方も、ご結婚されているとか・・・?」
「いえ・・・。もう10年くらい前だったかしら?その頃に離婚して、今は、独身で一人暮らしなんですけど」
裕子はそこまで言うと、急に、今の夏樹を思い出してしまったらしく、思わず、少し笑ってしまった。
「おや・・・何か、思い出されたのですか・・・?」
「あっ・・・すみません。ちょっと思い出してしまって・・・。実は、夏樹さんって、今は、女性なんです」
「はい・・・?あの・・・その・・・今は、女性というは・・・?」
夏樹が、今は、女性になっている・・・。これには、さすがにマスターも驚いたようである。
「女性といっても、女の格好をしているだけの女装家っていうんですかね?でも、夏樹さんは、自分の事を女性化って言ってますけど・・・ふふっ」
「はは・・・。面白い方のようですね」
「面白いって言えば、確かに、昔から面白い人なんですけど。私も30年ぶりに夏樹さんと再会した時には、まさか、夏樹さんが女装をしているとは、夢にも思いもしませんでしたし。それに、男性が女装をしているというより、もう、どこから見ても女性にしか見えないんですよ。だから、私が夏樹さんとメル友で知り合ってから半年くらいまで、普通の女性とメールをしているとばかり思っていたくらいなんですから。夏樹さんが、時々、送ってくれる自分を写した写真を見せられても、私は、その写真を見ても、普通に綺麗な女性だな~って、思っていたんですよ」
「それじゃ、雪子様も、さぞ驚かれたでしょう?」
「それが、全然・・・。やっぱり、そっちいったのね~!なんて、笑っていました。あっ・・・でも、雪子が、そんな女装をしている夏樹さんの写真を初めて見た瞬間に、すぐに夏樹さんだって分かったっていうんですから。しかも、その写真って、夏樹さんがマスクをしている写真だったんです。それで分かっちゃったって言うんですから。そんな雪子にも、私は驚かされました」
喫茶店のマスターは、自分が想像もしていなかった夏樹の女装の事を裕子に聞かされて、
笑っていいものか、悩んでいいものか、ある意味、少し変わった戸惑いに、飲み終えたコーヒーカップの中でスプーンを遊ばせていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。


白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。



【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる