127 / 386
傷つけたい
傷つけたい・・・その7
しおりを挟む
「あの、その感情の歪みというのは?」
「人が人を好きになるという感情は、とても素晴らしい事だと思います」
そう言うと、マスターは少し考え込むような仕草をしながらコーヒーを一口飲んで言葉を続ける。
「母親を好きになる。父親を好きになる。兄弟がいればその兄弟を好きになる。そして、人は成長とともに外の世界を知ると、今度は友達を好きになったり、クラブ活動などに入れば仲間の事が好きになる。そのうち異性を意識するようになると、人を好きになるという感情に疑問を抱くようになり、その先の世界を垣間見たくなっていきます」
「それは、恋人とかですか?」
「ええ、そうです・・・。男性が女性を、そして、女性が男性を好きになるようになると、人を好きになるという今までの経験の中にある好きという感情とは別に、まるで無重力の中にいるような感覚に戸惑う自分の感情を知るようになります」
「それは・・・?」
「親や兄弟に対しての好きという感情は一つしかないんです。それは、友達に対しても仲間に対しても同じ事が言えると思うんです。ところが、これが異性という事になると、好きという感情が一つではないという事を知るようになるんです」
「それは、憧れや片思いとかっていう事ですか?」
「ええ、そうです・・・。裕子様にとって、裕子様よりも年下なら弟のように年上なら兄のように、兄弟でもない異性に対して、そんな風に好きになる場合もありますよね」
「あっ・・・確かに、言われてみればそうですね」
「それと、異性に対して恋人という感情も一つではないんです」
「でも、もし、その二人が恋人同士なら、好きという気持ちは一つなんじゃないんですか?」
「こちらの場合は、好きという感情のバリエーションではなくて、好きという感情の深さと考えた方が分かりやすいかと思います」
「好きという深さ・・・ですか?」
「はい。好きになったその人のことを、どのくらい好きかという深さです」
「でも、それは、自分の家族や友達に対しても、同じような感情の深さとかがあるんじゃないですか?」
「確かにありますね・・・。この場合は、バリエーションと想いの深さという違いで考えた方が分かりやすかったですね。それでは、家族や友達と恋人との想いの深さの違いを言いますね」
「あっ・・・すいません。変な事を言ってしまって」
「ははは・・・気になさらなくても大丈夫です。結論から言いますと、胸がドキドキする感覚と、ドキドキしない感覚の違いだと思います」
「あっ、なるほど・・・。それなら分かりやすいです」
「それでは、こちらも結論から言いますと、雪子様の場合、その好きになるという想いの深さは、大切な指輪を、これほど長い年月の間ずっと守り続けてきたことで、その方をどれほどまでに好きなのかという雪子様の想いの深さは裕子様にも分かると思います」
「ええ・・・。それは、確かに」
「問題は、それゆえに、雪子様の中に、時折、現れてしまう感情の歪みの方なんです」
「その歪みって・・・?」
「雪子様が、大切にしたいと願う想いの中に生まれてくる感情の歪みなのです」
「それって、独占欲とか、ストーカーとかって事なんですか?」
「それなら、まだ救いもあるのですが。雪子様の場合は、それとは少し違うような気がするんです」
「違うって言いますと・・・?」
「一般に、ストーカーとかというのは独占欲が人一倍強いだけの感情に過ぎないので、確かにそういう感情も、どこか歪んだ感情なのかもしれませんが。でも、その歪みは、好きという感情から来ているわけではないと私は思うんです」
「えっ?・・・でも、よくニュースとかで・・・」
「本当にその人に事が好きなら、その人が傷つくような行為などするはずがありません・・・」
「言われてみれば、確かに・・・。それじゃ、ストーカーとかの感情の歪みというのは?」
「ストーカーの持つ好きという感情は愛情ではなくて、自分が欲しい玩具に対しての独占欲と同じような感情なのだと思います」
「それは、自分の思い通りにしたいという感情ですか?」
「はい・・・その通りです。さっきも言いましたけど、本気で、その人の事が好きなら、絶対に自分が好きになった人が悲しむような行為はしないものです」
「それじゃ、雪子の場合はいったい・・・?」
「あなたとなら地獄まで・・・。そして、微笑を浮かべる感情の歪みと言った方が分かりやすいかもしれません」
