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記憶の欠片
記憶の欠片・・・その17
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直美は、夏樹の言葉に、いまひとつ納得が出来ないと思いながら、
膝の上で美味しそうにオレンジジュースを飲んでいるクマのぬいぐるみのお耳をなでていた。
もとい・・・オレンジジュースを飲んでいるのではなくて、飲んでいるようにしているクマである。
「あの・・・このクマさんのぬいぐるみに名前とかあるんですか?」
「あら?あんた、いつ、そっちに行ったのよ?」
「えっ・・・?」
「この子も、あたしに似て、けっこうエッチなのかしら?」
「ふふっ・・・エッチって・・・」
「知ってた?あたしね、女性の人の太ももを触ってるのが好きなのよ」
「えっ・・・?知りませんでした・・・」
「京子ったら、そういう大事な事は言わないのよね。まあ、今は、自分の太もも触って満足してるけどね」
夏樹はそう言いながら、自分の太ももを触って見せるのだが、
直美からすれば、何となく目のやり場に困ってしまうのである。
「あんたの膝の上にいるのはくまっくまくんって名前なのよ。そんで、こっちの白いクマさんがみかんちゃん」
「白いクマさんが、みかんちゃんって名前なんですか?」
直美が白いクマのぬいぐるみの方を見ると、
器用に椅子の上に座って、ストローでオレンジジュースを飲んでいる。
もとい・・・飲んでいる仕草をしているが正解である。
「ってか、みかんちゃんは、いつ、ここに来たのよ?」
白いクマのぬいぐるみに向かって訊いている夏樹を見ていると、
直美には、本当に、ここの家にいるぬいぐるみたちが生きているように思えてしまう。
「そういえば夏樹さん、私が、京子のところに会いに行ったとかって訊かないんですね?」
「どうして・・・?」
「どうしてって・・・気にならないんですか?」
「別に、気にならないけど」
「あの・・・それじゃ、子供たちの事とかは気にならないんですか?」
「あんた、変な事を訊くのね?」
「変ですか・・・?」
「まあ・・・普通はそうなんだろうけど、あたしはちょっと変わってるから」
「もしかして、まだ恨んでるとかって事ですか?」
「誰を・・・?」
「誰をって・・・京子とか、子供たちの事とか」
「別に、何とも思ってないわよ」
「私としては、そこが分からないんですよね」
「あたしとしては、どうして、この白いクマがここにいるのかの方が分かんないわよ」
「ここにって、白いクマさんは前からいましたよ」
「それじゃ、あんたの前にある、そのオレンジジュースが半分なくなってるのは?」
「えっ・・・?半分って、最初からですよ」
「そうだったかしら?・・・う~ん、もしかして、あたし、少し疲れているのかしら」
「そういえば、さっきの人は・・・?」
「さっきの・・・?」
「ええ・・・夏樹さんが、新しい彼氏とかって言ってた・・・」
「あはは・・・あの人は不動産屋さんよ」
「不動産・・・?夏樹さん土地か何か買うんですか?」
「ええ、そうよ・・・。だって、ここは貸家だからね。いつまでもってわけにもいかないでしょ?」
「ここって貸家だったんですか?」
「自分の死に場所くらいは、ちゃんと用意しておこうと思ってね」
「死に場所だなんて・・・」
「それに、あたしがここで死んだら、この子たちが追い出されちゃうし」
「子供たちは・・・?」
「な~に・・・?あたしが死んだら、子供たちが葬儀でもしてくれるっていうの?」
「だって・・・京子は離婚したから他人かもしれないけど、子供たちは血が繋がってるわけだし」
「あたしは、死んだ後も子供たちの世話になるつもりなんてないわよ」
「そんな・・・」
「心配しなくても、京子にも、子供たちにも、お金くらいは残してあげるわよ」
「いや・・・あの・・・そういう事じゃなくて」
「何、言ってるのよ。あいつらが欲しいのはお金だけよ。決まってるでしょ?」
「それは、ちょっと言い過ぎだと思いますけど」
「それじゃ、何?あたしが死んだ後に、あたしの愛情でも欲しいっていうわけ?」
離婚した京子や子供たちが欲しいのはお金だけだと言い切る夏樹の言葉は冷たいはずなのに、
