愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
105 / 386
記憶の欠片

記憶の欠片・・・その5

しおりを挟む
夏樹との日々を後悔という言葉で幕を閉じた京子・・・。
そして、京子と暮らした日々を後悔という言葉で閉じなかった夏樹・・・。
直美は、夏樹の言葉に、自分の離婚の時を思い出していた。

「あたしが京子のことを二度恨んだと言ったわよね」

「ええ・・・」

「一度目は、あたしに彼女を見捨てるような真似をさせたこと・・・」

「見捨てる・・・?」

「そして二度目は、それなのに京子は、自分の選んだ人生を自ら後悔したこと・・・」

「でも、それは・・・」

「それは、な~に・・・?」

「京子にしてみれば、まさか夏樹さんがって思ったから・・・」

「まさか、あたしがな~に?借金だらけになったとかってこと?」

「ええ・・・まあ・・・」

「あんたね、自分が納得するような結果や結末にならないと何でも後悔するわけ?」

「いえ・・・そういうわけじゃないけど・・・でも・・・」

「物事が上手くいかないと、何でも誰が悪いのあれが悪いのって。あたしさ、そういうのって好きじゃないのよね」

「えっ・・・?」

「上手くいけば自分の手柄、んでもって、上手くいかなければ誰かが悪い自分は悪くないって。そういうのって、あたし嫌いなのよ」

「それは・・・」

「んでもって、離婚してから、あたしの悪口三昧と来た日にゃ。んじゃ、なんで、あたしなんかと結婚したのよ?って、なるじゃない?」

「でも、それは、やっぱり、最初はそうなるとは思ってなかったわけだし」

「あんたの言いたい事は分かるわよ。でもね、あたしは違う・・・。自分で選んで自分で決めたんなら、たとへ、その先に、自分の不幸が待っていたとしても、あたしは決して後悔なんてしないし。ましてや、相手の悪口なんて言ったら、それこそ、自分で自分の生きた時間を、自分で否定してるみたいになるじゃない?」

「えっ・・・?」

「あたしは、そうまでして頑張った自分のことを自分で守ってあげたいの・・・。自分が生きた時間を後悔で終わらせたくないのよ・・・」

「それじゃ、離婚してから、京子の悪口を言わなかった理由って・・・」

「そうよ・・・。あたしが京子の悪口を言ったりしたら、あたしと一緒に生きていた頃の京子が可哀そうじゃない?」

「えっ・・・?」

「だから・・・う~ん・・・。それじゃね、時間をスライスして考えてみなさい。そうすれば分かるから」

「いえ・・・あの・・・それじゃ、よけいに分からなくなってしまうのでは・・・?」

「んもう~、んじゃね。京子があたしと一緒にご飯を食べている時間にタイムワープしましょ?」

「えっ・・・?」

「ほら、京子が美味しそうにご飯を食べている姿が浮かんできたでしょ?」

「えっ・・・あっ・・・はい・・・」

「今、あんたの頭の中に浮かんでいる、美味しそうにご飯を食べている京子に悪口を言ってみなさいな?」

「あ・・・あの・・・」

「そしたら、京子が可哀そうじゃないのよ?違うかしら?」

「あっ・・・」

直美は、夏樹が何を言いたいのか、何となく分かったような気がした。
夏樹さんは・・・京子と過ごした時間の中に生きている。
夏樹さんと生きるために、一生懸命だった頃の京子を守ってあげたいのかもしれない。

少しオカルト的な考え方なのかもしれないが、それでも・・・。
それでも、そんな風に、あの頃、あの日、あの時間に確かに生きていた京子がいたことを、
忘れようとしない人が、京子には一人だけいてくれている。

どんなに京子が、夏樹の悪口を言おうが、夏樹との時間を後悔しようが、
京子が楽しかったその瞬間を、守ろうとしてくれている夏樹がいる。
まるで、思い出の写真を、アルバムに並べて大切に保管するように。
京子が生きた、その瞬間、その瞬間を守ろうとする夏樹がいることに、直美は、そんな京子が羨ましくさえ思えてしまうのである。

「あんたが、京子にとって一番大切な存在だから、ここまで話したのよ」

「あっ・・・はい・・・」

「あとは、京子にどこまで話すのか・・・。京子と、今後どう付き合っていくのかは、あんた自身で決めなさい」

直美は、夏樹と過ごした時間を思い出しながら、運転席に座ったままぼんやりと窓の外を眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

処理中です...