愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
117 / 386
記憶の欠片

記憶の欠片・・・その17

しおりを挟む
直美は、夏樹の言葉に、いまひとつ納得が出来ないと思いながら、
膝の上で美味しそうにオレンジジュースを飲んでいるクマのぬいぐるみのお耳をなでていた。
もとい・・・オレンジジュースを飲んでいるのではなくて、飲んでいるようにしているクマである。

「あの・・・このクマさんのぬいぐるみに名前とかあるんですか?」

「あら?あんた、いつ、そっちに行ったのよ?」

「えっ・・・?」

「この子も、あたしに似て、けっこうエッチなのかしら?」

「ふふっ・・・エッチって・・・」

「知ってた?あたしね、女性の人の太ももを触ってるのが好きなのよ」

「えっ・・・?知りませんでした・・・」

「京子ったら、そういう大事な事は言わないのよね。まあ、今は、自分の太もも触って満足してるけどね」

夏樹はそう言いながら、自分の太ももを触って見せるのだが、
直美からすれば、何となく目のやり場に困ってしまうのである。

「あんたの膝の上にいるのはくまっくまくんって名前なのよ。そんで、こっちの白いクマさんがみかんちゃん」

「白いクマさんが、みかんちゃんって名前なんですか?」

直美が白いクマのぬいぐるみの方を見ると、
器用に椅子の上に座って、ストローでオレンジジュースを飲んでいる。
もとい・・・飲んでいる仕草をしているが正解である。

「ってか、みかんちゃんは、いつ、ここに来たのよ?」

白いクマのぬいぐるみに向かって訊いている夏樹を見ていると、
直美には、本当に、ここの家にいるぬいぐるみたちが生きているように思えてしまう。

「そういえば夏樹さん、私が、京子のところに会いに行ったとかって訊かないんですね?」

「どうして・・・?」

「どうしてって・・・気にならないんですか?」

「別に、気にならないけど」

「あの・・・それじゃ、子供たちの事とかは気にならないんですか?」

「あんた、変な事を訊くのね?」

「変ですか・・・?」

「まあ・・・普通はそうなんだろうけど、あたしはちょっと変わってるから」

「もしかして、まだ恨んでるとかって事ですか?」

「誰を・・・?」

「誰をって・・・京子とか、子供たちの事とか」

「別に、何とも思ってないわよ」

「私としては、そこが分からないんですよね」

「あたしとしては、どうして、この白いクマがここにいるのかの方が分かんないわよ」

「ここにって、白いクマさんは前からいましたよ」

「それじゃ、あんたの前にある、そのオレンジジュースが半分なくなってるのは?」

「えっ・・・?半分って、最初からですよ」

「そうだったかしら?・・・う~ん、もしかして、あたし、少し疲れているのかしら」

「そういえば、さっきの人は・・・?」

「さっきの・・・?」

「ええ・・・夏樹さんが、新しい彼氏とかって言ってた・・・」

「あはは・・・あの人は不動産屋さんよ」

「不動産・・・?夏樹さん土地か何か買うんですか?」

「ええ、そうよ・・・。だって、ここは貸家だからね。いつまでもってわけにもいかないでしょ?」

「ここって貸家だったんですか?」

「自分の死に場所くらいは、ちゃんと用意しておこうと思ってね」

「死に場所だなんて・・・」

「それに、あたしがここで死んだら、この子たちが追い出されちゃうし」

「子供たちは・・・?」

「な~に・・・?あたしが死んだら、子供たちが葬儀でもしてくれるっていうの?」

「だって・・・京子は離婚したから他人かもしれないけど、子供たちは血が繋がってるわけだし」

「あたしは、死んだ後も子供たちの世話になるつもりなんてないわよ」

「そんな・・・」

「心配しなくても、京子にも、子供たちにも、お金くらいは残してあげるわよ」

「いや・・・あの・・・そういう事じゃなくて」

「何、言ってるのよ。あいつらが欲しいのはお金だけよ。決まってるでしょ?」

「それは、ちょっと言い過ぎだと思いますけど」

「それじゃ、何?あたしが死んだ後に、あたしの愛情でも欲しいっていうわけ?」

離婚した京子や子供たちが欲しいのはお金だけだと言い切る夏樹の言葉は冷たいはずなのに、
そんな風に言い切られてしまう京子たちを可哀そうと思う事よりも、
直美は、そう言い切ってしまう、夏樹に寂しさを感じてしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

処理中です...