愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
90 / 386
戻らない想い

戻らない想い・・・その10

しおりを挟む
「まだ、あるわよ・・・」

「他にも・・・あるんですか?」

「これは、あたしが子供たちに言われてきた言葉なんだけけどね」

「夏樹さんが・・・?」

「ええそうよ。もし、父さんが独身だったらきっと事業は成功してたと思うよ・・・。ってね」

「それって・・・もしかして」

「そういうこと。子供たちがどんな気持ちで、あたしにそんな言葉を言っていたのか?までは、分からないけどね」

「でも、なんとなく夏樹さんのお仕事を京子が邪魔しているっていうか、足を引っ張ってるっていうか・・・そういうことなんですか?」

「それもあると思うけど。でも、あたしが感じたのはちょっと違うわね」

「違うって・・・どんな風にですか?」

「子供たちは多分こう思ってたんじゃないかしら?京子がいるために、あたしが自分の力をセーブしているって」

「セーブしている・・・ですか」

「たぶんね。だから、こんなこともよく言ってたのよ。父さんは周りのことなんか気にしないで自分の好きなように仕事をすればいいんだよって・・・」

「周りのこと・・・?」

「この周りのことって言うのは、京子の世間体のことなのよ」

「あっ・・・でも、京子ってそんなに世間体とかって気にしてたんですか?」

「気にしてたも、何も、子供たちまでそのことを口にしてたのよ。お母さんはいつも世間体ばっかり気にしてるってね」

「それで、京子が公務員と一緒になればよかったんだって・・・」

「まあ、そういうことになるわね」

「そんな京子なんて今まで全然知りませんでした。それに、ちょっと信じられないっていうか・・・」

「でもね、それは京子の性格であって、別に、それが悪いとかってことじゃないのよ」

「でも・・・」

「なんか、京子の悪いところばかり言ったけどさ。でもね、京子は京子で良いところも沢山あるのよ」

「良いところ・・・ですか?」

「そうよ。京子ってとっても優しいし、よく気がつくし。それに、いつでも、あたしだけを見つめていたしね」

「ですよね・・・。やっぱり、京子って優しいですよね」

「ええ、そうよ・・・。だから、京子が悪いとかどうとかってことじゃないのよ。悪いのは、あたし。あたしが、そんな京子に甘えていたから、いつの間にか、京子自身が自分の感情をコントロール出来なくなっていったんだと思うの」

「自分の感情・・・?」

「ええ、誰にも分からないような京子の悪い感情は、はじめは小さな感情だったのに。それが、だんだん大きくなってきて、知らず知らずのうちに子供たちにまで、そんな京子の感情が分かるようになってしまったの。そして、そんな京子の感情の暴走を、あたしは止めもしないで見て見ぬふりをしてきた結果が離婚って終わりになったのよ」

「でも・・・」

「いつか、京子は分かってくれる・・・。そんな甘い考えがあたしの中にあったのよ。だから、あたしは、いつも、京子には優しく接していたんだけど、そのことがかえって仇になっちゃったってことよね」

「それで、さっき、もっと早くに冷たい人になっていたらって言ってたんですね?」

「ええ・・・。だから、心の優しい京子を今のような京子にしてしまったのはあたしなの・・・。あたしが京子をダメにしてしまったの」

夏樹の話を聞いていた直美は、夏樹という人間が自分が思っていた通りの人間だったと思った。
自分が考えていた夏樹という人間像は間違っていなかった・・・
それなのに、なぜ?不幸が姿を現してしまう未来が存在していたのだろうか?

「京子はね、あたしと離婚して、初めて、寂しいという言葉の意味を知ったの」

「でも・・・それは、誰でも・・・」

「そして、あたしは、京子と離婚して、やっと、寂しいという気持ちから解放されたのよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

処理中です...