愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
125 / 386
傷つけたい

傷つけたい・・・その5

しおりを挟む
頑張ったね・・・と、言って欲しかった・・・。

「あたしって、身勝手な女でしょ?」

いえ・・・あの・・・そこは、身勝手な男・・・ではないでしょうか?
夏樹の言葉の使い方に少し可笑しくなってしまった直美が、思わず笑みを浮かべてしまった。

「あら?あたし、何か、可笑しな事を言ったかしら?」

「あっ・・・ごめんなさい・・・。だって、女って言うから・・・」

「あはは!あんた、変なとこに気がつくのね」

「いや~・・・まあ~なんていうか」

「雪子はね、あたしがどんなに真面目な話をしていてもね、そんな真面目な話の内容なんて眼中にないの」

「眼中にない・・・ですか?」

「んで、話が退屈になってくると、いきなり、飛んでくるのよ・・・。ビンタがバチンって」

「いきなり・・・ですか?でも、どうしてなんですか?」

「さあね・・・。そんなの、あたしにも分かんないわ・・・。それに比べると、京子は根が真面目なのよ」

「雪子さんは違うんですか?」

「雪子はね、根が真面目なんじゃなくて、う~ん、なんて表現したらいいかしら?そうね、もしかしたら、根が真剣なのかもしれないわね」

「根が真剣・・・?変わった表現ですね」

「う~ん・・・ようは、生きる事に真面目というのと、生きる事に真剣という違いかもしれないわね」

「私には、どっちも同じような気がしますけど・・・。どこが違うんですか?」

「んなの、あたしにも分かんないわよ」

夏樹はケラケラ笑いながら、ウサギが着ている可愛いワンピースの裾を直している。

「あの・・・京子とやり直そうとは考えなかったんですか?」

「やり直すって、もう一回、一緒に暮らすって事?」

「いえ、そうじゃなくて、京子と離婚する前に、もう一度、二人でやり直そうとは考えなかったのかなって?」

「京子は、何度もやり直そうと努力をしてたわ」

「夏樹さんは・・・?」

「もういい・・・。そんな言葉しか頭の中には浮かんでこなかったわ」

「どうしてですか・・・?」

「どうして・・・?」

「だって、せっかく、京子がもう一度やり直そうと思っていたのに。それに、京子がもう一度やり直そうとしていた気持ちを、夏樹さんも分かっていたわけでしょ?」

「あたしが、そんな京子を見ていた時に、何を考えていたと思う?」

「何をって言われても・・・。もしかして、誰か他にいたんですか?」

「あはは!な~に、あんたまで京子みたいな事を考えてるのよ」

「京子も、そう思っていたんですか?」

「思っていたみたいよ。あたしに、誰か他に女がいるんじゃないかってね」

「夏樹さん・・・いたんですか?」

「あんたは、どう思う・・・?」

「どう思うって言われても・・・それは・・・あの・・・」

「あはは!・・・他に女なんていなかったわよ」

「やっぱり・・・」

「やっぱりって、どうして、そう思ったの?」

「いえ・・・ただ、夏樹さんには、他の女の人がいて欲しくないって思ったので」

「ふふっ・・・嬉しい事を言ってくれるのね?」

「いえ・・そんな・・・」

「その時のあたしはね、もう一度、あたしとやり直そうとしている京子を見ながら、こう思ってたの・・・。何のために?って」

「何のためにって・・それは、やっぱり・・・」

「あたしは、京子の玩具じゃないのよ?」

「えっ・・・?」・・・玩具じゃない・・・。その言葉に、直美はドキッとした。

それは、その言葉の名前と、その言葉を話す夏樹の男としての軽蔑めいた声にである。
一瞬、硬直したような直美に、面白そうな視線で覗き込みながら夏樹がおどけて見せる。

「あたしって、嫌な女でしょ?」

いえ・・・あの・・・そこは・・・。

確かに、話の内容は、男としての夏樹の事を、夏樹本人が言っているのは分かるのだが。
いかんせん、直美の目の前にいる夏樹は、どう見ても女性にしか見えないのである。

なので、夏樹が「嫌な女でしょ?」と言うと、思わず突っ込みたくなってしまうのだが。
それを我慢しようとすると、どうしても、クスッと笑いがこぼれてしまう直美なのである。

「あんた、悲しみを拒絶しないんでしょ?」

「えっ・・・?」

「悲しみってね、悲しいって言える人と、悲しいって言えない人とがいるの・・・」

「・・・」

「でも・・・あんたは、その悲しみを抱きしめてしまうのね・・・」

「・・・」

「そんな、あんたの想いなんて誰も気にもかけてくれないのにね」

「・・・」

あまりに突然に訪れた夏樹の言葉に、直美は、全ての言葉を見失ってしまいそうになった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...