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記憶の欠片
記憶の欠片・・・その5
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夏樹との日々を後悔という言葉で幕を閉じた京子・・・。
そして、京子と暮らした日々を後悔という言葉で閉じなかった夏樹・・・。
直美は、夏樹の言葉に、自分の離婚の時を思い出していた。
「あたしが京子のことを二度恨んだと言ったわよね」
「ええ・・・」
「一度目は、あたしに彼女を見捨てるような真似をさせたこと・・・」
「見捨てる・・・?」
「そして二度目は、それなのに京子は、自分の選んだ人生を自ら後悔したこと・・・」
「でも、それは・・・」
「それは、な~に・・・?」
「京子にしてみれば、まさか夏樹さんがって思ったから・・・」
「まさか、あたしがな~に?借金だらけになったとかってこと?」
「ええ・・・まあ・・・」
「あんたね、自分が納得するような結果や結末にならないと何でも後悔するわけ?」
「いえ・・・そういうわけじゃないけど・・・でも・・・」
「物事が上手くいかないと、何でも誰が悪いのあれが悪いのって。あたしさ、そういうのって好きじゃないのよね」
「えっ・・・?」
「上手くいけば自分の手柄、んでもって、上手くいかなければ誰かが悪い自分は悪くないって。そういうのって、あたし嫌いなのよ」
「それは・・・」
「んでもって、離婚してから、あたしの悪口三昧と来た日にゃ。んじゃ、なんで、あたしなんかと結婚したのよ?って、なるじゃない?」
「でも、それは、やっぱり、最初はそうなるとは思ってなかったわけだし」
「あんたの言いたい事は分かるわよ。でもね、あたしは違う・・・。自分で選んで自分で決めたんなら、たとへ、その先に、自分の不幸が待っていたとしても、あたしは決して後悔なんてしないし。ましてや、相手の悪口なんて言ったら、それこそ、自分で自分の生きた時間を、自分で否定してるみたいになるじゃない?」
「えっ・・・?」
「あたしは、そうまでして頑張った自分のことを自分で守ってあげたいの・・・。自分が生きた時間を後悔で終わらせたくないのよ・・・」
「それじゃ、離婚してから、京子の悪口を言わなかった理由って・・・」
「そうよ・・・。あたしが京子の悪口を言ったりしたら、あたしと一緒に生きていた頃の京子が可哀そうじゃない?」
「えっ・・・?」
「だから・・・う~ん・・・。それじゃね、時間をスライスして考えてみなさい。そうすれば分かるから」
「いえ・・・あの・・・それじゃ、よけいに分からなくなってしまうのでは・・・?」
「んもう~、んじゃね。京子があたしと一緒にご飯を食べている時間にタイムワープしましょ?」
「えっ・・・?」
「ほら、京子が美味しそうにご飯を食べている姿が浮かんできたでしょ?」
「えっ・・・あっ・・・はい・・・」
「今、あんたの頭の中に浮かんでいる、美味しそうにご飯を食べている京子に悪口を言ってみなさいな?」
「あ・・・あの・・・」
「そしたら、京子が可哀そうじゃないのよ?違うかしら?」
「あっ・・・」
直美は、夏樹が何を言いたいのか、何となく分かったような気がした。
夏樹さんは・・・京子と過ごした時間の中に生きている。
夏樹さんと生きるために、一生懸命だった頃の京子を守ってあげたいのかもしれない。
少しオカルト的な考え方なのかもしれないが、それでも・・・。
それでも、そんな風に、あの頃、あの日、あの時間に確かに生きていた京子がいたことを、
忘れようとしない人が、京子には一人だけいてくれている。
どんなに京子が、夏樹の悪口を言おうが、夏樹との時間を後悔しようが、
京子が楽しかったその瞬間を、守ろうとしてくれている夏樹がいる。
まるで、思い出の写真を、アルバムに並べて大切に保管するように。
京子が生きた、その瞬間、その瞬間を守ろうとする夏樹がいることに、直美は、そんな京子が羨ましくさえ思えてしまうのである。
「あんたが、京子にとって一番大切な存在だから、ここまで話したのよ」
「あっ・・・はい・・・」
「あとは、京子にどこまで話すのか・・・。京子と、今後どう付き合っていくのかは、あんた自身で決めなさい」
