愛して欲しいと言えたなら

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戻らない想い

戻らない想い・・・その16

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コーヒーのおかわりはいかがかしら?・・・と、言いながら、
夏樹は、膝の上に乗せていたカバのぬいぐるみを隣の席に置いて、
テーブルの上のカップにコーヒーを入れながら言葉を続けた。

「まあ・・・ちょっと、お話が違う方へ飛んじゃったけど、あたしが言いたいのは簡単なことなのよ」

「簡単なこと・・・?京子の子供たちのことですか?」

「そうよ。京子が、子供たちに何に怯えているのかって言うとね」

隣の席に置いたカバのぬいぐるみを、また、膝の上に乗せて、なぜか、カバの耳をモミモミしている。

「京子が、あたしにした事と同じ事を、今度は、子供たちが自分に対してしてくるんじゃないかってことなの」

「京子が夏樹さんに・・・ですか?」

「う~ん。そう言うと、ちょっと難しいかもしれないわね」

「出来れば、簡単な方が・・・」

「そうね。とってもシンプルな言い方をすれば、子供たちが京子と同じような性格になってしまっていたら?って、ことなのよ」

「京子と、同じような性格?」

「そう。同情の仕方や手のひらの返し方、それから、自分が同情されるための作り話の作り方。まあ、他にも色々あるけど」

「それを子供たちが見ていたと・・・。そういうことですか?」

「そうよ。もし、母親がやってきたことを否定するなら、子供たちは京子を捨てるでしょうね」

「もし、その逆だったら・・・」

「京子があたしにしたようなことを、今度は、京子自身が子供たちにされてしまう・・・。でもね、それだけなら、まだ、いいんだけど」

「それを京子にではなくて、子供たちが、この先、生きていくのに普通に使うようになってしまっていたら・・・」

「分かるでしょ・・・。京子が何に怯えているのか。そして、何に対して恐怖しているのかが」

「恐怖は、自分に向けられるかも?。そして、怯えは、京子にではなく、京子以外の人たちに向けられたら・・・」

「分かりやすく言えばね・・・」

そう言った夏樹が、寂しそうに呟いた。

「だから、あの時言ったのよ。これからは、子供たちの持ってくる災いは、全て、あんたが被ることになるのよ!って」

「怖い存在である父親がいなくなるということは・・・と、いうことなんですね」

「まあね・・・。でもね、一番の問題は、京子が、自分自身に、そういう悪い性格があるって気が付いていないことなの」

「気が付いていない・・・?」

「だから、さっき言ったでしょ?京子って、とっても優しい性格の女性だって」

「それは、分かりますけど・・・」

「京子が、悪い事だとか、卑怯な事だって自分で気がついていたら、そんなことをすると思う?」

「あっ・・・」

直美は、夏樹と話をしていると時々驚かされるのだが。今もまた夏樹の考え方に驚かされてしまった。
その驚きは、夏樹の考え方というよりも、京子を見ている夏樹の想いと言った方が正解かもしれない。

この人は・・・夏樹さんは、京子のことを責めるのではなく心配してるのだろうか・・・。

普通なら、自分がされたことや、嘘で作り上げた自分への悪口に対して文句の一つも言うのが普通なのに、夏樹さんの言葉は、京子を守りたくても守れない今の自分を責めているように聞こえてくる。

「あの時、京子は、怒るべきだったのよ」

「あの時っていうのは・・・?」

「ん?子供たちが嘘をついた時のことよ」

「嘘をというのは、さっき言ってた自分の進路とか高校中退とかのことですか?」

「そうよ。それは父親に言われたからではなくて、自分で決めたことでしょっ!ってね」

「でも、どうして、父親のせいになんてしたんでしょうか?」

「子供たちが、母親である京子のことをナメてるからよ」

「でも、京子って、そんなに軽く見られてるんですか?」

「友達のあんたの目線から見る京子と、子供たちの目線から見る京子は違うのよ」

「でも・・・ちょっとは、母親のことが怖いとかって思うもんじゃないんですか?」

「あの子たちは違うわね。どうせ、そんな強気なことを言ったって、僕たちがいなくなったら困るんでしょ?程度にしか思ってないわよ」

「どうしてですか・・・?」

「さっきも言ったでしょ?京子の世間体っていうのは異常だって。そのことは、誰よりも子供たちが知ってるのよ」

「あっ・・・」

「それに、京子は長女でも、上にお兄さんがいるでしょ?とすれば、どんなに自分が困っても自分の実家には出戻りなんて出来ないって考えるから、もし、子供たちに去られたら、いったい、誰に頼るっていうの?」

確かに、夏樹さんの言う通りかもしれない・・・。

京子の異常なまでの世間体が本当だとしたら、
子供たちに去られるということは絶対に避けたいと考えるはず。
もし、そんな京子の考え方を子供たちが知っているとしたら・・・。

京子は、自分が、子供たちに利用されてると分かっていても、
子供たちに軽く思われていると分かっていても、どこかで、子供たちの機嫌を損ねないようにと、
そんなことを考えながら生きていくことになってしまうのかもしれない。

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