愛して欲しいと言えたなら

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記憶の欠片

記憶の欠片・・・その7

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雨の中、見えなくなっていく、その女性の後ろ姿を見つめていた直美が、
向き直ってからも、その視線は窓の外へ移したまま、ひとり言のように呟いてみた。

「まさかね・・・」・・・

見たっていっても、チラッとしか見えなかったんだし。ましてや、外は雨が降っていたわけだし。
それに、私が知ってる雪子さんって、もう、何十年も前でしょ?
きっと、夏樹さんから雪子さんの話を聞かされたから、そう思ったのかもしれないわね。

「ちょっと、直美・・・?」

「あっ・・・ごめん、ごめん。」

「どうしたのよ、急に・・・」

「ねえ~京子・・・」

「なに・・・?」

「京子さ、雪子さんって知ってるでしょ?」

「雪子さん・・・?直美、もしかして、雪子さんに会ったの?」

おいおい・・・。いくら、なんでも、それは飛躍し過ぎだろ?

「何、言ってるのよ。私が、雪子さんと会うわけないでしょ?ってか、どうやって会うのよ?」

「それは、そうだけど・・・」

「いきなり雪子さんと会ったの?って、京子、私に何か隠してる事とかな~い?」

おおお・・・だめだ~!この会話の進め方。やっぱり、夏樹さんの病原菌が・・・。

「隠してる事って・・・。別に、何もないけど・・・どうして?」

「京子・・・?もしかしてよ?もしかしてって事なんだけどさ、ちょっと訊いてもいい?」

「もしかして・・・?って、なに?」

「うん・・・。あくまでも、もしかしてって話なんだけど。誤解しないで聞いてね」

「うん・・・分かった」

ってか、いいのかしら?こんな事を訊いちゃっても?
でもさ、京子だって、私に黙ってたわけだし・・・。
私が、京子の事を心配して、しかも、相当な勇気を出して夏樹さんに会いに行ったわけだし。

それなのに、一番、大事な事を、私に言わなかったのは京子の方なんだしさ。
夏樹さんが雪子さんと会ってたなんて、夏樹さんに言われるまで知らなかったしさ。

しかもよ、しかも、夏樹さんと雪子さんが、相合傘で歩いているところを、京子が目撃してたなんて。
いえ・・・目撃してたんじゃなくてホールイン・ワンちゃん!だわ・・・。
なにせ、その二人とすれ違ったって言ってたし。
その時、京子は、夏樹さんと目が合っていたなんて、思いっきり!ホールイン・ワンワン!なんじゃないかしら?

大体にして、こんな大事な事を、ちょっこっとも、私に言わないなんて京子もひどいわよね。
なので、ここは、ひとつ。京子に仕返しをしてあげなくっちゃね。

「で・・・直美が訊きたい事って何よ?」

「あくまでも、もしかしてって事だからね・・・いい?」

「それは分かったから、早く言ってみてよ」

う~ん・・・。そう言われちゃうと、な~んか、訊きにくいんだわさ・・・。
ま・・いいかな~。別に、今、訊く事でもないし~。
しかも、電話なんだし・・・。私って、やっぱり良い人だったのね。

「ちょっと、直美・・・?」

「やっぱり、いいわ・・・。もしかしての話なんだし、別に、電話で訊くほどの事でもないし・・・」

「何、言ってるのよ・・・。直美はよくても、私の方が気になるわよ?」

「気にしない!気にしない!気にシマウマ」

「えっ・・・?」

「えっ・・・?」

「それって・・・?」

「ん・・・?な~に?私、何か変な事でも言った?」

「言ったなんてもんじゃないわよ?直美、いったい、旦那と何を話してきたのよ?」

「えっ・・・?何って、別に、そんな変わったような事は・・・ってか、京子、どうしたのよ?急に・・・」

「あのね・・・。今、直美が言った、気にシマウマって、旦那がよく使ってた言葉なのよ?」

あっ・・・ダメだわ・・・。私、完全に夏樹さんの病原菌に侵されてしまってるんだわ。
「そうなの・・・?」・・・ってか・・・もう手遅れだし・・・どうしましょ?

「もしかして、直美も、あの人のウィルスに侵されちゃったんじゃないの?」

おおお===!図星なんだわ・・・。というより、なんで分かるの?
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