直美は、夏樹と過ごした時間を思い出しながら、運転席に座ったままぼんやりと窓の外を眺めていた。
そして、京子と暮らした日々を後悔という言葉で閉じなかった夏樹・・・。
直美は、夏樹の言葉に、自分の離婚の時を思い出していた。
「あたしが京子のことを二度恨んだと言ったわよね」
「ええ・・・」
「一度目は、あたしに彼女を見捨てるような真似をさせたこと・・・」
「見捨てる・・・?」
「そして二度目は、それなのに京子は、自分の選んだ人生を自ら後悔したこと・・・」
「でも、それは・・・」
「それは、な~に・・・?」
「京子にしてみれば、まさか夏樹さんがって思ったから・・・」
「まさか、あたしがな~に?借金だらけになったとかってこと?」
「ええ・・・まあ・・・」
「あんたね、自分が納得するような結果や結末にならないと何でも後悔するわけ?」
「いえ・・・そういうわけじゃないけど・・・でも・・・」
「物事が上手くいかないと、何でも誰が悪いのあれが悪いのって。あたしさ、そういうのって好きじゃないのよね」
「えっ・・・?」
「上手くいけば自分の手柄、んでもって、上手くいかなければ誰かが悪い自分は悪くないって。そういうのって、あたし嫌いなのよ」
「それは・・・」
「んでもって、離婚してから、あたしの悪口三昧と来た日にゃ。んじゃ、なんで、あたしなんかと結婚したのよ?って、なるじゃない?」
「でも、それは、やっぱり、最初はそうなるとは思ってなかったわけだし」
「あんたの言いたい事は分かるわよ。でもね、あたしは違う・・・。自分で選んで自分で決めたんなら、たとへ、その先に、自分の不幸が待っていたとしても、あたしは決して後悔なんてしないし。ましてや、相手の悪口なんて言ったら、それこそ、自分で自分の生きた時間を、自分で否定してるみたいになるじゃない?」
「えっ・・・?」
「あたしは、そうまでして頑張った自分のことを自分で守ってあげたいの・・・。自分が生きた時間を後悔で終わらせたくないのよ・・・」
「それじゃ、離婚してから、京子の悪口を言わなかった理由って・・・」
「そうよ・・・。あたしが京子の悪口を言ったりしたら、あたしと一緒に生きていた頃の京子が可哀そうじゃない?」
「えっ・・・?」
「だから・・・う~ん・・・。それじゃね、時間をスライスして考えてみなさい。そうすれば分かるから」
「いえ・・・あの・・・それじゃ、よけいに分からなくなってしまうのでは・・・?」
「んもう~、んじゃね。京子があたしと一緒にご飯を食べている時間にタイムワープしましょ?」
「えっ・・・?」
「ほら、京子が美味しそうにご飯を食べている姿が浮かんできたでしょ?」
「えっ・・・あっ・・・はい・・・」
「今、あんたの頭の中に浮かんでいる、美味しそうにご飯を食べている京子に悪口を言ってみなさいな?」
「あ・・・あの・・・」
「そしたら、京子が可哀そうじゃないのよ?違うかしら?」
「あっ・・・」
直美は、夏樹が何を言いたいのか、何となく分かったような気がした。
夏樹さんは・・・京子と過ごした時間の中に生きている。
夏樹さんと生きるために、一生懸命だった頃の京子を守ってあげたいのかもしれない。
少しオカルト的な考え方なのかもしれないが、それでも・・・。
それでも、そんな風に、あの頃、あの日、あの時間に確かに生きていた京子がいたことを、
忘れようとしない人が、京子には一人だけいてくれている。
どんなに京子が、夏樹の悪口を言おうが、夏樹との時間を後悔しようが、
京子が楽しかったその瞬間を、守ろうとしてくれている夏樹がいる。
まるで、思い出の写真を、アルバムに並べて大切に保管するように。
京子が生きた、その瞬間、その瞬間を守ろうとする夏樹がいることに、直美は、そんな京子が羨ましくさえ思えてしまうのである。
「あんたが、京子にとって一番大切な存在だから、ここまで話したのよ」
「あっ・・・はい・・・」
「あとは、京子にどこまで話すのか・・・。京子と、今後どう付き合っていくのかは、あんた自身で決めなさい」
直美は、夏樹と過ごした時間を思い出しながら、運転席に座ったままぼんやりと窓の外を眺めていた。
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