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記憶の欠片
記憶の欠片・・・その6
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6月も中頃になると、雨が降る日が多くなってきた。
少し遅れての梅雨入りに、少し気が滅入っている直美だったが、時折かかってくる京子からの電話に、会いに行けない言い訳を探している自分にも少し滅入っていた
「可哀そうな子・・・」・・・。
夏樹に会いに行ってから、もう、2週間が過ぎたというのに、あの日の夏樹の言葉が、未だに直美の頭の中から離れない。
それどころか、1日、1日と、日が増すにつれて、なぜか、京子に会うことに、ためらいを感じてしまうのである。
時々、動かしてみるワイパーが拭いてくれるフロントガラスから見える景色に、
夏樹に会いに行く前と、会ってしまった後とが違う世界なのだと、
今さらながらに気がついてしまうと、知るべきだったことだったのか、
それとも、知らない方がよかったことなのかと考えてしまう。
ただ・・・。今は、京子の口から夏樹の悪口を聞く気にはなれないのである。
あっ・・・また電話だわ・・・。きっと、京子からだわ。
助手席に置いてある黒いハンドバックの中から聞こえてくる着信音に、
「私のスマホも梅雨入りだわ」などと、笑っていいのか、滅入っていいのか、一人悩んでいる直美なのである。
とはいえ、いつまでも、言い訳ばかりを探しているのにも、少し疲れてきたのも確かである。
直美は、ハンドバックの留め金を開けて、中で勝手に騒いでいるスマホを取り出して、
今度から着信音をブルブルに変えようかしら?などと考えながら通話ボタンを押してみる。
「あっ・・・直美?」
「京子・・・どうしたの?」
「どうしたのって?こっちが訊きたいわよ」
「えっ・・・?何かあったの?」
「別に何もないけど、なんか、あれから、直美が私のことを避けているような気がしたから」
「避けてるなんて・・・そんなわけないでしょ?」
「私が変な事を言ったから、もしかして、旦那に会いに行って何か言われたのかな?って、思ってさ」
「もしかして、旦那に会いに行って」・・・夏樹さんの言っていた通りだわ。
私なんかよりも、夏樹さんの方が、ずっと、京子のことを知ってるって事なんだろうな~。
京子から夏樹さんの悪口を聞いてる時って、な~んか、最悪な日々のお裾分けされてるような気がするのに、夏樹さんと話をしていると、そんな最悪な日々が、今では懐かしい思い出のように優しく感じてしまう。お互い夫婦だったっていうのに、どうして、こうも感じ方が違うのかしら?
「もしもし、直美?どうかしたの?」
「えっ・・・?」
「だって、急に黙ってしまうから・・・」
「あっ・・・ごめん。ちょっと考え事してたから」
「考え事・・・?もしかして直美、あの人に会いに行ったの?」
旦那があの人に変わったわ・・・。ってか、別に、どっちでもいいけど・・・。
「京子・・・私に、夏樹さんに会いに行って欲しかったんじゃないの?」
「やっぱり、旦那のところに会いに行ってたのね?」
今度は、あの人から旦那に変わったし・・・まあ、別に、どうでもいい事なんだけど・・・。
とはいえ、いつまでも隠しているわけにもいかないし・・・まっ、いっかな?
「ええ・・・夏樹さんに会いに行ってきたわ」
「いつ・・・?」
おいおい・・・京子の思惑が思いっきり夏樹さんにバレてるわよ!
「う~ん・・・今月の初め頃だから、2週間くらい前かな?」
「2週間くらい前って、どうして、すぐに教えてくれなかったのよ?」
いえ・・・あの・・・それはでありますけど・・・。あれ?なんか私って少し変になってるかも?
確か、夏樹さんと会ってからなのよね?こんな感じになったのって。
家で娘と話をしてる時もそうなのよね。娘にも、お母さん、なんか最近面白いねって言われるし。
「もしかして、京子?私が、夏樹さんに会いに行かない方がよかった?」
「えっ・・・?」
あ~ん!もう~まただ・・・。いかん!いかん!いかんぞな!
・・・なんか、夏樹さん病原菌に侵されてるかも、私・・・。
「京子、聞きたいんでしょ?私が夏樹さんと何を話してきたのか・・・違う?」
「別に聞きたいわけじゃないけど・・・」
「無理しなくてもいいわよ・・・。今、こっちに来てるから、もう少ししたら京子の家に行くわね」
「うん、分かった・・・」
京子と話をしながら、車のすぐ横を綺麗な花柄の傘をさした女性が通り過ぎるのを、
何気なく見ていた直美が、「何か買っていこうか?」と、言いかけたまま、
雨で濡れている運転席の窓越しに、通り過ぎて行く女性に思わす振り返ってしまった。
「どうしたの?直美」
「えっ・・・ううん。何でもないわ」
今の女の人・・・。もしかして、雪子さんじゃなかったかしら?
