愛して欲しいと言えたなら

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傷つけたい

傷つけたい・・・その1

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その頃、夏樹は、ウサギのぬいぐるみを膝の上に乗せて、
長いお耳をくちゅくちゅしながら、たわいもない会話で直美を笑わせていた。

「そういえば、あんた、そろそろ行かないとダメなんじゃないの?」

「えっ・・・?」

「えっ・・・?じゃないでしょ?」

「あの・・・私が、これからどこに行くのか分かるんですか?」

「京子のところに行くんじゃないの?」

「ええ・・・まあ、確かに・・・。でも、どうして分かったんですか?」

「どうしてって、あんた、時々、変な事を言ってたからね。何となく、そんな感じがしただけよ」

「変な事・・・ホントですか?」

「ホントよ・・・。ってか、あんた、いつ、あたしの膝の上に乗っかったのよ?」

夏樹は、膝の上にちょこんと乗っているウサギのぬいぐるみに訊いていた。

「いえ・・・あの、そのウサギさんなら前から乗っていましたよ」

「それじゃ、クマックマくんの前にあるグラスの中のジュースがなくなっているのは?」

「なくなっているって、あの、最初から何も入ってないと思いましたけど・・・」

「そうかしら?だって、ほら?少し底の方にオレンジジュースが残ってるわよ?」

「えっ・・・?」

そう言われて、直美が、グラスの底の方を見ると、
確かに、オレンジジュースが僅かではあるが残っていた。

「言われてみれば、確かに・・・」

「でしょ?やっぱり、この子たちは勝手に動き回ってるんだわ!」

いや、あの・・・そこは、やっぱり、この子たちは生きているのでは?ではないでしょうか。

「でも、まあ。この子たちが楽しく遊んでいるんなら、あたしは嬉しいけどね」

「楽しく遊んでいるって、その前に怖くないですか?」

「どうして・・・?」

「どうしてって・・・。だって、知らない間に動いてたりしてたら、何かが、憑依しているとかって考えちゃいますよ?」

「あら・・・?あんた、いつから疑わなくなったの?」

「えっ・・・?」

「普通は、憑依とか、霊が乗り移ってるなんて、誰も信じないものよ」

「だって、このグラスのオレンジジュースが・・・」

「ねえ?あんたの膝の上に座ってるクマのぬいぐるみって、何となく温かくない?」

夏樹にそう言われて、直美はクマのぬいぐるみを触ってみた。

「手とかじゃなくて背中よ、背中を触ってみてよ」

直美は、クマのぬいぐるみの背中を触ってみると、何となく、ほんのりと温かいような気がした。

「その温かさってさ、あんたのお腹にくっ付いていたからだと思う?」

「ええ・・・たぶん、そうじゃないかと・・・」

「もし、そうじゃなかったら嬉しいなって思わない?」

「夏樹さんって不思議な人ですね」

「どうして・・・?」

「こうして夏樹さんといると、本当に、ぬいぐるみたちが生きているんじゃないかって思えてきます」

「あたしが前に言った事があるでしょ?ぬいぐるみたちの顔が変わるって・・・」

「ええ・・・あの時は、そう聞かされても、まさか・・・?って、思ってましたけど」

「あの世と同じなのかもしれないわね」

「あの世・・・ですか?霊とかの方じゃないんですか?」

「たぶん、この子たちの身体の中に入ってるのは、もしかしたら、霊なのかもしれないって思う時もあるけど。でもね、この子たちが、今、あたしと一緒に暮らしている世界っていうのかしら?一匹一匹じゃなくて全体的に・・・。そうね、お空の上からここのお家を見ていると考えると、何となく、この家があの世の存在に似てるような気がするのよ」

「空の上から・・・ですか?」

「幽霊とかって、いるとか、いないとかって、極論の答えを探してしまうんだろうけど。でもね、あの世って考えると、あの世があるとか、ないとかって事よりも、天国なら、その天国という世界があったらいいなって?そんな風に考えると、何となく、暖かい感じがするから、あたしは好きなのよね」

「あったらいいな・・・ですか?私も、そう思いたいです」

「あたしも、そう思いたいわ・・・。あっ、電話だわ・・・誰からかしら?」

「ちょっと、ごめんなさいね」と、言いながら、夏樹は隣の席に座っている白いクマのぬいぐるみが抱えている?両手から、薄いピンク色のスマホを手に取ると、着信の相手を画面で確かめてみた。

「あら?・・・雪子だわ」

「あっ・・・それじゃ、私、これで・・・」・・・雪子からの電話だと知って、直美が、慌てて席を立とうとすると。

「あんた、聞きたいんじゃないの?あたしと雪子の会話・・・?」

「いえ・・・あの・・・」

「別に、隠す事でもないし、気にしなくてもいいわよ」

少し慌てている直美を、意地悪そうな視線で眺めながら、夏樹はスマホを通話状態にした。

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