愛して欲しいと言えたなら

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記憶の欠片

記憶の欠片・・・その9

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直美は、スーパーの玄関口で電話をしている、さっきの女性の事が少し気になったので、
早々に車を降りて、その女性のそばを通るように歩き出した。

とはいっても、傘をさしている状態で電話をしている、その女性のすぐそばまで近づくのは、
どう考えても違和感があるような気がしたので、少しだけ遠回りをするような感じで、
その女性の背後から、すぐそばを通り過ぎるようにしてみたのである。

「ん?・・・誰に・・・?」

「きゃはは・・・!」

「きゃははって、あんた、どこで笑ってるのよ?」

「どこって、スーパーの入り口だよ」

「で・・・そこで、何してるの・・・?」

「ふーちゃんに会いにきたのだ!」

ふーちゃん・・・?
ちょうど直美がその女性のすぐ背後を通り過ぎた時に聞こえてきた言葉である。
とはいえ、その女性の背後で立ち止まっているわけにもいかないので、他の来客に混じるように、そのまま通り過ぎてスーパーの中へと入って行った。

「あたしに会いにって、おバカな事を言ってないで、お父さんの容態はどうなの?」

「あれ・・・?何で、知ってるの?」

「そんな事より、お父さんの容態はどうなの?」

「はは~ん・・・もしかして、裕子だな!」

「寒くない?雨の中だと寒いんだから、とりあえずスーパーの中に入りなさい」

「裕子ったら、ふーちゃんとはメールしてないって言ってたのに」

「きっと、あんたの事が心配だったのよ」

「どうして・・・?」

「だって、あんたと裕子って、そういう関係なんでしょ?」

「あら?なんで分かっちゃったの?」

「うそ・・・?マジで・・・?」

「あれ~?ふーちゃん、もしかして、焼いてたりして?」

「急にね、お魚が食べたくなっちゃったのよ」

「ふーちゃん、お料理とかって出来るの?」

「ちょっと、あんた、そこは出来るの?じゃなくて、するの・・・でしょ?」

「違うよ・・・。出来るの?が、正解なのだ」

「それで、お父さんの容態はどうなの?」

「ちょっと風邪をこじらせただけみたいだから、大丈夫みたいだよ」

「大丈夫って・・・でも、入院したんでしょ?」

「大事をとってってことみたい。うちのお父さんも、もう、お年寄りさんだから」

「そう言われてみればそうよね・・・。あたしの知ってるのは30年も前だもんね」

「あの頃のふーちゃんって、うちのお父さんのことを怖がってたのだ」

「あら?まだ覚えてたの?」

「だって、あの時の、ふーちゃんのリアクションって面白かったんだもん」

「あの時って・・・?」

「ほら・・・?ふーちゃんが車で走ってて、うちのお父さんを見かけた時・・・」

「あたし、そんなに面白いリアクションとかしたかしら?」

「したよ・・・隣に乗ってる私に、いきなり、隠れろ!って・・・」

「そうだったかしら・・・?」

「んで、私が隠れて、お父さんから見えないように通り過ぎた時に、ふーちゃんが、お父さんと目が合っちゃって」

「あたし、睨まれたのよね・・・。 なんで睨まれたのか、未だに分からないけど」

「今、思い出しても、面白いよ・・・。あの時の、ふーちゃんの慌てたお顔ったらなかったのだ」

「それで、もう、スーパーの中に入ったの?」

「まだだよ・・・」

「まだだよって、風邪引くから早く入りなさい」

「大丈夫、私が風邪引いて肺炎になって入院したら、ふーちゃんがお見舞いに来るのだ!」

「あんたね・・・」

「んで、私の隣のベッドには、うちのお父さんが寝てたりしたら、ふーちゃん大変なのだ」

「あんたが入院しなくても、いつでも会えるわよ」

「ホントに・・・?」

「ホントよ。だから、早く入りなさい」

「うん・・・。スーパーの中で少し暖まったら病院に戻るね!」

「気を付けて戻るのよ」

「うん・・・。ねえ、ふーちゃん?」

「な~に・・・?」

「また、電話してもいい?」

「いいわよ・・・」

「いつでも、電話してもいい・・・?」

「いつでもいいわよ・・・。お風呂と、おトイレ以外なら大丈夫だから」

「あはは!ふーちゃん面白いんだ!それじゃ、今夜、また電話してもいい?」

「いいわよ・・・」

「うん・・・。それじゃ、また電話するね・・・。ではでは、バイバイなのだ」

そう言って、スマホをバッグにしまうと、雪子はスーパーの中へと入っていった。
そのすぐ隣を直美が通り過ぎると、玄関口に歩きながら、京子に電話をかけてみた。

「あっ、京子!ちょっと、訊いてもいい?」

「どうしたの、直美・・・?」

「あのさ、ふーちゃんって名前とかって知ってる?もしかしたら、あだ名かもしれないけど、京子知ってる?」
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