「人が人を好きになるという感情は、とても素晴らしい事だと思います」
そう言うと、マスターは少し考え込むような仕草をしながらコーヒーを一口飲んで言葉を続ける。
「母親を好きになる。父親を好きになる。兄弟がいればその兄弟を好きになる。そして、人は成長とともに外の世界を知ると、今度は友達を好きになったり、クラブ活動などに入れば仲間の事が好きになる。そのうち異性を意識するようになると、人を好きになるという感情に疑問を抱くようになり、その先の世界を垣間見たくなっていきます」
「それは、恋人とかですか?」
「ええ、そうです・・・。男性が女性を、そして、女性が男性を好きになるようになると、人を好きになるという今までの経験の中にある好きという感情とは別に、まるで無重力の中にいるような感覚に戸惑う自分の感情を知るようになります」
「それは・・・?」
「親や兄弟に対しての好きという感情は一つしかないんです。それは、友達に対しても仲間に対しても同じ事が言えると思うんです。ところが、これが異性という事になると、好きという感情が一つではないという事を知るようになるんです」
「それは、憧れや片思いとかっていう事ですか?」
「ええ、そうです・・・。裕子様にとって、裕子様よりも年下なら弟のように年上なら兄のように、兄弟でもない異性に対して、そんな風に好きになる場合もありますよね」
「あっ・・・確かに、言われてみればそうですね」
「それと、異性に対して恋人という感情も一つではないんです」
「でも、もし、その二人が恋人同士なら、好きという気持ちは一つなんじゃないんですか?」
「こちらの場合は、好きという感情のバリエーションではなくて、好きという感情の深さと考えた方が分かりやすいかと思います」
「好きという深さ・・・ですか?」
「はい。好きになったその人のことを、どのくらい好きかという深さです」
「でも、それは、自分の家族や友達に対しても、同じような感情の深さとかがあるんじゃないですか?」
「確かにありますね・・・。この場合は、バリエーションと想いの深さという違いで考えた方が分かりやすかったですね。それでは、家族や友達と恋人との想いの深さの違いを言いますね」
「あっ・・・すいません。変な事を言ってしまって」
「ははは・・・気になさらなくても大丈夫です。結論から言いますと、胸がドキドキする感覚と、ドキドキしない感覚の違いだと思います」
「あっ、なるほど・・・。それなら分かりやすいです」
「それでは、こちらも結論から言いますと、雪子様の場合、その好きになるという想いの深さは、大切な指輪を、これほど長い年月の間ずっと守り続けてきたことで、その方をどれほどまでに好きなのかという雪子様の想いの深さは裕子様にも分かると思います」
「ええ・・・。それは、確かに」
「問題は、それゆえに、雪子様の中に、時折、現れてしまう感情の歪みの方なんです」
「その歪みって・・・?」
「雪子様が、大切にしたいと願う想いの中に生まれてくる感情の歪みなのです」
「それって、独占欲とか、ストーカーとかって事なんですか?」
「それなら、まだ救いもあるのですが。雪子様の場合は、それとは少し違うような気がするんです」
「違うって言いますと・・・?」
「一般に、ストーカーとかというのは独占欲が人一倍強いだけの感情に過ぎないので、確かにそういう感情も、どこか歪んだ感情なのかもしれませんが。でも、その歪みは、好きという感情から来ているわけではないと私は思うんです」
「えっ?・・・でも、よくニュースとかで・・・」
「本当にその人に事が好きなら、その人が傷つくような行為などするはずがありません・・・」
「言われてみれば、確かに・・・。それじゃ、ストーカーとかの感情の歪みというのは?」
「ストーカーの持つ好きという感情は愛情ではなくて、自分が欲しい玩具に対しての独占欲と同じような感情なのだと思います」
「それは、自分の思い通りにしたいという感情ですか?」
「はい・・・その通りです。さっきも言いましたけど、本気で、その人の事が好きなら、絶対に自分が好きになった人が悲しむような行為はしないものです」
「それじゃ、雪子の場合はいったい・・・?」
「あなたとなら地獄まで・・・。そして、微笑を浮かべる感情の歪みと言った方が分かりやすいかもしれません」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる