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戻らない想い
戻らない想い・・・その20
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夏樹は、膝の上に乗せているカバのぬいぐるみのお耳をぐにゅぐにゅしながら、
寂しそうな表情を浮かべているのに、その目は寂しいというより、何かを恨むような強い目で、
直美の視線をそらすように、どこかの見えない空間の中にその視線を移していく。
「京子はね・・・。あたしを恨む事でしか生きていけないのよ」
直美は、静かに聞こえてきた言葉の先に、初めて見る夏樹の男の顔を見た。
「今のあたしになら、京子にも、そして子供たちにも何かをしてあげる事は出来るわ。お金が欲しいならお金もあげれるし、住宅が欲しいなら、それなりに恥ずかしくない住宅のひとつも買えるくらいなら出してあげれる。車が欲しいなら、どれでも好きな車の一台も買ってあげれる・・・。でもね・・・」
「でも・・・?」
「そこにあるのは、あたしを利用しようとする歪んだ感情だけ・・・」
「利用するだなんて・・・そんな言い方はちょっと・・・」
「でも・・・事実よ・・・。違うかしら?」
「でも、京子は別としても、子供たちは多かれ少なかれ親を利用するものじゃないかと思うのですが」
「それは普通の家族間での場合でしょ?」
「そう言われれば、確かに今は、夏樹さんと京子たちは普通の家族というわけではないですが・・・でも・・・」
「あんたの言いたい事は分かるわよ・・・。でもね・・・」
「夏樹さんの言いたい事も何となく分かります。きっと、京子や子供たちが夏樹さんに会いに来る。そして夏樹さんと親しくなろうとする理由は一つだけ。また夏樹さんを利用する事、そのためだけに夏樹さんに会いに来るということなんでしょ?」
「まあね。でもね、そんな事はどうでもいいことなの・・・」
「どうでもいいって・・・それとは違うんですか?」
「違うわ・・・。あたしが言いたいのはね。京子や子供たちが、そんな生き方をするために生まれてきたのかって事なのよ」
「そんな生き方を・・・?」
「あたしと出会った頃の京子は、ただ優しくて可愛い女の子だったし、子供たちだってそうよ。長男は少しお調子者だけど、とても優しい子。そして下の子は、何にでも興味がある好奇心の強い子だったわ。誰が想像したかしら?いったい誰が、京子や子供たちが、今のような心を持つようになるなんて想像したかしら?」
この人は・・・夏樹さんは物事のとらえ方、そして、そこから見えてくる人の心の中を理解しようとする考え方が他の人とはまるで違うんだわ。
そんな考え方をするために生まれてきたんじゃない・・・。
そして、そんな生き方をするために生きてきたんじゃない・・・。
京子が、親や親戚の反対を押し切ってまで、夏樹さんと一緒になろうとした気持ちが分かるような気がする。
それなのに・・・どうして、京子と夏樹さんがこんな風になってしまったんだろう・・・?
「京子が口にする悪口の始まりは、あたしに裏切られたという思いや、自分が辛い日々を送ってきた腹立たしさから始まった、あたしへの悪口だったはずなのに。いつの間にか、自分が被害者だと同情される話題へと言葉がすり替わっていく・・・。そして、知らず知らずのうちに、嘘や作り話まで話さないと気持ちが落ち着かなくなってしまう。そして、あたしを憎み続ける事でしか子供たちを引き止めることが出来なくなってしまっている、きっと京子は気がついているはず。でも、今度はそんな京子の話を聞かされ続けているうちに、子供たちまで、京子と同じような考え方をするようになってしまっていたとしたら、京子はこの先どうする?どうにかしたいと思ってもね、もう、どうする事も出来ないのよ、京子には・・・。だから、手遅れって言ったの」
「でも・・・」
「そして、京子の人生をそんな人生にしてしまったのは、全てあたしの責任なの」
「でも、何日か前に京子に会って話をした時は、そんなに夏樹さんの事を憎んでいるようには見えなかったですよ。どっちかっていうと、もう済んだ事だし過去の事だからって感じに思いましたけど」
「あんたがそう感じたんなら、きっと、そうかもしれないわね」
え・・・?どういう事・・・?
なぜ、夏樹さんは私の言葉を否定しなかったの?