少し遅れての梅雨入りに、少し気が滅入っている直美だったが、時折かかってくる京子からの電話に、会いに行けない言い訳を探している自分にも少し滅入っていた
「可哀そうな子・・・」・・・。
夏樹に会いに行ってから、もう、2週間が過ぎたというのに、あの日の夏樹の言葉が、未だに直美の頭の中から離れない。
それどころか、1日、1日と、日が増すにつれて、なぜか、京子に会うことに、ためらいを感じてしまうのである。
時々、動かしてみるワイパーが拭いてくれるフロントガラスから見える景色に、
夏樹に会いに行く前と、会ってしまった後とが違う世界なのだと、
今さらながらに気がついてしまうと、知るべきだったことだったのか、
それとも、知らない方がよかったことなのかと考えてしまう。
ただ・・・。今は、京子の口から夏樹の悪口を聞く気にはなれないのである。
あっ・・・また電話だわ・・・。きっと、京子からだわ。
助手席に置いてある黒いハンドバックの中から聞こえてくる着信音に、
「私のスマホも梅雨入りだわ」などと、笑っていいのか、滅入っていいのか、一人悩んでいる直美なのである。
とはいえ、いつまでも、言い訳ばかりを探しているのにも、少し疲れてきたのも確かである。
直美は、ハンドバックの留め金を開けて、中で勝手に騒いでいるスマホを取り出して、
今度から着信音をブルブルに変えようかしら?などと考えながら通話ボタンを押してみる。
「あっ・・・直美?」
「京子・・・どうしたの?」
「どうしたのって?こっちが訊きたいわよ」
「えっ・・・?何かあったの?」
「別に何もないけど、なんか、あれから、直美が私のことを避けているような気がしたから」
「避けてるなんて・・・そんなわけないでしょ?」
「私が変な事を言ったから、もしかして、旦那に会いに行って何か言われたのかな?って、思ってさ」
「もしかして、旦那に会いに行って」・・・夏樹さんの言っていた通りだわ。
私なんかよりも、夏樹さんの方が、ずっと、京子のことを知ってるって事なんだろうな~。
京子から夏樹さんの悪口を聞いてる時って、な~んか、最悪な日々のお裾分けされてるような気がするのに、夏樹さんと話をしていると、そんな最悪な日々が、今では懐かしい思い出のように優しく感じてしまう。お互い夫婦だったっていうのに、どうして、こうも感じ方が違うのかしら?
「もしもし、直美?どうかしたの?」
「えっ・・・?」
「だって、急に黙ってしまうから・・・」
「あっ・・・ごめん。ちょっと考え事してたから」
「考え事・・・?もしかして直美、あの人に会いに行ったの?」
旦那があの人に変わったわ・・・。ってか、別に、どっちでもいいけど・・・。
「京子・・・私に、夏樹さんに会いに行って欲しかったんじゃないの?」
「やっぱり、旦那のところに会いに行ってたのね?」
今度は、あの人から旦那に変わったし・・・まあ、別に、どうでもいい事なんだけど・・・。
とはいえ、いつまでも隠しているわけにもいかないし・・・まっ、いっかな?
「ええ・・・夏樹さんに会いに行ってきたわ」
「いつ・・・?」
おいおい・・・京子の思惑が思いっきり夏樹さんにバレてるわよ!
「う~ん・・・今月の初め頃だから、2週間くらい前かな?」
「2週間くらい前って、どうして、すぐに教えてくれなかったのよ?」
いえ・・・あの・・・それはでありますけど・・・。あれ?なんか私って少し変になってるかも?
確か、夏樹さんと会ってからなのよね?こんな感じになったのって。
家で娘と話をしてる時もそうなのよね。娘にも、お母さん、なんか最近面白いねって言われるし。
「もしかして、京子?私が、夏樹さんに会いに行かない方がよかった?」
「えっ・・・?」
あ~ん!もう~まただ・・・。いかん!いかん!いかんぞな!
・・・なんか、夏樹さん病原菌に侵されてるかも、私・・・。
「京子、聞きたいんでしょ?私が夏樹さんと何を話してきたのか・・・違う?」
「別に聞きたいわけじゃないけど・・・」
「無理しなくてもいいわよ・・・。今、こっちに来てるから、もう少ししたら京子の家に行くわね」
「うん、分かった・・・」
京子と話をしながら、車のすぐ横を綺麗な花柄の傘をさした女性が通り過ぎるのを、
何気なく見ていた直美が、「何か買っていこうか?」と、言いかけたまま、
雨で濡れている運転席の窓越しに、通り過ぎて行く女性に思わす振り返ってしまった。
「どうしたの?直美」
「えっ・・・ううん。何でもないわ」
今の女の人・・・。もしかして、雪子さんじゃなかったかしら?
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