愛して欲しいと言えたなら

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記憶の欠片

記憶の欠片・・・その4

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直美は、夏樹の言葉のニュアンスが変わったような気がした。
京子と別れてもいいと思ったと、確かに、今・・・夏樹さんが言った・・・。
いえ・・・その前に、夏樹さんと会うことで、会わせた彼氏が自分の彼女を失うかもしれないとも言った。

いったい、夏樹さんにとって、その女性って、どんな存在なのだろうか?
いえ・・・その逆もあるわよね?その女性にとっての夏樹さんって、いったい・・・。

「あの・・・京子と別れてもいいと思ったって、いったい、どういう事なんですか?」

「どうって・・・別に変わった意味はないわよ」

「変わった意味かどうかは分かりませんが、今、夏樹さんが言ったのって、もし、京子がその事を知って夏樹さんと別れるみたいなことを言い出したら、夏樹さんは京子とは別れるってことなんじゃないんですか?」

「その通りよ・・・。だから、別に変った意味はないわよって言ったじゃない?」

「ちょっと待って下さい・・・。それって、少し変ですよ」

「どうして、変なの・・・?」

「だって、それって、夏樹さんにとって、その彼女が一番で、京子が二番ってことになるんじゃないんですか?」

「一番だの、二番だのって、そんなのはどうでもいいのよ」

「どうでもいいって・・・。そんなわけないじゃないですか?」

「あら?あんたは、どうして、そんなに一番とか二番とかってことにこだわるの?」

「別にこだわってるわけじゃないですけど・・・。でも、なんか京子が可哀そうな感じがして・・・」

「そこが京子の魅力なのよね・・・。あ~困った京子だわ・・・」

「えっ・・・?」

「あんた、今さ。京子のことが可哀そうって思ったでしょ?」

「ええ・・・」

「あたしもそうだったのよ・・・。何かにつけては、京子が可哀そうになってしまうって思ってしまってね・・・。それで気がついたらさ、京子と20年も夫婦やってたんだもんね」

「何かにつけて・・・ですか?」

「そうよ・・・。それに、あんた、さっき言ってたけどさ。京子はいつも思っていたみたいなのよ。自分は二番なんじゃないかってね」

「京子が・・・?」

「夫婦だったあたしが言うんだから間違いないわよ」

「いえ・・・あの・・・そこって、自信を持って言うところではないような・・・」

「いいのよ、別に・・・。でもね、だからなんだろうね、京子は自分が一番になりたくて一生懸命頑張ってたのってさ。本当は京子が一番なのにね・・・。だから、可哀そうな子なのよ、京子って」

「えっ・・・でも、さっき、京子が別れるみたいなことを言ったら別れてもいいと思ってたって」

「あんたもバカね・・・。だから、京子には教えなかったんでしょ?」

「でも、その前に彼女と・・・いえ・・・」

「いえ・・・な~に・・・?」

「その彼女と会わないってわけにはいかないわけですよね?」

「もし、あんたがあたしの立場だったらどうする・・・?」

もし、自分が夏樹の立場だったら・・・その問いかけに、直美は少し考えてみた。

「あっ・・・ピョンちゃんが呼んでるみたいだから、カバさんを連れていくわね」

「ピョンちゃん・・・?」

ピョンちゃんって、もしかして、ウサギのぬいぐるみのことかしら?
でも・・・もし、私が夏樹さんの立場だったとしたら、どうしただろう?
直美は、自分だったと考えながら、縁側でぬいぐるみたちと楽しそうに話をしている夏樹を見ていた。
ほんの2~3分程、ぬいぐるみたちと話をして夏樹が戻ってきた。

「答えが、出たかしら?」

「ええ・・・。たぶん、私も、夏樹さんと同じ選択をしたと思います」

「それは、なぜ・・・?」

「失いたくないから・・・。きっと、夏樹さんにとっては、それが京子だった・・・。違います?」

「当たり・・・。だから、あたしにとって京子はいつも一番の存在だったの・・・。でも、京子は違ったみたいね」

「えっ・・・?どうしてですか?」

「京子は、後悔したからよ・・・」

「後悔っていうのは・・・?」

「あたしは、京子と一緒に歩いた年月を何一つとして後悔などしたことなんてなかった・・・。でも、京子はどうかしら?」

「後悔した・・・。それって・・・」

「そう・・・。京子は、あたしと生きた時間を後悔して幕を閉じたの・・・。それが、何を意味してるか分かるでしょ?」
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