今の夏樹さんの言葉は、今までの話の流れとは違うような気がするけど・・・。
「あんたさ、京子から雪子のことを何か聞いた・・・?」
「え・・・?いえ・・・何も聞いてませんけど・・・」
「やっぱりね・・・」
「やっぱりって・・・。いったい、どういう事なんですか?」
「去年の暮れにね、あたしが雪子と歩いている時に京子とすれ違ったのよ」
直美は、夏樹の言葉に驚いた・・・。
でも、それと同時に、京子が何を考えて自分に夏樹と再会したことを話したのか、
今、やっと、それを理解する事が出来たのだった。
寂しそうな表情を浮かべているのに、その目は寂しいというより、何かを恨むような強い目で、
直美の視線をそらすように、どこかの見えない空間の中にその視線を移していく。
「京子はね・・・。あたしを恨む事でしか生きていけないのよ」
直美は、静かに聞こえてきた言葉の先に、初めて見る夏樹の男の顔を見た。
「今のあたしになら、京子にも、そして子供たちにも何かをしてあげる事は出来るわ。お金が欲しいならお金もあげれるし、住宅が欲しいなら、それなりに恥ずかしくない住宅のひとつも買えるくらいなら出してあげれる。車が欲しいなら、どれでも好きな車の一台も買ってあげれる・・・。でもね・・・」
「でも・・・?」
「そこにあるのは、あたしを利用しようとする歪んだ感情だけ・・・」
「利用するだなんて・・・そんな言い方はちょっと・・・」
「でも・・・事実よ・・・。違うかしら?」
「でも、京子は別としても、子供たちは多かれ少なかれ親を利用するものじゃないかと思うのですが」
「それは普通の家族間での場合でしょ?」
「そう言われれば、確かに今は、夏樹さんと京子たちは普通の家族というわけではないですが・・・でも・・・」
「あんたの言いたい事は分かるわよ・・・。でもね・・・」
「夏樹さんの言いたい事も何となく分かります。きっと、京子や子供たちが夏樹さんに会いに来る。そして夏樹さんと親しくなろうとする理由は一つだけ。また夏樹さんを利用する事、そのためだけに夏樹さんに会いに来るということなんでしょ?」
「まあね。でもね、そんな事はどうでもいいことなの・・・」
「どうでもいいって・・・それとは違うんですか?」
「違うわ・・・。あたしが言いたいのはね。京子や子供たちが、そんな生き方をするために生まれてきたのかって事なのよ」
「そんな生き方を・・・?」
「あたしと出会った頃の京子は、ただ優しくて可愛い女の子だったし、子供たちだってそうよ。長男は少しお調子者だけど、とても優しい子。そして下の子は、何にでも興味がある好奇心の強い子だったわ。誰が想像したかしら?いったい誰が、京子や子供たちが、今のような心を持つようになるなんて想像したかしら?」
この人は・・・夏樹さんは物事のとらえ方、そして、そこから見えてくる人の心の中を理解しようとする考え方が他の人とはまるで違うんだわ。
そんな考え方をするために生まれてきたんじゃない・・・。
そして、そんな生き方をするために生きてきたんじゃない・・・。
京子が、親や親戚の反対を押し切ってまで、夏樹さんと一緒になろうとした気持ちが分かるような気がする。
それなのに・・・どうして、京子と夏樹さんがこんな風になってしまったんだろう・・・?
「京子が口にする悪口の始まりは、あたしに裏切られたという思いや、自分が辛い日々を送ってきた腹立たしさから始まった、あたしへの悪口だったはずなのに。いつの間にか、自分が被害者だと同情される話題へと言葉がすり替わっていく・・・。そして、知らず知らずのうちに、嘘や作り話まで話さないと気持ちが落ち着かなくなってしまう。そして、あたしを憎み続ける事でしか子供たちを引き止めることが出来なくなってしまっている、きっと京子は気がついているはず。でも、今度はそんな京子の話を聞かされ続けているうちに、子供たちまで、京子と同じような考え方をするようになってしまっていたとしたら、京子はこの先どうする?どうにかしたいと思ってもね、もう、どうする事も出来ないのよ、京子には・・・。だから、手遅れって言ったの」
「でも・・・」
「そして、京子の人生をそんな人生にしてしまったのは、全てあたしの責任なの」
「でも、何日か前に京子に会って話をした時は、そんなに夏樹さんの事を憎んでいるようには見えなかったですよ。どっちかっていうと、もう済んだ事だし過去の事だからって感じに思いましたけど」
「あんたがそう感じたんなら、きっと、そうかもしれないわね」
え・・・?どういう事・・・?
なぜ、夏樹さんは私の言葉を否定しなかったの?
今の夏樹さんの言葉は、今までの話の流れとは違うような気がするけど・・・。
「あんたさ、京子から雪子のことを何か聞いた・・・?」
「え・・・?いえ・・・何も聞いてませんけど・・・」
「やっぱりね・・・」
「やっぱりって・・・。いったい、どういう事なんですか?」
「去年の暮れにね、あたしが雪子と歩いている時に京子とすれ違ったのよ」
直美は、夏樹の言葉に驚いた・・・。
でも、それと同時に、京子が何を考えて自分に夏樹と再会したことを話したのか、
今、やっと、それを理解する事が出来たのだった。
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