そんな風に言い切られてしまう京子たちを可哀そうと思う事よりも、
直美は、そう言い切ってしまう、夏樹に寂しさを感じてしまう。
膝の上で美味しそうにオレンジジュースを飲んでいるクマのぬいぐるみのお耳をなでていた。
もとい・・・オレンジジュースを飲んでいるのではなくて、飲んでいるようにしているクマである。
「あの・・・このクマさんのぬいぐるみに名前とかあるんですか?」
「あら?あんた、いつ、そっちに行ったのよ?」
「えっ・・・?」
「この子も、あたしに似て、けっこうエッチなのかしら?」
「ふふっ・・・エッチって・・・」
「知ってた?あたしね、女性の人の太ももを触ってるのが好きなのよ」
「えっ・・・?知りませんでした・・・」
「京子ったら、そういう大事な事は言わないのよね。まあ、今は、自分の太もも触って満足してるけどね」
夏樹はそう言いながら、自分の太ももを触って見せるのだが、
直美からすれば、何となく目のやり場に困ってしまうのである。
「あんたの膝の上にいるのはくまっくまくんって名前なのよ。そんで、こっちの白いクマさんがみかんちゃん」
「白いクマさんが、みかんちゃんって名前なんですか?」
直美が白いクマのぬいぐるみの方を見ると、
器用に椅子の上に座って、ストローでオレンジジュースを飲んでいる。
もとい・・・飲んでいる仕草をしているが正解である。
「ってか、みかんちゃんは、いつ、ここに来たのよ?」
白いクマのぬいぐるみに向かって訊いている夏樹を見ていると、
直美には、本当に、ここの家にいるぬいぐるみたちが生きているように思えてしまう。
「そういえば夏樹さん、私が、京子のところに会いに行ったとかって訊かないんですね?」
「どうして・・・?」
「どうしてって・・・気にならないんですか?」
「別に、気にならないけど」
「あの・・・それじゃ、子供たちの事とかは気にならないんですか?」
「あんた、変な事を訊くのね?」
「変ですか・・・?」
「まあ・・・普通はそうなんだろうけど、あたしはちょっと変わってるから」
「もしかして、まだ恨んでるとかって事ですか?」
「誰を・・・?」
「誰をって・・・京子とか、子供たちの事とか」
「別に、何とも思ってないわよ」
「私としては、そこが分からないんですよね」
「あたしとしては、どうして、この白いクマがここにいるのかの方が分かんないわよ」
「ここにって、白いクマさんは前からいましたよ」
「それじゃ、あんたの前にある、そのオレンジジュースが半分なくなってるのは?」
「えっ・・・?半分って、最初からですよ」
「そうだったかしら?・・・う~ん、もしかして、あたし、少し疲れているのかしら」
「そういえば、さっきの人は・・・?」
「さっきの・・・?」
「ええ・・・夏樹さんが、新しい彼氏とかって言ってた・・・」
「あはは・・・あの人は不動産屋さんよ」
「不動産・・・?夏樹さん土地か何か買うんですか?」
「ええ、そうよ・・・。だって、ここは貸家だからね。いつまでもってわけにもいかないでしょ?」
「ここって貸家だったんですか?」
「自分の死に場所くらいは、ちゃんと用意しておこうと思ってね」
「死に場所だなんて・・・」
「それに、あたしがここで死んだら、この子たちが追い出されちゃうし」
「子供たちは・・・?」
「な~に・・・?あたしが死んだら、子供たちが葬儀でもしてくれるっていうの?」
「だって・・・京子は離婚したから他人かもしれないけど、子供たちは血が繋がってるわけだし」
「あたしは、死んだ後も子供たちの世話になるつもりなんてないわよ」
「そんな・・・」
「心配しなくても、京子にも、子供たちにも、お金くらいは残してあげるわよ」
「いや・・・あの・・・そういう事じゃなくて」
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「それは、ちょっと言い過ぎだと思いますけど」
「それじゃ、何?あたしが死んだ後に、あたしの愛情でも欲しいっていうわけ?」
離婚した京子や子供たちが欲しいのはお金だけだと言い切る夏樹の言葉は冷たいはずなのに、
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